アマンの初代GM、リゾート界のレジェンドが語る「セレブを呼び込む美食」

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アンソニー・ラーク(58)。リゾート好きなら知らない人はいない、27歳の若さでアマングループ初のリゾート、アマンプリのゼネラル・マネージャーになった人物だ。

そんなラークが、アマングループの5つのリゾートの立ち上げに関わったのち、12年過ごしたアマンを離れ、自分が思い描く理想のリゾートを作りたいとオープンしたのが、タイ・プーケットのトリサラリゾートだ。

まるで自然の中に溶け込むような、完璧な静寂を生み出しているのは、元々この土地で育っていた植物たち。元の生態系を守るために、一旦開発をした後、元々あった木を植え直すという、手間のかかる作業をあえて行った。500室の大型リゾートが可能な敷地に、わずか39室だけという贅沢な作り。各ヴィラは独立していて、それぞれに玄関があり、全てにプライベートプールが付いている。

「好きなデザインにして良いと言われたので、最初に出資者に見取り図を提出したら、『で、ホテルはどこにあるんだ?』と聞かれました」と笑う。

ゆったりと幅広に作ったベッドの真正面には、海にそのままつながるように見えるインフィニティプール。隣り合ったヴィラ同士は、植物が自然の目隠しとなり、目の前の海は両端を岩場に守られた事実上のプライベートビーチのため、完全なプライバシーが守られている。水着を持ってきても、その必要性を忘れてしまいそうな、そんな場所だ。



室内にも、余計なものはない。バスアメニティも、いわゆるラグジュアリーなブランド物ではない。無駄なものを削ぎ落とした、社会生活の鎧を脱ぎ捨てる場所にしたい、そんな強い意志を感じる。その代わりにあるのは、人の温もりだ。朝食でも、部屋番号を聞かれず、名前で呼ばれる。

ラークは、「自分の家に招いたつもりでゲストを迎えています。超高級なエアビーアンドビー? そうかもしれませんね」と冗談交じりに話す。

分譲エリアを加えると129ベッドルームからなるリゾートには、450人のスタッフがいるのだと言う。また、エコリゾートの考えに基づき、室内には、シャワーキャップなどの一部のものを除いては、一切ビニール製の製品はない。置かれている虫除けは天然のハーブエキスを使ったもので、屋内屋外共に、殺虫剤などは一切使わないなど、時代を超えた確固たる信念に基づいて作られたことがわかる。



しかし、それでもリゾートは毎日進化し続けていないといけないのだ、とラークは言う。

「ふとしたきっかけで、今から20年前のリゾートのランキングを見てみましたが、今もトップを走り続けているリゾートはありません」と、時代の変化に適合する必要性を強調する。トリサラは今も昔と変わらず、プーケットを代表するリゾートだが、それでもなお、革新が必要というのは、なぜなのか。


写真左がアンソニー・ラーク氏(右はタイの著名レストラン『レドゥ』のシェフ)

その背景にあるのは、この20年での客層の変化だ。トリサラは宿泊だけで一泊1000米ドルする高級リゾートで、かつてはゲストの年齢層は高めだったが、近年、ロシアや中国から25〜45歳の若い滞在客が急増しているのだ。

「こういった若い世代は、ビーチとプールでくつろぐだけではなく、より体験型の休日を好む。だからこそ、リゾートとしては、滞在客に、いかにクリエイティブな滞在を提案できるかが鍵となる。食事、健康、スパやフィットネスなどです」

その言葉を体現するのが、去年12月に行われた大規模な改装だ。新しい印象を与えるため、スパのブランドを変え、ジムの機材を一新した。一部の部屋を、重厚なチーク色の木材ではなく、軽やかな印象のあるベージュ色に変え、やや小さめのサイズに変更した。

また、近年の健康志向も相まって、体の内側から浄化される感覚、というのも大切な要素の一つだ。実際に、朝食会場には、「デトックス」や「美肌のため」などとうたい、プロテイン、ビタミンCなどの栄養素が明記された様々な「目的別」自家製フレッシュジュースが並べられている。


「目的別」の自家製フレッシュジュース

さらに大きな変革といえば、新しく、ファームトゥーテーブルがコンセプトのレストラン「プルー(PRU)」をオープンしたことだろう。ありきたりの食事とは一線を画した、主にタイ産食材、中でも自家農園の食材を20%ほど使った、目にも美しい料理を提供している。


プルーの料理

PRUとは、自家農園の地名「Pru Jampa」と、Plant(植える)・Raise(育てる)・Understand(理解する)というレストランのモットーの頭文字をとった名前。28歳のシェフ、ジム・オフォーストは、リゾートから車で20分ほどの場所にある広大な農場に週に何度も足を運び、鶏や鴨の卵、野菜やエディブルフラワー、ハーブなどを収穫している。

「毎朝スタッフが収穫してくれるので、行かなくても良いのですが、やはり自分の目で農園を見ることで、新しいアイデアが生まれることも多いのです。子どもの頃から、農村地帯で育った私にとって、植物に触れるのは重要なことなのです」


ジム・オフォーストシェフ

実際に食事をして感じたのは、リアリティのある食事だ。オフォーストはオランダ人だが、外国人シェフが地元の食材を物珍しいものとして使うのではなく、しっかりとこの地に根を下ろした、食文化の理解に基づいた料理を作っていると感じた。今年2月に、トリサラのフロントで働くタイ人女性と結婚したのも、これからの彼のタイの文化への理解をより深くするのではないかと思う。

プルーでは、1〜2か月に一度、定期的にフードイベントを行なっている。「何か常に新しいことが起きている、という革新性が、今のリゾートには必要。こうしたポップアップもその一環です」とラークは語る。

宿泊客の多くは、リゾートから足を踏み出すことなく過ごす。そんな中で、食事は重要なエンターテインメントだ。そして、最高級リゾートには、必然的に最高級のエンターテインメントたる食事が必要となる。

「レストラン自体の収益は考えていません。ただ、トリサラに来る滞在客は通常3泊から10泊をここで過ごします。リゾートを選択する際に、食が重要な要素を占めることを考えると、私たちが選ばれるためにも、魅力的なレストランを持つことは大切なのです」

今年11月にも、アジアのベストレストランのメインスポンサーでもあるサンペリグリノ、またそのオンラインプラットフォーム、ファインダイニングラバーズ共催のイベントを行った。現在アジアのベストレストラン37位であり、プルー同様タイの食文化を表現しているレストラン、レドゥのティティド・タッサナカジョンシェフを招き、2日間に渡って特別なディナーを提供したのだ。


レドゥの料理

人気でなかなか予約が取れないレドゥとあり、中にはバンコク在住ながら「希望の日時でレドゥの予約が取れなかったから」と、わざわざ飛行機に乗ってこのポップアップにやって来たカップルもいたようで、リゾートへの集客にも一役買っているのは確かなようだ。

また、このリゾートには、99年の居住権を持つ24の分譲用のヴィラもあり、2〜6ベッドルームが260万ドル〜1050万ドル(約2.9億円〜11.8億円)で販売されている。管理はリゾートが行い、オーナーは、自分が使わない時期はリゾートのウェブサイトを経由でホテルの部屋同様に貸し出すこともできるため、投資として購入するヨーロッパやシンガポール、香港の富裕層もいるという。

11月、タイ国内外からのメディアを対象にした行われたイベントでは、7ベッドルームある分譲エリアのヴィラで、タッサナカジョンによるスペシャルランチが提供された。この料理を楽しみにやってきた、と言うメディアも多く見られた。

ダイニングエリアでの食事だけでなく、ヴィラのキッチンで作り方を説明するマスタークラスも同時に行うことで、有名シェフの食を切り口に、”プロのシェフも料理ができるほどの充実したキッチンがあるヴィラ”の紹介も同時に行えるというわけだ。

食と旅は、切っても切り離せない。都市に人を呼び込むためのガストロツーリズムの波は、世界に広がりつつある。そしてそれは個別の最高級リゾートにも及んでいるのだ。

「革新を表現し、滞在を決める要因として、料理はとても重要です」とラーク氏も強調する。そして、ただ高級な食材を使った料理ではなく、どのようにその地域の魅力を解釈し、洗練された料理の形で表現していくのか、その土地でしか表現できないガストロノミーが、今後さらに求められていくのだろう。


ヴィラからの夕景