『全員死刑』の「急にどうした」感 小林勇貴監督は異様な原作をいかに映画化したか?

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 マンガに小説、まさに実写化ブーム真っ盛りであるが、『我が一家全員死刑』が実写になると聞いたとき、私は耳を疑うと同時に、一読者として平凡な疑問を抱いた。「あの原作をちゃんと映像化できるのだろうか?」と。それくらいこの本は特殊なのである。

参考:間宮祥太朗が語る、殺人鬼役への葛藤と覚悟 「彼らは我々とまったく違う人間でもない」

 この本は2004年に起きた大牟田4人殺害事件で、実際に犯行に加わったヤクザ一家の次男による獄中手記(※著者の鈴木智彦氏は取材をした人であり、殺人は行っていない)なのだが、ただでさえ信じられないほど行き当たりばったりな殺人が行われる上に、語り口が独特なのだ。特に最後に示される唐突な一言が強烈極まりない。タイトルにもある通り、本作を書いた次男は死刑が決定している。人間が4人も死んでいる実際の事件で、その凶行について語りまくり、おまけに死刑判決を受けているのに、彼は告白の最後にこう書くのだ。「GOOD LUCK」と。

 率直に言うと、「急にどうした」である。どう考えてもGOOD LUCK(「幸運を!」「がんばれ!」)と言う状況ではないのだが、何故そう書いてあるのか。私にはサッパリ分からなかった。しかし、ワケが分からないからこそ、私はこの「GOOD LUCK」の部分が強烈に頭に残ったのである。そして実写化するにあたって、この「GOOD LUCK」感はあるだろうかと心配したのだが……すべては杞憂に終わった。

 実写版こと『全員死刑』は、ブラックなコメディであり、ホラーであり、時に第四の壁すら無視するジャンル分け不能な映画だ。本作の監督・小林勇貴は、自主製作映画『孤高の遠吠え(15年)』で名を挙げた。本物の不良が出演していることで話題になった同作だが、強面なメインビジュアルからは意外と言っていいほど、随所にキレのいいギャグが散りばめられている(シャレにならないボケもあるが、その是非は一旦脇に置く)。そんな隙あらばボケてくるスタイルは『全員死刑』でも健在だ。

 小林監督は「映画」というものを遊び倒している。オープニングには女性器マークを大写しにしたかと思えば、突然、テンション高めの音楽をバックにPV風のスタイリッシュな演出が始まる。さらには本編と全く関係のない自慰シーンを何故か神々しく、しかもけっこうな尺を割いて丁寧に描く。

 では、ふざけきった映画なのかと思っていると、今度は笑いの直後にリアルに頭が吹っ飛ぶシリアスなシーンを入れてくる。こうして映画のムードが激しくシャッフルされるうちに、どんな気分で見ればいいのか分からなくなってくるのだ。「急にどうした」の連続である。

 しかし、この「急にどうした」という感覚こそ、原作『我が一家全員死刑』の肝なのだ。事件の流れや要所はなぞっているが、映画と実際の事件は大きく異なる(そもそも実際の犯人は元力士の巨漢である)。しかし、それでも本作は「原作」を忠実に再現していると言えるだろう。これは大牟田4人殺害事件の映画化ではなく、『我が一家全員死刑』の映画化なのだから。本作には、あの原作にあった異様な雰囲気が確かにあった。細かい問題もあるが、ひとまずそれだけは間違いない。GOOD LUCK!(加藤よしき)