ランボルギーニのタイムを破ったニュル最速の量産車

 ノルドシュライフェ(ニュルブルクリンク北コース)で最速の量産車であること。それはポルシェにとって必然であり、常に保持しなければならないタイトルである。ポルシェがそれを公言したわけではないが、911を筆頭にスポーツカーの世界を牽引してきた自動車メーカーとして、イタリアの猛牛、ランボルギーニ・ウラカン・ペルフォルマンテに、ニュル最速の座を奪われた事実。それをプライドが許さないことは想像に難しくない。

 6分52秒01というタイムを含めて、ポルシェを本気にさせるのに、そう時間はかからなかった。2017年9月に開催されたフランクフルト・ショーに、突如現れた911 GT2 RSに誰もが驚かされたに違いない。さらに衝撃的だったのは、ニュルのタイトルホルダーであるペルフォルマンテを約5秒も上回る6分47秒というラップタイム。あの918より約10秒も速いと聞いて、ポルシェの本気度がひしひしと伝わってきた。

 とはいえ、個人的には少し違和感があった。あまりに急なデビュー。それは911のラインアップ順が少しばかり崩れたからだ。これまでのGT3からGT3 RS、その後にターボのGT2(タイプ997では最後にGT2 RS)という一連の流れに反してのプレスローンチ。ただし、よく考えてみると、580馬力を誇るターボSに、607馬力の“エクスクルーシブ・シリーズ”が設定されているから、これが事実上のGT2(駆動方式はAWD)というポジショニングなのかもしれない。いや、一刻も早く、ニュル最速の座を取り戻すために、いつもの法則を無視したのではないだろうか……。

 ことの真相はともあれ、史上最強・最速の911であるGT2 RSのプロフィールは強烈極まりない。なにしろ軽量化を狙って、4WDシステムをキャンセルしての700馬力/750N・mというパワースペック。2WDの700馬力と聞いて、身構えないドライバーはいないだろう。モンスター感がプンプンと臭ってくる。フラット6エンジン(水平対向6気筒エンジン)はターボ用の3.8リッターをベースとするが、ピストンやターボシステムはもちろん専用設計されている。

 RSを冠するモデルのイメージからすると、日常性に欠けるような印象を持ってしまいがちだが、今度もまたいい意味で裏切られた。

 ロードホールディング性と乗り心地の良さ、ターボゆえの静粛性。どれも申し分ない。ターボ系を起源とするだけに、GT3系とは比べればラグジュアリーでさえある。しかしながら一般道においては、スロットルの扱いには注意が必要だ。それが高速ステージであっても……である。

 その加速は想像を絶した。あくまで制限速度内であってもまわりを走るクルマが完全停止しているかの如く、戦闘機、いやロケットに跨っているかのような異質な感覚さえ抱く瞬間移動を体験した。公道では体感したことのない加速G。やはりサーキットでなければ、そのパフォーマンスを解き放つことができないと悟るのにも時間は要しなかった。

富士スピードウェイなら間違いなく300km/hを超える

 ポルトガルのアルガルヴェ・サーキット。テスト車両はカーボン製のスタビライザーやチタンマフラーなどを採用し、さらに約30kgも軽いヴァイザッハ・パッケージ仕様が用意されていた。ちなみに6点式のハーネスとチタン製ロールゲージをパッケージオプション化したクラブスポーツ仕様も、いつもながら設定されている。

 先導車両が918という、テンションの上がるポルシェの演出に感謝しながらも、1ラップしてメインストレートに戻ってくると、その真なる理由を理解した。逆に918でなければその役目をまっとうできなかったのだ。それほどGT2 RSが速いのである。

 ストレートではやや離されるが、車重が軽いためにコーナリングでは918の影を捉えることができる。メーター読みだが、ストレートエンドで最高速292km/hを確認。富士スピードウェイならば300km/hを超えるだろう。まさに超絶な速度領域に棲むモデルだが、ドライビング自体は7速PDKの恩恵もあって、操縦がしやすく、コクピットは快適に保たれているのだから凄いとしか言いようがない。

 最初はダウン、アップともにパドルシフトを駆使していたが、3速の加速が鋭すぎてレブリミッターに達してしまい、高速コーナーではシフトアップが遅れる可能性があったため、途中からDレンジに戻して走行した。ダウンシフトはパドル、アップシフトはシステムに任せる。これはGT3でも有効なテクニックだが、PDKのポテンシャルを最大限に引き出さないとエンジンパワーを使いきれない。それほどエンジンが速いのだ。

 7500rpmまで回るため、ターボユニットらしくないが、フロントのトランクリッド内に5リットルのウォーターサージタンクがあり、熱負荷が増した際に、水冷式インタークーラーに自動で水が噴射され、専用設計のミシュラン・パイロットスポーツカップ2(21インチ)とあわせて、全開ラップを重ねてもパフォーマンスダウンが少ないのも印象的だった。

 ポルシェの発表によると、350kgのダウンフォースを得ているというGT2 RSだが、フロントサイドにある大型ダクトはブレーキの冷却用としてだけでなく、911のレーシングGTマシン同様に、このエアベントはセンターラジエターを通過するエアフローをサポートしながらフロントタイヤのダウンフォースを高めている。その効果はとくに高速コーナーで発揮され、車体が軽いこともあって前を走る918を追い詰めることもできたというわけだ。GT2 RS、恐るべし!である。

「ニュルで速いと、世界中どこのサーキットでも速いですから」。

 ポルシェのモータースポーツ&GT部門開発責任者のフランク・シュテファン・ヴァリザー氏はそう語っていたが、日本のサーキットでGT2 RSが試す機会が待ち遠しいかぎりである。