座間市での連続殺人事件の犯行現場となったアパート(写真:Asanagi/Wikimedia Commons)

事件が起きたアパートは今後どうなる?

神奈川県座間市のアパートで9人の切断遺体が見つかった事件は、そのあまりにも猟奇的な内容もあって、世間に衝撃を与えた。現場となったアパートは繰り返しテレビに映し出され、場所もグーグルマップを使えば簡単に住所まで特定できる。オーナーとしては、なんとも痛恨の事件だろう。ここで1つ疑問が浮かぶ。こうした凄惨(せいさん)な事件が起きたアパートは、今後どうなるのかということだ。

本稿では、もし自分が所有する不動産がいわゆる「事故物件」になってしまった場合にどうしたらよいか。また、借りる側の立場から、事故物件を借りたり買ったりしないためにはどうしたらよいか、考えてみたいと思う。

不動産の賃貸や売買は、瞬時に大量の売買が行われる株式取引などと異なり、そのときに現れた借り手・買い手と、貸し手・売り手との個別交渉による相対取引だ。そのため、事故物件の相場ははっきりしないが、あくまで一般論としていえば「殺人」や「自殺」が発生したいわゆる「事故物件」の場合、賃料・売買価格ともに20〜30パーセント下がるのが相場である。

とりわけ、今回の事件のように、全国規模で大々的に報道され社会に知れ渡った部屋の場合は、半値かそれ以下になることもある。しかし、事件のあった部屋以外は、告知義務はない。したがって事実上の影響はともかく、原則として賃料・売買価格に影響はないだろう。

そもそも「事故物件」については不動産業界に明確な定義があるわけではなく、賃貸・売買の現場では、過去の判例に基づき、まちまちの運用をしているというのが実態だ。民法にも宅地建物取引業法にも事故物件の定義はなく「●年間告知せよと」といった縛りもない。ゆえに過去の裁判では、いわゆる「心理的瑕疵(かし)」の有無や程度について、事故の重大性や経過年数、買い主や借り主の使用目的、近隣住民に記憶が残っているかどうかなどを総合的に考慮し、事故の有無や損害の程度について個別に判決が下されてきた。

判例によれば、事故物件の扱いは賃貸と売買で異なるし、都市部と農村部でも異なる。たとえば、賃貸における事故物件の場合、次の借り主に対しては告知義務があるが、その次の借り手には告知する義務はないとした判例がある。これを悪用し、事故物件にいったん社員やアルバイトを住まわせすぐに退去させ、次は告知義務なしとして市場で流通させる不動産業者もいるようだ。知らぬ間に事故物件に住むことになってしまった人は、たまったものではない。

一方で売買の場合、5年から10年経過しても告知義務ありとした判例が多い。借りるのと買って住むのとでは、当事者に与える影響が違うからだ。また、都市ではなく農村部になると、さらに状況が変わる。地域における人の入れ替わりが少ないため、「近隣住民の事件の記憶はより長く残る」として、50年前の殺人事件についてであっても、売買時に告知義務があるとした判例がある。田舎のほうがオーナーにとっては厳しい状況が続くのだ。

では、住人が室内で自殺を図り、病院で死亡した場合はどうなるのか。この場合は、事故物件として告知義務があるかどうか、専門家の間でも意見が分かれるようだ。現実には室内ですでに死亡していたものの、あくまで医師の判断をもって最終的な確認がなされるため、形の上では病院で死亡と判定されるケースも想定されるためである。

注意したいのは、孤独死の場合は原則として「自然死」として扱われ、一般に事故物件として扱われることはないということだ。死体がその部屋にあったという事実で考えれば、事件でも自然死でも変わらないはずだが、扱いはそのようになっていない。ただし、死後時間が相当程度経過することで死体が腐乱し、異臭が出たような場合は別だ。こうなると事故物件扱いになることが多いため、孤独死が放置される事態はオーナーにとって死活問題である。

「心理的瑕疵」の感じ方は人それぞれではあるものの…

自殺があったものの、その後建物が取り壊されたケースにおいて、判例は真っ二つに分かれ、その影響がどの程度あったかについて個別に判断される。マンションなどで飛び降り自殺があった場合には、取引慣行としても告知するのが一般的だ。しかし、隣室で事故があった場合でも、そのことは告知されないことが多い。いずれにせよこうした「心理的瑕疵」をどう感じるかは、人によってその程度は大きく異なる。

敷地内で事故が起きた自己所有の不動産を賃貸・売却する場合は、事前に不動産業者・弁護士などの専門家に相談し、告知の必要があるかどうか、慎重に判断するのが賢明だ。判断を間違えると、後でトラブルになりかねない。また、こうした事故物件に住みたくない人は、その不動産を扱う不動産業者に直接、事故の有無を尋ねよう。こうしておけば、不動産業者が知っていて告知していない場合には責任を問えるからだ。売り主が黙っていて不動産業者が知らないケースに備え、「売り主に事故の有無を確認してください」としておけばベターだろう。

また、事故物件の情報を収集・公開しているサイト、「大島てる」を活用するのもいいだろう。ユーザーからの情報提供をグーグルマップで集約。該当物件の事故の有無、日付や事故の内容などを閲覧することができる。ただ、4万件以上の事故物件が登録されているが、このサイトに掲載されているのは情報提供があった不動産に限られ、あくまで氷山の一角であることは理解しておきたい。

一方、ここでは住居以外のホテルなどで起きた事故についても記載されているため、部屋を選ぶ際にこうした物件を避けることができる。また、自然死も一律に事故物件として登録されていることも特徴だ。告知されていなくても、自分が借りた、買った部屋で人が死んでいたという過去が発覚する可能性がある。

今回の事件が起きた座間のアパートのような事故物件であっても、家賃が安くなるならそれでよいと割り切る人もいるかもしれないが、大半の人にとってはネガティブに感じることであるのは事実だろう。「知らぬが仏」という言葉もあるが、住居は自分の生活そのもの。物件の過去については、買う、借りる前にきちんと調べたほうが安心できそうだ。