遠隔診療の解禁で何が変わる?(depositphotos.com)

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 2017年7月14日、厚労省は、都道府県知事に向けて「情報通信機器を用いた遠隔診療について」を一斉通知。遠隔診療だけで完結する禁煙外来もOK、メールやソーシャルネットワーキングサービス(SNS)を使う遠隔診療もOKになった。
 
 「厚労省、進んだな!」と感心するのは早とちり。最初の通知から悠々20年、直近の事務連絡から2年も浪費しているからだ。だが、20年の幾星霜と血税を投じただけはあるのだろう。「医師法第20条」などのブレーキがかからないように、遠隔診療の進め方を慎重に考え尽くした感がある。苦渋の判断は見て取れる。

 ちなみに医師法第20条の条文は以下の通り――。「医師は、自ら診察しないで治療をし、若しくは診断書若しくは処方せんを交付し、自ら出産に立ち会わないで出生証明書若しくは死産証書を交付し、又は自ら検案をしないで検案書を交付してはならない。但し、診療中の患者が受診後二十四時間以内に死亡した場合に交付する死亡診断書については、この限りでない」

禁煙外来は遠隔診療だけで完了してもOK

 先に触れたとおり、今回の事務連絡で新たに加えられたのは「保険者が実施する禁煙外来の条件」と「遠隔診療の手段」の2点だけだ。

 まず第1点。保険者が実施する禁煙外来は、患者の要請によって定期的な健康診断・健康診査が行われ、しかも医師が確定診断を下ししているならば、対面診療を行わなくても遠隔診療だけを行えば良い。

 また、患者の理由や状況によって、禁煙外来の診療が中断した場合も、遠隔診療だけで良い。要するに直接の対面診療が行われなくても、医師法第20条などに抵触しない。

 禁煙外来は、遠隔診療と相性が良いと言われる。喫煙は、ニコチン依存症、肺がん、心臓病などの高リスク因子なので、治療の緊急性が高いという医療経済の判断が働くため、対面診療も遠隔診療も柔軟に許容する医療の裁量性が発揮されているのだ。

 したがって禁煙外来は、ヘビースモーカーが一定の基準を満たせば、条件付きだが、条件を満たす喫煙者は健康保険が適用される。

 その条件とは、患者自らが禁煙を望み、ニコチン依存症診断用のスクリーニングテスト (TDS) で5点以上と診断されること、喫煙年数と1日の喫煙本数を掛けた値が200以上であること、治療に関する承諾書にサインすること、飲み薬(非ニコチン製剤バレニクリン)による治療は初診から12週間、貼り薬(ニコチンパッチ)による治療は初診から8週間が標準治療期間となること、医療機関が敷地内禁煙であることなどが必要になる。

 今回の通知によって、禁煙外来のすべての診療が遠隔診療で完結すれば、禁煙治療に新たなイノベーションが起きるため、患者の受ける恩恵はかなり大きい。

「ネクスト・スマホ」の最右翼・音声AIの「スマートスピーカー」とは何?

 今回の事務連絡の第2点は、遠隔診療の手段の許容度が広がったことだ。遠隔診療に携わる当事者が医師と患者本人であることが確認できれば、テレビ電話、電子メール、SNSなどの情報通信機器を組み合わせた遠隔診療が行えるようになったので、医師法第20条などに抵触しない。

 つまり、AI(人工知能)も情報通信機器に含まれることから、音声AI(会話型AI)のトピックが俄然、現実味を帯びてきた。

 スピーカーに話しかけて操作する「スマートスピーカー」は、いわば<AIの執事(アシスタント)>。執事の機能を家庭や病院などで手軽に利用できるようにスピーカーに埋め込んだ音声AI、それがスマートスピーカーだ。

 たとえば、聴きたい音楽を再生する、「今日の天気は?」と聞けば「晴れのち曇り」と答える、ニュースを読み上げる、部屋の照明をオン・オフするなど、AIが音声でレスポンスする。

 スマートスピーカーなら、音声入力なので、両手が自由に使える、スマホの小さい画面を見なくて済む、AIの機械学習によってユーザの思考や嗜好などを認識するため、使い続ければ、レスポンスの精度が高まるなどのメリットが強みだ。「ネクスト・スマホ」の最右翼と目されているだけはある。

スマートスピーカーの世界覇者は「Google」か「LINE」か「Amazon」か?

 スマートスピーカーのシェア争いは熾烈だ――。10月5日、米Googleは、Google Assistantを搭載した「Google Home」の日本版を発売すると発表。今夏、機能を絞った「先行版」を発売していた無料通信アプリのLINEもClovaを搭載した「WAVE」の正式版の発売を発表。

 2014年にスマートスピーカーの販売の先鞭をつけたAmazonも「Amazon Echo」の日本版を年内に発売する予定だ。

 Google、LINE、Amazon、IT先進企業の三つ巴になる「スマートスピーカー戦争」の火蓋が、遂に切って落とされた。中核事業の検索技術に音声認識技術を融合したGoogle、国内シェア(7000万人)を誇る「LINE」アプリとの連携を強めるLINE、ネット通販によるデリバリー力や日本企業との強いパートナーシップを活かすAmazon。果たして覇権の行方は?

 米国eMarketerの調査(2017年5月)によると、米国のスマートスピーカーの市場シェアは「Amazon Echo」が70.6%、「Google Home」が23.8%。月に一度はスマートスピーカーを使用するアメリカ人は3560万人だ。

 だが、日本市場なら、音声認識とのレスポンスの正確さやスピード感、コミュニケーションの親和性、ユーザのレビューの浸透度などが、スマートスピーカーが普及する決め手になるだろう。気になる小売価格は、「Google Home」は1万4000円(税抜き)。

 「WAVE」は本体と音楽配信サービス「LINEミュージック」12カ月分(月額960円)をセットにした1万2800円(税抜き)。「Amazon Echo」は未定だ。

スマートスピーカーと病気診断支援システムのコラボレーション

 少し長い前置きになった。「音声AIのスマートスピーカーを活用する音声分析サービス」と「病気診断支援システム」のコラボレーションが実現したらどうだろう? スマートスピーカーは、無線通信接続機能と音声再生のアシスタント機能を合わせ持つ。つまり、Wi-Fi、Bluetoothや他の規格を使用すれば、医療分野でも活用できる。

 たとえば、日立システムズは、声帯の変化(不随意反応)を分析し、スマホの音声データから心の状態を「見える化」する未病音声分析技術のMIMOSYS(ミモシス)を利用する「音声こころ分析サービス」を開発した。大脳辺縁系は、声帯と直接つながっているので、自分ではコントロールできない声帯の変化を分析すれば、心の状態を「見える化」できることから、病気の早期予防や治療に寄与できる。

 システムの流れはこうなる――。

 患者がふとつぶやいた「喉が痛い」「頭がふらふらする」「お腹がゆるい」などのリアルな音声データをスマートスピーカーが読み取り、記録する→音声データをクラウドに蓄積した膨大なデータと突き合わせる→「音声こころ分析サービス」が音声データを分析する→患者別の音声データの変化を蓄積する→AIが音声データの変化(強弱、高低、ペース、リフレイン、音色)や推移を推論し、診断する→スマートスピーカーが音声データに基づいた最適な診療方針をアウトプットし、インフォームド・コンセントも行う→最適な予防処置や治療がスタートする。

 このような夢のような診療システムが実現するだろうか? 日経CNBCの報道によれば、Amazonは秘密のヘルスケア技術チームを設置し、電子カルテ、バーチャル往診、「Amazon Echo」などのデバイス向け健康関連アプリケーションの立ち上げに取り組んでいる。

 これこそ、人間の言語コミュニケーションを超えたナラティブ(語り口やニュアンスを活かした)インターフェース! 音声AIのスマートスピーカーがめざす究極のスタイルかもしれない。

 このような「夢のような夢でない夢」がかなえば、不治の病の克服も、決して夢でなくなる。AIの見つめる未来。それは、人類のイマジネーションを遥かに凌駕し、超越しているのだろうか? 今、そこにある未来。人に寄り添い、気遣い、気づかせる。人類とAIのミッションは変わらない。
(文=佐藤博)

佐藤博(さとう・ひろし)
大阪生まれ・育ちのジャーナリスト、プランナー、コピーライター、ルポライター、コラムニスト、翻訳者。同志社大学法学部法律学科卒業後、広告エージェンシー、広告企画プロダクションに勤務。1983年にダジュール・コーポレーションを設立。マーケティング・広告・出版・編集・広報に軸足をおき、起業家、経営者、各界の著名人、市井の市民をインタビューしながら、全国で取材活動中。医療従事者、セラピストなどの取材、エビデンスに基づいたデータ・学術論文の調査・研究・翻訳にも積極的に携わっている。