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冬になると、東北地方の中央を南北に連なる山脈と偏西風の影響で、大雪が降り積もる東北・北陸地方。日本の雪国は、世界でも有数の豪雪地帯。日本一の米所である南魚沼を擁する新潟県は、毎年3メートルもの雪が積もる多雪地帯で、約8000年もの遥か昔から、この地に暮らしてきた先人の越冬の知恵が、食に色濃く顕れている地域のひとつだ。雪の恵みで水は豊か。その水で培われた米が美味しければ、お酒も美味しく、越後の山の幸、日本海の海の幸ともに豊富。地域の名産には発酵、乾燥、塩漬けなど、雪国ならではの越冬食文化が今も息づいている。四季折々の変化にも恵まれていて、移り変わる自然の景色とともに旬の味覚を味わえば、都会暮らしで鈍った五感に、どこか懐かしくも新鮮に染みわたる。雪国の食は深淵なり、と。

今回、そんな雪国ならではの食文化と美食を“雪国ガストロノミーツーリズム”として気軽に楽しめる旅プランがあると聞き、東京から新幹線に乗って約80分、川端康成の小説『雪国』の舞台にもなった越後湯沢を訪れた。

越後湯沢駅を出て徒歩1分、正面に見える建物が「HATAGO井仙」だ。2008年、この越後湯沢を中心に3県7市町村が連携した地域ネットワーク「雪国観光圏」が立ち上がり、雪国ならではの知恵と食文化を“雪国ガストロノミー”として発信するプロジェクトが始動した。これに連動して「HATAGO井仙」では、駅前という地の利を活かして、国内外から訪れる人々のゲイトウェイとして、“採って作って食べる”をコンセプトに、新潟の食文化と美食を体験する滞在プログラム”雪国ガストロノミーツーリズム”をサービス化。およそ7年の構想期間を経て、2016年から本格的にサービスをスタート。2017年10月には、”雪国ガストロノミーツアー”で料理体験やデモンストレーションの場となる宿のメインダイニング「むらんごっつぉ」が、オープンキッチンを設えてリニューアルしたばかりだ。東京から1時間半とかからない越後湯沢の駅前に、思いも寄らず雪国の美食への扉が開かれていた。

(写真右)「HATAGO井仙」外観。1953年に温泉旅館として創業し、2005年に世界に日本の価値観を発信することを目指して「HATAGO」と名付けてリニューアルオープンした。

深い森林に覆われている越後湯沢の山々では、春と秋は収穫の季節。春は山菜、秋はキノコの宝庫だ。「雪国ガストロノミーツアー」では、10月下旬から11月下旬までキノコ狩り、4月下旬から5月下旬までは山菜狩りが体験できる。獲れた食材は、宿で料理人が目の前で調理。食材の特徴や調理法、秘伝のレシピなど、料理デモンストレーションとディナーで、その日その時だけの新鮮な味わいを楽しめる。希望すれば収穫した食材の下ごしらえなどの料理体験も可能だ。翌日には、オプションで魚沼の伝統食を守り続ける老舗の今成漬物店での発酵食見学で、雪国の歴史と共に食文化を探るツアーも用意されている。

我々が訪れたのは11月初旬。ちょうど紅葉の真っ盛り。雪が降りはじめる前までの短い間、美しい林道で紅葉狩りとともにキノコ狩りができる。林道といっても、宿から車で10分ほどのごく近場で、東京ではなかなかお目にかかれない種々の天然キノコが収穫できるのだから、さすが雪国。収穫ツアーの装備の長靴と軍手は宿が用意してくれるので、手ぶらで参加可能なのも嬉しい。

今回、キノコ狩りツアーのガイドをしてくれたのは、「HATAGO井仙」のゼネラルマネージャーにしてキノコマイスターの小野塚敏之さんだ。小野塚さんは、幼少の頃より地元越後湯沢の山に慣れ親しみ、山菜やキノコを採ってきたという。小野塚さんによるとキノコは、食用になるものは全体のほんの2割程度で、多くは毒キノコであったり、食用にはならない種類のものなのだとか。食用のキノコかどうかは、地元の人でも見誤ってしまう危険性があるため、キノコ狩りには専門家の同行が必須だ。

1. 小野塚さんが連れて行ってくれたスポットは、近場でありながら、あたり一面、紅葉のトンネル。 2. 今夜のご馳走になるキノコは、簡単にもぎとることができる。 3. 木の高いところに生えているキノコは、小野塚さんがキノコ収穫用に改良した長い竿を使って収穫する。

都心に生まれ育った人ならば、手付かずの林に入る機会すら稀なこと。極彩色に染まる紅葉の山々を眺めながら林道を歩くだけで、心身ともにリフレッシュする。お目当てのキノコは、歩く道すがら其処かしこに見つけることができた。珍しい種類を見つけたりすると、なんとも嬉しい。ムキタケ、クリタケ、スズエダタケ、チャナメツムタケ、ムラサキシメジなど、見たことも食べたこともないたくさんの天然キノコに出会えた。いつしか大人たちは童心に返って、キノコ狩りに夢中になった。ちなみにツアーには小さな子供も参加可能なので、家族連れでも気軽に楽しめる。キノコ狩りシーズンが過ぎて冬を越し、新緑がみずみずしい春になれば、今度は山菜狩り。秋にキノコが採れた林道では、個性のある独特な香りと味をたたえた約10種類の山菜が収穫できるという。春の山菜狩りもまた楽しみだ。

約2時間のキノコ狩りツアーを終えて、籠いっぱいのキノコを携えて宿へ戻ると、夕食までは自由時間。越後湯沢温泉で冷えた身体を温めた。約八百年の歴史がある越後湯沢温泉。この宿の温泉の泉質は、無色無臭のアルカリ性単純温泉。さっぱりとしてじんわり身体が温まる。1階にある喫茶の空間「水屋」では、飲む温泉水で淹れた温泉珈琲や源泉で蒸した温泉プリンなど、温泉地ならではのカフェメニューを楽しめる。また1日24本限定のテイクアウト可能な「湯澤るうろ(ロールケーキ)」は、絶品なのでぜひチェックを。

(写真右)上:宿のエントランスには、足湯が。大浴場のほか、貸し切り湯屋もある。下:1Fには宿で出している食材や調味料、菓子などを販売する「んまや」と、カフェスペース「水屋」があり、温泉水で淹れた珈琲や、米粉を使ったスイーツ、郷土食のあんパンなど、ここでしか味わえないスイーツでくつろぎのティータイムを過ごせる。

そして、お待ちかねのディナータイムがやってきた。キノコたちがどんなご馳走になるのかを期待しながら、ダイニングへ向かう足取りは軽い。

後編へ続く。


越後湯澤 HATAGO井仙
新潟県南魚沼郡湯沢町大字湯沢2455
Tel:0120-85-0039(受付時間 9:00〜18:00)
客室数:16室
チェックイン: 14:00〜、チェックアウト 〜11:00
アクセス:JR越後湯沢駅 西口ロータリーすぐ前料金:1泊2食2名1室 1名あたり 16,000円〜