“翻弄する人”松田龍平の魅力とは? 『探偵はBARにいる3』で見せた、新たな一面

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 松田龍平という人物は、“相棒”といるときに、その相手を翻弄することで相手を輝かせ、本人も存在感を発揮する俳優である。『探偵はBARにいる』シリーズでもそうだが、『まほろ駅前』シリーズでもそうだった。

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 ただ、私自身がこの“翻弄する人”である松田龍平の魅力に気づいたのは、“翻弄しない側”を演じた『カルテット』(TBS系)の別府司を見たからというのが大きい。

 『カルテット』の別府は、このドラマでの相棒的な立場である高橋一生演じる家森諭高やシェアハウスで同居している専業主婦の巻真紀(松たか子)、チェリストの世吹すずめ(満島ひかり)という同居人の中では、比較的常識人として描かれていたと思う(なお、このドラマでは誰が相棒ともなく、男女問わずみんなが誰かの相棒に見えるところもよかった)。

 その劇中、私が一番驚いたのは、松田龍平演じる別府が、シェアハウスに住む人の中で、ただひとり、ゴミ捨てをしようと試みるが、他の人はぜんぜんゴミが捨てられないというシーンだった。そんな同居人たちに別府がしびれを切らしているという描写に、松田龍平の“翻弄される人”という新境地を見た気がしたのだ。

 そんな風に私が思うのも、やはり『探偵はBARにいる』シリーズや『まほろ駅前』シリーズの松田龍平のイメージがしみついているからかもしれない。『探偵』の高田も、『まほろ』の行天も、ゴミなんて捨てられなさそうだし、それを見た探偵や多田にキレられる方のキャラクターなのではないだろうか。

 『まほろ』の松田演じる行天はというと、高校の同級生で便利屋の相棒である多田(瑛太)にいつもちょっかいを出しては、キレられているというか、その後はいつもじゃれあっている。

 一方、『探偵』で演じる高田はというと、北大の農学部で研究をしているけれど、探偵の運転手を務めていて、しかもいつでも眠たそうにしているという役どころだ。

 高田は大泉演じる探偵に対しても常にタメ口で、乗っている車の初代ビュートは、エンジンをかけるのにも一苦労。このビュートの予想不可能な動きと、高田はすごくシンクロする。動いてほしいときに動いてくれないので、ご機嫌をとりながら乗りこなさないといけないし、思い通りに動かないところが、余計に愛らしく思えてしまうようなところがあるのだ。

 探偵が危険な目にあうたびに、高田は一応助けにいくのだが、自分自身のエンジンがかかるのが遅い高田が助けにいったときには、探偵はすでにボロボロにやられていたりする(ラーメンをゆっくり食べている間にも探偵はやられていたりもするくらいだ)。それでも、探偵にとって高田はいないと困る存在なのだ。

 それにしても、瑛太にしても大泉洋にしても、松田龍平と組むと非常に輝く。それに、なぜかお互いが実は寄りかかっていないと生きていけないのだという弱さも露呈させて、二人まとめて愛しくなってしまうという効果もある。

 また、大泉のバラエティなどで魅せるキャラクターは、大泉がボヤき、それに対して出演者から総ツッコミを受けるというパターンが多い。最終的に大泉がヘトヘトになっている姿がおもしろいし、なにかこちらも応援したくなる。『ヨルタモリ』に大泉がゲストとして出演した際に、タモリが大泉のことを「アウェイの人だ」と言っていたが、いつでもヘトヘトな大泉を「アウェイ」と評したのは非常に納得がいく。

 映画の中でも、高田の予測不可能な行動に翻弄されまくりでヘトヘトになっているから、やっぱり大泉を応援したくなる。

 しかし、高田の魅力は人を翻弄することで、その人を輝かせるだけではない。例えば、高田には常識がないように見えるかもしれない。年上にもタメ口だし、いつでも自由奔放だし、既成概念などにはまったくとらわれていない。ただ、『探偵』では、常識人ではないのに、人の多様性は受け入れていたり、倫理観はしっかりしていたりすることがうかがえるシーンが時折みられるのだ。

 例えば、パート2で、探偵がエレベーターの中で気絶したヒロインと二人っきりの空間でパンツ一丁でいるところを見たシーン(実際には探偵はヒロインにスタンガンで股間を攻撃されて、それでパンツになっていたという勘違いであった)での高田は、「さすがにこれはダメだろ」と言って、相棒であるところの探偵を容赦なく殴る。

 このときのためらいのなさに、高田の自由だけれど筋の通った倫理観を見た。もしかしたら、常識にとらわれないという意味での“非常識さ”と、筋の通った倫理観というのは、どこかでつながっているのではないかとすら思わせてくれるのだ。

 パート3では、ほかにも高田の新たな一面が見えた。高田は空手の師範代でもあるから、腕っぷしがめっぽう強い。しかし、今回のパート3では、志尊淳演じる波留の強さにてこずる姿を見せている。

 そのことで、高田が一瞬ではあるが、勝つために準備をするシーンがあるのだが、北大にも通い、あれだけケンカも強い高田は、なんの努力もしていないように見えて、実は陰で熱くなるところもあるのだなと思わされた。

 以前、この脚本を担当する古沢良太に別の作品で取材をしたとき、古沢自身が、若き頃に「みんなで遊園地に行っても、つまらなさそうにしてると思われたり」「(バイトで)クリスマスに外で七面鳥をたたき売りをすることになっても、周囲からそういう役割には向かないと思われたり」と、誤解をされたことがあると語っていた。

 この話は、本人の中にはやる気や熱いものがあっても、人はその見た目や雰囲気で「この人はそういう人ではない」と判断しがちであるということだと解釈したのだが、高田にも、表面的にはわからない熱さのようなものが潜んでいるのだなと感じた。

 そもそも、なんでも引き受けて、ときには(というか、かなりの確率で)死を覚悟するような危険に巻き込まれてしまうあの探偵とコンビを組んでいるくらいだから、高田にもそんな探偵と行動を組むモチベーションとして彼なりのいろんな思いがあるはずなのである。そんな高田の内面を描くことが、まだまだ未知数だと思うと、このシリーズをもっともっと観てみたいと思うのだ。(西森路代)