「その言葉の真意は何か」を知ることが大切です(撮影:尾形文繁)

クレームとは「処理するもの」という考えを持っていませんか? 確かに速やかに終結させようと精いっぱいになってしまいがちですが、その姿勢でいると顧客満足度を上げることまではできないかもしれません。
その点、顧客対応がたびたび「神対応」などとしてネットで話題になるカルビーのやり方は少し違うようです。「クレーム」と捉えてしまいそうな内容も「指摘」と捉え、「処理する」のではなく、「対応する」という姿勢を取っているといいます。
この記事では、そうした顧客対応についてまとめた『カルビーお客様相談室 クレーム客をファンに変える仕組み』のなかから、その一部を紹介します。

カルビーが大切にしているお客様対応の1つに、「お客様の気持ちに寄り添ったコミュニケーション」があります。お客様が話されたことへの対応だけでなく、「その言葉の真意は何か」を知ることを重要視しているのです。

しかし、ほとんどが初対面であるお客様から本音を引き出すのはたやすいことではありません。さらに、電話でのやりとりだと表情もわかりません。

「お客様のご質問には答えられた」「お怒りだったお客様の話をきちんと受けとめた」

これだけでもお客様と向き合ったと言えますが、納得レベルの対応にとどまってしまいます。

現在は、お客様への対応ひとつで、お電話をくださった方だけではなく、その家族や友人など周囲の人へも企業の評判がSNSなどを通じて伝わり、それが結果として業績やブランド価値にも影響する時代になっています。

そんな時代を勝ち抜くために、マイナス要因を防ぐだけではなく、プラス要因も増やす感動レベルのお客様対応を目指さなければなりません。

“何に対して”申し訳ない、なのかを具体化する

カルビーお客様相談室では、コミュニケーターと呼ばれるメンバーが、お客様の一次対応をしています。

ご指摘の電話対応は特に最初が肝心です。

まずは、心からのお詫びをします。「せっかくカルビーの商品を購入していただいたのに、ご不快なお気持ちにさせてしまったこと」に対してのお詫びです。

ここで肝に銘じなければならないのは、原因調査はこれからという受付段階であっても「お客様はカルビーの商品を購入されたことがきっかけで嫌な思いをされた」という事実をきちんと受けとめること、加えて、お忙しいなか私たちにお知らせいただいたことへ感謝をすることです。

たとえば、発売当初から味や製法を変えていない「かっぱえびせん」について、次のようなご指摘をいただいたとき、コミュニケーターはこうお詫びをしました。

お客様「昔からかっぱえびせんが好きで買っているのですが、最近の商品はしょっぱいです。塩分を減らして欲しいです。」

コミュニケーター「長年気に入ってお召し上がりくださっていますのに、ご不安なお気持ちにさせてしまい、誠に申し訳ございません」

一般的には、「この度は、当社商品をお買い求めいただいたにも関わらず、ご期待に沿えませず申し訳ございません」といった表現になるかと思います。しかし、これだけではお客様の心情を十分に察したお詫びとは言えないと考えています。

そこで、先のように「本来なら喜んで召し上がっていただけるはずの商品で不安を与えてしまった」という、“何に対して申し訳ないと思っているか”を具体的に伝えます。

仮に、お客様の心情を十分に察したお詫びでなかったとしても、コミュニケーターがお客様の真意を知ろうとしている姿勢が伝われば、お客様は安心され、その後の対応もスムーズになっていきます。

「ご指摘」か「ご相談」か見極める

「最近のえびせんはしょっぱい」というお客様の声に対して、「これは改善を求めるご指摘だ」と判断して対応を進めてしまうと、「お預かりしてお調べします」という処理業務の流れになってしまいます。

そうではなく、「ご指摘」の判断をする前に、お客様の真意を知るために問題点と状況を可能な限り詳しくヒアリングすることが重要です。お客様がご立腹されている場合もありますが、まず「お聞きすること」に徹し、少し落ち着かれたタイミングで詳しくお話を伺います。

お客様へのヒアリングをする際、コミュニケーターがつねに意識するポイントは、「このお客様は、なぜ、このようなお問い合わせをされるのか?」ということです。

お客様が電話口で最初から本当のお気持ちを話してくださることはほとんどありません。商品に不具合を感じてご連絡をくださったお客様はたいてい、まず何が起こったのか、その状況についてご説明されることがほとんどです。

そうしたお客様とのやりとりのなかで、いかにお客様の真意を見抜いていくのか、それはマニュアルやFAQでは解決できない問題です。

感情を害して怒っているのか、体への悪影響を心配しているのかなど、お客様との電話でのやりとりを通じて、コミュニケーターが感じとり、考えます。

たとえば、先のお客様に、コミュニケーターはお詫びのあとに次のように回答しました。

コミュニケーター「20年もご愛顧いただき、本当にありがとうございます。また、わざわざお気づきいただいたことをご連絡くださいましたこと、お礼申し上げます。製造方法や塩分量などの商品規格は昔と変更しておりませんが、販売増によって昔のように瀬戸内海のえびだけでは賄いきれず、国外からも基準に合ったえびを調達しております。長年お召し上がりくださっているので原料による微妙な違いをお感じになったのではないでしょうか」

お客様「昔から食べているものに変化を感じたから気になったんです」

このやりとりを通してわかったことは「最近のえびせんはしょっぱい」というご指摘ではなく、「最近しょっぱく感じるけれど、なにか以前と変えた点があるのか知りたい」というロングユーザー目線のご質問であるということから、お客様の真意が見えてきます。怒っていらっしゃるとか、体への害があったご指摘というよりは、「カルビーに聞きたいことがある」というご質問であると解釈します。

違いを感じているユーザーには工夫が必要

「ヘビーユーザー」「ロングユーザー」の方の「何か以前との違いを感じている」というご質問への対応は近年、工夫が必要になってきました。

真意である「以前との違いを知りたい」、に対して「製造方法や商品規格に変更はございません」と回答すると、ご理解はいただけるのですが、それだけだとご立腹される方も増えてきました。ご立腹の真意は、「長年(いつも)食べているのにカルビーは私の言うことを信じてくれなかった」というものです。

前述の回答のように、「変更はございませんが○○の違いを長年(いつも)お召し上がりくださっているのでお感じになられたのではないでしょうか」と回答することで、お客様に「自分の意見を受けとめてくれた」と感じていただけると私たちは考えています。

実は、カルビーに寄せられるお客様の声のうち、約7割がご意見、ご質問、ご要望といった「ご相談」です。

お客様が気軽にお問い合わせいただける対応力を磨いていくことも、お客様相談室の使命であると考えています。また、こうした貴重なご相談に対しても、真摯な姿勢で向き合うことが大切です。

クレーム客をファンに変える

お客様の声は、非常に耳が痛い内容であることもあります。しかし、期待をしているからこそ、ご指摘をくださっているのです。その声にお応えすることが何よりも重要です。


先ほど例にあげた「かっぱえびせん」のお客様の声は、その後の企業活動につながる貴重なご意見でした。

お客様の「塩分を減らしてほしい」という声から、私たちお客様相談室は「本当にしょっぱいと感じている」と、「しょっぱくは感じないけど塩分を気にする年齢だ」という2つの真意を引き出し、「減塩のかっぱえびせんを発売してはどうか」と担当部署へ提案しました。

日頃から社内一丸となってお客様対応への姿勢を共有していたことも手伝って、それがきっかけとなり商品・開発担当者も検討を始め、その後、マーケティングリサーチ、テスト販売を重ねました。

そして、減塩要望の声が増えだした2014年度からおよそ2年半後の2016年9月に、「かっぱえびせん塩分50%カット」が全国発売となりました。

その後も、「しょっぱい」「塩分を減らして」とご意見いただいたお客様に発売した商品や今後の試作品サンプルをお送りし、ご意見を直接いただく取り組みも実施しました。お客様からは、

「うす味なので、いくらでも食べられます」「あっさりとした味で、とっても美味しい」「こんな商品を待っていました! 発売されて嬉しいです」

など、嬉しいご感想を多くいただきました。

すべてのお客様の声が新商品につながるわけではありませんが、お客様の声を、具体的なアクションに結びつけることが本当の意味でのお客様目線であると考えています。

そして、このような積み重ねが、「お客様」が「顧客」に、「顧客」が「ファン」に変わる大きなターニングポイントになるのではないでしょうか。

特にご指摘をくださるお客様の最初の心情は、ネガティブであることがほとんどです。だからこそ、ご指摘の1つひとつに対して真摯に対応し、信頼を得てファンを増やせば、それが結果として安定した経営にもつながると思います。