企業だけでなく一般家庭にも国税はやってくる(写真:共同通信社)

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 国税局の“相続税マルサ”は忘れた頃に突然現われる。それは「○×税務署です。相続税の件でお宅にうかがいます」という1本の電話から始まる。「臨宅(りんたく)」と呼ばれる実地調査の通告で、故人が亡くなって2年ほど経ち、遺産相続の手続きがとっくに終わってから行なわれることが多い。

 この「臨宅調査」はどのように行なわれるのか。

 国税局のマルサ(査察部)と並ぶ調査部門で、「泣く子も黙る料調」と呼ばれる課税部資料調査課の課長を務めた税理士の松林優蔵氏が語る。

「臨宅調査は調査官2〜3人で訪問して、概ね午前10時頃から始まる。午前中は故人の経歴や生前の財産運用の仕方、財産の保管場所について聞き取ります」

 ヒアリングはいかにも雑談っぽい質問で行なわれる。

調査官「お亡くなりになったときの様子はどうでしたか?」
遺族「がんで長く入院して、とても痛がっていました」

 何気ない質問だが、実は、一つ一つに狙いがある。病院に入院していれば、入院費は誰のお金で、誰が管理していたか。故人の“財布”で妻が支払っていれば、治療費以外にも使っていたのではないか、そういう予測を立て、口座の入出金を後でしっかり調べる。

◆「故人のご趣味は?」で疑われること

調査官「会社勤めの時は転勤もあったでしょうね?」
遺族「転勤族で大阪と名古屋、東京を行ったり来たり。ほんとに引っ越しがたいへんでした」
調査官「転勤で一番長かったのはどちらに?」
遺族「名古屋に2回転勤して、のべ10年以上いましたね」

 そんなやりとりから、自宅は東京にあっても、調査官は名古屋の金融機関に申告していない口座があるのではないかと推測する。海外勤務の経験があれば、海外口座の存在も疑われる。

調査官「どんなご趣味をお持ちでしたか?」

 この質問は、故人が預金以外に遺産を残していないかのヒントをつかむためのものだ。

遺族「絵画を見るのが好きで、よく美術館めぐりをしてました」
調査官「それなら骨董なんかも目利きだったんでしょうね」
遺族「骨董はあんまり。ただ、九谷焼は好きでしたね」

 そうして絵画や骨董などの美術品も調査対象に加えられるのだ。そうした午前中のヒアリングをもとに、午後からは通帳や印鑑、株券や信託証券、不動産の権利証書や登記簿謄本をもとに具体的な調査にかかり、その際、故人分だけではなく、相続人名義の口座や資産も調べられる。

「調査官は葬儀の香典帳も調べます。投資運用を任せていた友人の名前があるかもしれないし、会葬者に銀行の支店長の名前があり、相続税の申告書にその銀行の預金の記載がなければ、申告漏れではないかとアタリをつけるわけです」(松林氏)

※週刊ポスト2017年12月8日号