時代が移り変わると共に、使われる言葉も変移していきます。新しい技術、イノベーションにより、常に新語は誕生しているのです。このたび、2017年5月18日(言葉の日)に募集をスタートした第2回「大辞泉が選ぶ新語大賞」の大賞が決まりました。特設サイトやTwitterを通じて、毎月たくさんの「新語」や「新しい意味で使われるようになった言葉」が寄せられ、11月19日の最終日までの投稿総数は実に2,424本でした。そして、最終選考会で、今年の新語大賞が選ばれました!

世相を反映した言葉、ネットならではの言葉、政治の世界を象徴する言葉など、今年を振り返りつつも、来年以降も使われていくであろう「新しい言葉」がたくさん集まりました。

1位は「インスタ映え」!

1位はインスタグラムに投稿するために写真にこだわる現象から生まれた「インスタ映え」!そのほか6位の「バズる」などネット発の言葉がランクイン。4位の「卍」「マジ卍」は女子高生が使う言葉として取り上げられましたね。2位の「忖度」はモリカケ問題をきっかけに「首相の気持ちに配慮した」を意味する言葉として、強く印象づけられました。それをベースにオフィスなどでは「ちょっと、忖度お願いしますよ」とか、そういった使われ方をしたり……。3位の「プレミアム・フライデー」は、働く堅実女子的には当初期待をしたものの実際は「月末の一番忙しい金曜日に休める訳ないっつーの!」「お役所が考えることは!」という声が多数聞かれました。年末進行のこの時期に至っては、もう存在そのものが無くなりつつあります。せめてプレミアム・マンデーだったら休めたのかも?

<第2回大辞泉が選ぶ新語大賞>

1位 インスタ映え 69本
2位 忖度 43本
3位 プレミアム・フライデー 34本
4位 卍、マジ卍 22本
5位 ワンチャン 15本
6位 バズる 14本
7位 文春砲 13本
8位 とりま 11本
9位 パワーワード 10本
9位 ワンオペ育児 10本

田中牧郎先生の選評

「第2回「大辞泉が選ぶ新語大賞」には、2,424本の新語が寄せられました。そのうち、キャンペーン期間中の5〜11月に毎月選定した「今月の新語」計50語を検討し、【インスタ映え】を「今年の新語大賞」に選定しました。語釈は、「写真共有アプリ、インスタグラムに投稿した際、見映えのよいこと」、用例は「インスタ映えする写真」などです。これを、『大辞泉』各種アプリや、Web辞書などに収録します。

インスタグラムの普及にともなって一気に広がってきた言葉ですが、最近は、写真を撮る前の素材や場所の良さについて、写真になったときの見映えを想定して「インスタ映えするスイーツ」「インスタ映えするカフェ」などとも用いられ、意味の拡張が見られます。また、インスタグラムなどのSNSに関係しない場面で、単に、写真がきれいに撮れることを言う場合もあります。

今やSNSは新語拡散に絶大な力を発揮していますが、【インスタ映え】は、それが生んだ新語を自らの力で普及させたケースになります。同じSNSでも、言葉が主体であるツイッターやフェイスブックではなく、写真が主体のインスタグラムから、ほかならぬ写真に焦点を当てた言葉が勢いを強め、ダントツの得票数を得ました。一方で、インスタ映えする写真を撮ることに躍起になっている人を揶揄した「インスタ蝿」を大賞に推す声も少なくなく、【インスタ映え】の流行に辟易している人もいるようです。

【インスタ映え】について、言葉の成り立ちとして目を引くのは、和語「-ばえ」を含んでいることです。「-ばえ」の元の形「はえ」は、動詞「はえる(映・栄)」の連用形が名詞化したもので、『源氏物語』のころから、はなやかに引き立つことを意味して使われてきた、長い伝統を持つ言葉です。「-ばえ」には、近年まで、「見ばえ」「出来ばえ」のように、動詞の連用形に付く用法か、「夕映え」のように、夕日や薄明かりを表す名詞に付く用法しかありませんでしたが、最近になって、「スクリーン映え」「動画映え」「テレビ映え」など、姿が映る媒体を表す名詞に付く用法が登場しており、【インスタ映え】の誕生と普及は、この動きの先端を行くものでしょう。また、従来、「写真写り」「テレビ映り」など、「-うつり」の形で用いられてきた言葉が、「-ばえ」の形に移行する動きも見えており、「写真映えする二人」「テレビ映えする企画」などと使われています。新しいコミュニケーションツールでは、そこによくうつるだけでなく、はなやかに引き立ち、それが次のコミュニケーションを呼び起こすかどうかまでが重視されるようになってきたのでしょう。

今後は、「インスタ」の普及がどこまで進むかとともに、「-ばえ」の造語力がどこまで高まるかに目が離せません」

左から明治大学国際日本学部・田中 牧郎教授、大辞泉編集部。

これまでに生まれた新しい言葉の中には、「アラサー」「セクシャル・ハラスメント」など、今でも使われている言葉が多数あります。特にハラスメントは「告ハラ」「パワハラ」「スメハラ」など多種多様な使われ方をするようになっています。言葉が進化している現象ですね。今年の新語は10年後も定着するのでしょうか?世相を反映する新語のこれからにも注目ですね。