世界でもっとも流通している米ドルの、知られざる扱われ方

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 世界で最も有名な通貨である「アメリカドル」。日本では、その紙幣に対する都市伝説が囁かれ、テレビなどでも様々な陰謀論が紹介されているが、今回はそんなアメリカドルの都市伝説でも陰謀論でもない、現地で使用する際に直面するリアルな実態をいくつか紹介しよう。

(1) 1ドル紙幣
 ドル紙幣の中でも最も都市伝説が多いとされる1ドル札。アメリカは、言わずと知れた「カード社会」だが、それと同時に「チップ社会」でもあるため、この1ドル札は日常生活で使用される機会も最も多い。

 その流通枚数、約107億枚。また、平均寿命は5.8年と、価値は違えど、日本紙幣の中で最も使用頻度の高い千円札の寿命1〜2年をはるかに上回る長寿紙幣である。

 チップは、さっと出して渡すのがスマートだとされているため、現地で暮らす人のポケットには、5.8年分の落書きや汚れをまとったクシャクシャな1ドル札が詰め込まれているのだが、中には、もはや「クシャクシャ」という音もしないほど「クタクタ」なものまでが現役で活躍する。

 度々ポケットから抜き忘れられては、衣服と一緒に洗濯機・乾燥機に放り込まれ、正真正銘の“マネーロンダリング”が行われるのだが、まあ、これほど汚ければ、たまに洗濯されるのもいいと個人的には思うところでもある。

 そんな目下活躍中の現役紙幣とは対照的に、渡米前、日本の銀行で両替すると出てくるのは、ご丁寧にも厚紙封筒に入れられた、シワひとつない新札だ。旅行前ということも手伝って、あのパリパリ感とインクの匂いに、心なしかテンションが上がるところ、筆者は毎度こういった新札を見つけるたびにあえて手で握りつぶし、クシャクシャにしてしまう。

 その理由は2つある。1つ目は、勘定がしやすくなる点だ。

 紙幣の表面が日本のそれよりも若干ザラついているせいか、ドルの新札はとにかく数えにくい。特に旅行者の場合、慣れない海外で慌ててお金を出すとなると、なおさら勘定に手間取るため、会計前にできる準備として「クシャクシャ作戦」はある程度効果的だといえる。

 2つ目は、新札が現地で偽札だと疑われやすいことにある。

 先述通り、現地で暮らす人にとって、紙幣は「クタクタ」が一般的。新札を受け取ることは、観光地でない限り稀なことなのだ。

 彼らは、新札を出されると光にかざしてみたり、特殊なペンで反応を調べてみたり、時には機械に通してみたりと、日本では「神」とも崇められる客を真っ向から疑ってかかる。

 以前、筆者が大手コーヒーチェーンで新札の10ドル札を店員に渡したところ、隣の店員に目で合図を送り、顔の表情だけで会話された挙句、彼らの持ち合わせる偽札対策を目の前で施され、気分は完全に“コーヒー待ちの冤罪被害者”だった。

 偽札対策の観点から言うと、特に疑われやすいのが高額紙幣だ。

 1か月ほど前、日本でも極めて精巧に作られた偽100ドル札が出回ったことで騒ぎになったが、こうした偽札を受け取らない対策として、アメリカには100ドル札や50ドル札を受け取らない店が未だ少なからず存在する。

 現在、世に存在する100ドル札の3分の2が、アメリカ国外で流通しているという実情もあり、新札の高額紙幣を外国人から受け取るのは、彼らにとってはリスキーなことでしかないのだ。

◆幻の2ドル紙幣、なきものとして扱われる小銭

(2) 2ドル札
 流通量が極端に少なく、なかなか手に入らないため、外国人にはあまり知られていないが、アメリカ紙幣には「2ドル札」が存在する。

 多く出回らない理由には諸説あるが、「昔、賭博での標準的な掛け金が2ドルだったことから、2ドル札を持っているとギャンブル好きだと勘違いされた」「売春行為にかかる費用が2ドルだった」「政治家への賄賂に2ドル紙幣が使われていた」など、この紙幣を持っていると何かと疑われやすかったことがあるようだ。

 こうした背景から、アメリカには「2ドル札のように疑わしい(Doubtful as Double)」なる言葉も古くから存在する。

 結果、「2ドルを持っているとツキが悪くなる」と信じられるようになったのだが、これまた日本では逆にバチが当たりそうな話、「札の端をちぎると厄除けになる」などの迷信あるため、たまたま回ってきた2ドル札に四隅がないという話もしばしば。最近では、そのレア感から「幸運の紙幣」と都合よく解釈が変わりつつある。

(3) 25セント硬貨

 硬貨にも、日本にはない特徴がある。その代表ともいうべきが、25セント硬貨だろう。4分の1という区切りは日本人にとって馴染みがないが、現地では最も使われる硬貨で、25セント硬貨にしか対応していない自動販売機も多い。

 実はこの25セント硬貨には、従来の「ワシ」デザインのものとは別に、延べ50種類ものデザイン硬貨が流通している。

 1999年から2008年にかけて実施された「50州25セント硬貨プログラム」なる取り組みにより、合衆国への加入が早かった順で各州の硬貨が発行されたためだ(後に準州のグアムや自治領の北マリアナ諸島などの硬貨が加えられ、実際は50種類以上ある)。アメリカには、このプログラムのコインコレクターが数多くおり、各硬貨をはめ込む専用の地図も多く販売されている。

 買い物の度に溜まっていくコインに存在意義を見出すため、筆者も2年前から地道に50種類を集めているが、なぜかどれだけ待ってもアラバマ州とアーカンソー州、ハワイ州が回ってこない。

 ちなみに、現在は新プログラムとして「国立公園バージョン」が実施中で、2010年から2021年まで毎年5種類ずつ新しい硬貨が誕生している。

◆端数のコインは「いらない」

 アメリカのコインについて特筆すべき点がもう1つある。レジでの会計時、端数のコインに対する勘定が大雑把になされることが頻繁にあるのだ。

 例えば、買い物の合計が10ドル2セントの場合、2セントを「いらない」とする店員が驚くほど多く存在する。

 とりわけ、客でごった返す朝やランチ時のデリでは「コインはいいから早くどけ」と言わんばかりに、レジの回転を優先にするのだ。

 その一方、9ドル98セントの買い物で10ドルを渡すと、釣りをもらうために出した手が、見事に宙を泳ぐことになる。

 カード社会らしい習慣だが、筆者がこうして宙をひと泳ぎした手で店員を呼び止め受け取った小銭は、2年間で合計約300ドル(3万円)。塵も積もれば、である。

 各国の通貨には、その国の文化や歴史、技術力が凝縮されている。アメリカや都市伝説などに限らず、海外旅行をする際は、名所とともに通貨についても調べてみると面白い発見があるかもしれない。

【橋本愛喜】
フリーライター。大学卒業間際に父親の経営する零細町工場へ入社。大型自動車免許を取得し、トラックで200社以上のモノづくりの現場へ足を運ぶ。その傍ら日本語教育やセミナーを通じて、60か国3,500人以上の外国人駐在員や留学生と交流を持つ。ニューヨーク在住。