詩吟、和楽器とロックバンドを融合させた“新感覚ロックエンタテインメントバンド”の和楽器バンドが29日、初となるベストアルバム『軌跡 BEST COLLECTION+』を発売する。このアルバムは結成以降ミュージックビデオ(MV)として発表された楽曲を全て収録。YouTubeにアップロードされたボーカロイド楽曲「千本桜」のカバーが7000万回以上の再生数を記録するなど話題の彼ら。これまで辿った道筋を確かめる事が出来る作品となっている。そして、収録曲の中でも異彩を放つのが「今までにない私たちらしさを見せたいなと思っていた」と鈴華ゆう子(Vo)が語る、3曲の新曲だ。この新曲がどの様にして生まれたのか、アルバムに込められたそれぞれの想い、山葵(Dr)と町屋(Gt)が楽器を始めたきっかけとなったX JAPANのYOSHIKIとの関係など、彼らに話を訊いた。【取材=小池直也/撮影=片山 拓】

それぞれの想い

――新作は盛り沢山の内容ですね。まず、皆さんの想い入れのある曲を教えてください。

黒流 今回のアルバムはMVを発表した順番で曲が並んでいます。その中でも「華火」あたりからCGをかなり使いまして、芝居の様なものもやり始めたので「MVを作っている」という実感がありました。それまでは演奏している様子を撮っていたのですが、ここからスタートしたという印象です。

亜沙 印象に残っていると言えば「六兆年と一夜物語」は、最初だったので印象に残っていますね。たまたま最近そのMVを録った場所に行く機会があって、「そういえば、ここで録ったな」と思い出したりもして。

蜷川べに 私は1番新しい曲の「シンクロニシティ」です。「これぞ和楽器バンド」という中で、世界観や衣装(インタビュー時も着用)も新しい取り組みをしています。また違う一面を見てもらえたらなと。

町屋 難しいですね…。ひとつ一つの作品が濃いのですが、「シンクロニシティ」は大好きな仕上がりになっています。でも、ベストとしてこれまでを振り返るのであれば「千本桜」ですかね。やっぱりこうして世の中に出て、テレビでも「あ、自分が映ってる!」みたいな、初めての感動があったので。サビの歌い出しで、ゆう子ちゃんがお面を外すシーンが皆さんも印象深いのではないでしょうか。

鈴華ゆう子 私は「暁ノ糸」です。この曲は私が幼い頃からやっている詩吟を入れていて、MVでも詩舞を披露しました。この辺りからライブでも剣舞を多く取り入れる様になりましたね。メンバー1人1人の楽器で魅せる格好良さもきちんと表現されていますし、アンコールでお客さんが大合唱してくれる曲なので思い出深いです。

(*編注:詩舞=詩吟に合わせた舞い。刀剣を持って舞う剣舞や、扇子を持って舞う扇舞などがある)

神永大輔 「六兆年と一夜物語」と「千本桜」が挙がったので、僕は「天樂」も挙げたいな、と思います。理由はこの3曲で和楽器バンドが形作られ、自分たちも見出していったというのが1つ。あとは、色々な人たちにMVを観て頂いて「和楽器バンドが始まる、広がっていく」という最初のワクワク感を今も覚えていて、それをエネルギーにしているところもあるので。

いぶくろ聖志 僕は「反撃の刃」です。毎回作曲者がある程度パートのアレンジを作ってきてくれるのですが、この曲は全力で抵抗した思い出があるので(笑)。箏は転調と相性が悪いのですが、この曲は多いんですよ。それに対応して、且つ地味に思わせない様に試行錯誤しました。MVとしても、初めて洋装で録ったのがこの曲だったので、そういう意味でも想い入れが強いですね。

山葵 「オキノタユウ」ですね。この曲は割とそれまで和楽器バンドとして形作ってきたものとは、違うアプローチで世に提示する事が出来た楽曲なので。これをきっかけに、今まで僕たちの事を知らなかった方々にも知ってもらえたと思っています。「千本桜」に続いて、新しい可能性を見つけた曲ですね。

和楽器バンドの新たな一面

――このアルバムには新曲も3曲収録されています。まず「花一匁(はないちもんめ)」についてはいかがですか?

鈴華ゆう子 この3曲の新曲は、50曲近くあるストックの中から皆で選曲しています。「花一匁」自体は、このアルバムの為に作った曲ではなくて、1年に1回、北海道でおこなう合宿で作った曲ですね。私が作曲とタイトルまで作り上げてから、聖志に歌詞をお願いしました。彼の詞の世界観を私は知っているので、これは彼に書いて欲しかったんです。彼と共作した曲は過去にもありますが、バンドで出すのは、これが初めてなんですよ。

いぶくろ聖志 3つの新曲の中では1番、和の旋律の良さがある曲です。この曲は音が少ないんですよ。少ない音数の中でどれだけ広がりを出せるか、というのは歌詞を付ける時に意識していました。「花一匁」という、わらべ歌の感じを活かしつつ、新しい世界観の提示をしていくという事を目指して。内容も複雑にせずに、小さい子でもわかる様にしています。

鈴華ゆう子 タイトルだけで、詳しい説明をしていないのにも関わらず、音が少ない中でばっちり表現してくれました。多くの方が「花一匁」をした事があると思うんですけど、この遊びは「誰が選ばれるか」じゃないですか。1人になるかもしれないし、仲間が増えるかもしれない。そこに人生みたいな、儚い気持ちを感じるんです。「さあ、どうやって生きていこうか」と思っていた時に作曲して、タイトルを付けました。それでこのサビの歌詞を見た時、自分の事の様で涙が出ましたね。

――個人的にはイントロのギターによるリフが印象的でした。

町屋 そのバランス感は、大体僕の仕事ですね。

鈴華ゆう子 これは元々ピアノで弾いている旋律をやってくれたんですよ。

町屋 これはギターだと難しいフレーズなんです。和楽器バンドって、勢いで押し倒す曲が非常に多いのですが、この曲はロックバンドっぽさ、ポップスの要素、和の音色をバランスよく詰め込めたと思っています。ギターは何本かレコーディングで重ねて入れたりするのですが、いつもより少なめにしました。ボーカルも普段はハモリだったり、僕のコーラスだったり色々あるのですが、今回は1本だけ。1輪の花として(笑)。

鈴華ゆう子 話し合って、ハモリなしで凛と歌おうと。この曲はテンポが早くて明るい曲なんですけど、やっばり儚さがどこかに残っている。それを言わなくても皆で共有できたのが嬉しかったです。

神永大輔 ゆう子さんも凄く歌いやすそうで、レコーディングも速攻で終わったよね。

鈴華ゆう子 迷いがなかったので、私自身を思い切りぶつけた感じでした。

――「拍手喝采」は、また雰囲気をガラっと変えています。作曲は黒流さんですね。

黒流 これは、ベスト盤が出ると決まってから作った曲です。この曲は今まで応援してくれていた方以外の、僕らの名前だけ知っていたり、何も知らないという方へ向けています。なので、メンバー紹介的な意味で作りました。それぞれソロがあるのですが、それに合った様な歌詞を付けたりして。

 メンバー紹介という縛りがあったので、どういう風に個性を入れていこうかと悩みながら作ったんです。そしたら5分半くらいになってしまって(笑)。結構削って、今の形になりましたが、うまい感じで作れたと思います。間奏では今まで組んだ事がない2人が一緒にソロをやっているのも聴きどころですね。ファンの皆さんも楽しめるんじゃないかと。

――ラップ調の部分はどなたが担当されているんでしょうか?

町屋 やっているのは僕です。

――ライブもあんな感じで?

町屋 そうなりますよね(笑)。ギター弾きながら、あれをやらなきゃいけないのか…。

亜沙 太鼓とベースのセッションの様な掛け合いも、大分エモーショナルな感じだと思います。あと黒流さんは速い曲が多い(笑)。

いぶくろ聖志 亜沙さんが言うんだから、相当速いですよ。

亜沙 僕の曲も早いんですけど、黒流さんの曲は更に速いです。黒流さんの曲はBPM(テンポ)240くらいあったりしますから(笑)。

山葵 ドラムも細かい事をやっていますけど、早くて追いつかないという感じはないですね。大きなグルーヴをキープしたまま、細かいフレージングでやりたい事をやらせて貰っています。今までやれていないわけじゃないのですが、この曲は挑戦的な事が出来ました。尺八との掛け合いのところも、最初遠慮してわかりやすく叩いていたんです。そうしたら大輔さんが「もっと暴れて良いよ」と言ってくれて。

神永大輔 そうしたら結構容赦ない感じでした(笑)。和太鼓が色々入っている中、ドラムもやりたい事をやっているので、尺八も同じくらい手数を入れようと頑張っています。

山葵 結果的に上手くバトル感が出て、良いサウンドになりましたね。

――「シンクロニシティ」はイントロの3連符系のリズムが刺激的でした。

鈴華ゆう子 アレンジは町屋です。

町屋 最初のテーマ後のAメロと間奏は、4つ打ちのキック(低いドラム)が入っていて、少しダンサブルになっています。それ以外は割とジャジーな感じで作りました。ダンサブルな物と、ジャジーな物を掛け合わせる時の良い塩梅の着地点って、ラテンの要素があるものだったりするんです。そういう意味では、今までやってこなかった感じになりましたね。

鈴華ゆう子 今までもジャズっぽい曲を提出してきたんですけど、なかなか新しい事をやるタイミングがなかったんです。今回のアルバムは、今までの私達を見せる名刺代わりなんですけど、新曲では今までにない私たちらしさというのを見せたいなと思っていました。あと「男女の歌い分け」もやりたかったんですよ。ライブの中では、定番で1曲は必ずやってきていましたし。ボーカロイドによる歌い分けもしてきましたが、オリジナル曲で「男女の歌い分け」をやりたくてこの曲を書きました。

町屋 ドラムの音色も他の曲とは違いますよ。ギターの本数も極端に少ないですし。

――ジャジーな曲は和楽器だと対応しなければいけない部分も多いと思いますが、三味線はいかがでしたか?

蜷川べに ラテンのリズムとジャジーな雰囲気って、実は三味線と相性が良いんです。リズムが跳ねてる(タカタカではなく、タッカタッカというリズムになっている)というのもあるんですけど、それがとても三味線とマッチしますね。最初から最後まで気持ち良く弾けたなという印象です。割と使っている手(フレーズ)も無理がありませんでしたし。

鈴華ゆう子 確かに作曲の段階でも、三味線は頭でイメージしやすかったです。どちらかと言うと、尺八と箏の方が難しいイメージでした。でも大さん(神永)も「ホーンセクションの役割をして」とお願いしたら、めっちゃ格好良くしてくれて。聖志も良い感じで入って来てくれました。4年間やってきた事のベストで、また新しい顔が見れたなと。

蜷川べに 他の和楽器も含めてガツガツ攻めている曲だなと思います。

神永大輔 ただジャズというだけでなく、色んな音楽がこの曲の中に入っていますよね。今まで和楽器バンドで使ってこなかった引き出しを出せて楽しかったです。

鈴華ゆう子 黒流さんのチャンチキ(金物)があんなに格好良く入るとは思わなかった。

黒流 「(アレンジ)どうしますか?」と訊かれて、「どうしようかね」と答えたんですけど(笑)。

山葵 レコーディング前の黒流さんは「今までの曲の中で一番何をしようか、迷っている」と話していたんですよ。でも、結果は格好良くて。テスト前に「全然勉強してないわ」と言う人みたいな感じでした(笑)。

黒流 和太鼓は練習できないじゃないですか、大きさもあるし。混ざった時にどう聴こえるのかは、自分で判断できないので。町屋が判断してくれる事も多いので、今は凄くやりやすいですね。

――尺八ソロ裏での和太鼓の叩き方が面白かったです。

町屋 あれはヘッドフォンで言うと、左側で尺八がソロをとっているんですよ。それで、若干右側で三味線が裏メロみたいなフレーズを弾いています。その裏メロと和太鼓がコンビネーションで叩いているんです。多分、聴く度に色々な発見があると思います。

山葵 今まで作品の選曲で、ゆう子さんがジャズっぽい曲を持ってきてくれたんですけど、全然採用された事が無くて。そうしたら、ゆう子さんが「もういい。ジャズのはどうせ採用されないから!」とちょっとすねちゃって(笑)。「そんな事ないよ。可能性を狭めるのはやめよう」と励ましていたんです。でも、結果的に今までにないアプローチが出せたし、新しい事ができたと思います。

鈴華ゆう子 これが多分3曲目くらいです(笑)。

神永大輔 でも、こういうジャンルが好きなメンバーは多いんですよ。

山葵 僕はこのバンドでこの感じはいけると思ってました。

YOSHIKIとの共演

――アルバムには『和楽器バンド HALL TOUR 2017 四季ノ彩 -Shiki no Irodori-』の東京国際フォーラム公演の模様が収録されたライブ映像盤もありますね。

亜沙 今回のツアーは長くて、3カ月くらいありました。本数が今までで一番多かったんです。それをやってきて、国際フォーラムは集大成じゃないですか。やっぱりツアーすると、バンドの力が凄く上がるんです。今の和楽器バンドのクオリティは映像じゃ中々伝わりづらいとは思うのですが、少しでもそれが伝わってくれれば嬉しいですね。

黒流 『四季彩 -shikisai-』というアルバムがライブを想定して作った作品だったのですが、音源が出来ただけでは、まだ完成じゃなかったんです。ツアーを回って、お客さんの反応があって、曲が成長していくんですよ。僕らが思ったものと別の反応もあったりしますし。このツアーファイナルでこのアルバムが完成して、それを映像化させて頂いたという形です。これを見るとCDとは違った感じで楽曲を聴く事が出来ると思います。

――そういえば、11月3日のYOSHIKIさんのニコニコチャンネル『YOSHIKI CHANNEL』に出演されるそうですね。(インタビュー時は10月某日)

鈴華ゆう子 スタッフに「(YOSHIKIさん)たっての希望」と聞きました。YOSHIKIさんも張り切ってくださっているそうなんです。

いぶくろ聖志 一度、VAMPSさんの『HALLOWEEN PARTY 2016』でご一緒させて頂きましたね。そこではお話しするところまではいかなかったですけど。

神永大輔 元々和楽器バンドの事を良く知っていたそうです。

山葵 僕がドラムを始めたきっかけが、小学校の友達に借りたX JAPANさんの「紅」だったんです。それを聴いて「こんなに激しいドラムがあるんだ!」と思って、ドラムを始めたので「今の僕があるのは、あなたのおかげです」と伝えたいですね。

町屋 『刺激! VISUAL SHOCK Vol.2』というX JAPANさんの映像作品があって、それを観て僕もギターを始めました。

いぶくろ聖志 僕が初めて観たライブ映像もX JAPANさんの東京ドーム公演で。

鈴華ゆう子 私は母親が大ファンでした。

――今後コラボレーションする機会もありますか?

山葵 あるといいですね。

鈴華ゆう子 どうなるか、全然予測がつかない(笑)。

――では最後にメッセージをお願いします。

鈴華ゆう子 私たちはアルバムバンドみたいな感じで、アルバムばかり沢山出してきましたが、この作品は和楽器バンドらしさが詰めこまれた1枚だと思います。これからもっと日本の皆さんに和楽器バンドを知って頂く名刺代わりとしてのベストアルバムなので、まずこれを手に取って貰って広がって欲しいです。

 そして、新しい一面としての新曲もあるのでファンの方にもワクワクを提供できるんじゃないかなと思っています。あとは「和楽器バンドって何? 名前そのままじゃん」という思い込みを減らしていきたいですね。もっと、ジャンルフリーな感じなイメージになりたいです。

和楽器バンド