work with Pride 2017授賞式の様子(筆者撮影)

LGBTという言葉が日本でも浸透しはじめて数年。日本企業におけるLGBT施策は、いったいどこまで進んでいるのか? その「今」がわかるイベントが10月に相次いで開催された。

1つは企業のLGBT施策を評価し、表彰などを行う「work with Pride 2017」、もう1つは企業とLGBTが自分らしく働くことをともに考えるキャリアイベント「RAINBOW CROSSING TOKYO 2017」だ。

LGBTの当事者は今何に困り、何を企業に求めているのか。LGBTが自分らしく働くとはどういうことなのか。またLGBTに対応する、しないによって企業側にはどんな影響が生じるのか。2つのイベントから見えてきたことを、今回の記事ではご紹介したい。

自分らしく働くことがパフォーマンスを高める

企業のLGBT施策を評価する「PRIDE指標」。その表彰式が10月11日、経団連会館で開催された。主催するのは2012年に発足し、性的マイノリティに関するダイバーシティマネジメントの促進と定着を支援する任意団体「work with Pride」だ。

PRIDE指標は、「社員研修の実施」や「当事者コミュニティ」「相談窓口の設置」「人事制度」などを含む5つの項目から企業の取り組みを評価。109の企業や団体から応募があり、キリンやスターバックス コーヒー ジャパン、筑波大学などが受賞した。

イベントの中で特に目を引いたのは、IBMやSONY、freeeなどで働く当事者がそれぞれカミングアウトの経緯を語ったパネルセッションだ。

パネリストの1人、谷生俊美さんは男性として生まれ、現在は女性として生活するMtFトランスジェンダー。日本テレビ放送網株式会社で「金曜ロードSHOW!」のプロデューサーを務めている。

もともと男性として入社し、12年間報道局で社会部の事件を担当。その後カイロ支局で5年間記者をしていた。初めて職場でカミングアウトしたのは2012年のときだったそうだ。

「望む姿で生きるためには、カミングアウトせざるをえない。人によってはそのために仕事を辞める人もいるけど、私は自分のキャリアを否定したくなかったんです」と話す。


右から2番目に座るのが日本テレビ放送網株式会社プロデューサーの谷生俊美さん(筆者撮影)

現在の部署に異動した際、たまたま上司となったのは谷生さんを採用した人事担当者だった。そこで谷生さんはある晩、思い切ってカミングアウトした。上司は「気づかなかった、言ってもらってよかった」と受け入れ、応援してくれた。また「谷生くん? 谷生ちゃん? なんて呼べばいい?」と呼び方まで気にかけてくれたという。

「まだまだ圧倒的にカミングアウトしていない人のほうが多い。それでも私はトランスジェンダー女性として生きることを選択して、それによって確実にエネルギーやクリエーティビティがパワーアップしたと思っています」と、自分らしく働くことが本来のパフォーマンスを高めると強調した。

企業担当者と学生らが双方の意見を交換


参加者で通路が埋め尽くされている、RAINBOW CROSSING TOKYOの様子(筆者撮影)

10月21日に開催されたのは、LGBTと企業がともに、自分らしく働くことを考えるイベント「RAINBOW CROSSING TOKYO 2017」。LGBTの子ども・若者支援に取り組むNPO法人ReBitが主催する、今年で2回目の開催となるキャリアイベントだ。

主にこれから就活に臨むLGBTの学生を中心に、すでに働いている人から企業の担当者まで、年齢やセクシュアリティを問わず約800人が参加。NEC、ギャップジャパン、丸井グループ、野村ホールディングスなど24社がブースを出展した。

企業ブースでは、LGBTの当事者がどんな働き方をしているかという話や、企業の担当者からLGBTに関する取り組みについて説明がされていた。参加者からは、働き方についてや企業としてのLGBTに取り組む姿勢など、リアルな質問が上がり、企業担当者と学生らが双方の意見を交換しながら対話を深めている様子だった。


「すごく説得力があるし、働くイメージを持つことができた」と話す大学生(筆者撮影)

ゲイだけど、それが重要なことじゃなくなってほしい

イベントに参加していたゲイの大学生である江藤祐樹さん(仮名)は、来年就職活動を予定している。企業のブースを訪れてみて「実際に当事者の方が話を聞かせてくれて、すごく説得力があるし、働くイメージを持つことができた」と話す。

家族にはゲイであることをオープンにしておらず、身近な友人にのみカミングアウトしている江藤さん。現在インターンシップとして働いている会社では、「彼女いるの?」や、「将来結婚するときはこういう女性を選んだほうがいいよ」といったことを言われることが多いと話す。

「こういう話に付き合わなきゃいけないのは嫌だけど、かといって『ゲイです』とは言い出せず、めんどくさいなと感じています。オープンにできる企業があるなら、後々楽なのかな」と、できればゲイであることをオープンにして働きたいという。

とはいえ、面接でカミングアウトしたいかと聞くと「迷っている」と江藤さん。「企業にゲイだからこうしてくださいというのはないのですが、ゲイだということで自分を判断してほしくない。カミングアウトしてもいいし、しなくてもいい。それが重要なことじゃなくなってほしい」と語った。

work with Prideで登壇した日本テレビの谷生さんと、RAINBOW CROSSING TOKYOで出会ったゲイの大学生の江藤さんに話を聞いてみて、感じたことがある。それは、両者が求めているのは、「心理的安全」が確保できるかどうかということだ。

LGBTを理解し、支援したいと思う人を「同盟」や「味方」という意味を表す「ALLY(アライ)」と呼ぶが、日本テレビの谷生さんにとっての上司はこのALLYに当たる存在だろう。「この人にだったらカミングアウトしてもいいかもしれない」と思える人が組織の中にいることは大きい。

その上司は、ほかに社内のどの人にカミングアウトしたほうがスムーズにことが進むかを考え、根回しもしてくれたそうだ。たとえ会社に制度が整っていなくても、一緒に考えてくれる人がいるということは当事者にとって非常に心強い。

当事者が会社でなかなかカミングアウトできない理由として、「もし否定されたら」とか、「否定されなくても人事評価に影響がでたらどうしよう」と、ネガティブな影響がありうるかもしれないということをよく聞く。

社内や、特に身近な同僚にLGBTに対する理解がなければカミングアウトは難しい。つまり心理的に安全だと感じられなければ、わざわざリスクを冒してまでカミングアウトするより、セクシュアリティを隠して生きたほうがましだということにつながってしまう。

そんな中、谷生さんの上司のように、相手のことを決めつけず話を聞いてくれたり、何に困っていて、どうすればいいかを聞き、一緒に考え、行動してくれる人がいることは、本人にとっての「心理的な安全感」につながる。自分を開示でき、自分らしく働けるということは本人にとって快適というだけにとどまらない。結果的に、谷生さんのように仕事上のパフォーマンスの向上にもつながるのではないだろうか。

理解者がいれば、制度がなくていいということでもない

とはいえ、理解者が見つかれば、制度がなくていいということでもない。ゲイの大学生の江藤さんも、セクシュアリティを特別に取り上げることなく、フラットに扱ってほしいと話していた。その会社にLGBTに関する取り組みがあることや、制度が整っていることは、ゲイであることが他の人と同じように、平等に扱われるかどうかを測る1つの指標になっている。

会社としてセクシュアリティを理由とした差別の禁止を明文化したり、同性カップルに異性婚と同じような福利厚生を適用するといった、制度を整えることをきっかけに、社員の中からLGBTや多様な性のあり方に対する関心が高まる可能性は十分にある。

それに伴い、具体的に言うと「ゲイという属性だけを取り上げて笑いのネタにしない」とか「セクシュアリティに関係なく1人の人間として平等にとらえる」といった社内一人ひとりの意識レベルまで、理解や認識が浸透するということもあるだろう。

今回のイベントでは企業側による制度の説明が多くあったが、それに加え実際に働いている当事者側から、会社での働きやすさについて実体験をベースとした話も多く聞かれた。両者の話から、制度面と意識面の両方からのアプローチが相互に作用し合うことで「働きやすさ」につながっているような印象を受けた。

自分について開示し、相手についても知ることで心理的安全性を感じるというのはLGBTに限った話ではないだろう。しかし、特にLGBTは見えにくいマイノリティであり、それと同時にLGBTに対して理解したいと思っている人もまた見えにくい。誰が理解があるのか見えない中で、LGBTが自分のことを開示するのは依然ハードルが高い。

自分らしく働くとはどういう状態なのだろうか。2人の話から私は「自分について開示する範囲やその程度を自分でコントロールでき、セクシュアリティを隠さなければならないというコストがかからず、心理的に安全だと感じる中で働ける状態」なのではないかと考えた。

それが本人のパフォーマンスの向上につながり、結果として本人にとっても企業にとってもプラスになるのではないか。

まだまだLGBTに対する施策というのは始まったばかりと言える。2つのイベントでは大手の企業からの参加が目立った。LGBTについて考えることは、さまざまな違いを持った人たちのパフォーマンスの向上につながるきっかけとなるはずだ。今後は、都市部の大企業だけでなく全国のさまざまな企業にも取り組みが広がっていくことを期待したい。