エスカレーターでは、歩く人のために片側を空ける光景が見られますが、安全性や体の不自由な人への配慮から、これを懸念する声も。むしろ、両側に立つことで輸送効率がアップしたという事例もあります。

「片側空け」で困っている人も

 エスカレーターでは、急ぐ人のため片側を空ける光景が見られます。この暗黙のルールのため、困っている人もいるそうです。


東京ではエスカレーターの左側に立ち、急ぐ人が右側を歩く光景が見られる。写真はイメージ(2017年11月、中島洋平撮影)。

 東京都理学療法士協会(東京都渋谷区)は2017年夏、日本エレベーター協会(東京都港区)と協力し、東京都練馬区の練馬駅でエスカレーターの両側に立ち止まって乗ることを呼び掛けるキャンペーンを行いました。これについて同協会に話を聞きました。

――どのような理由やきっかけでキャンペーンを始められたのでしょうか?

 骨折されている方や障がい者はもちろん、半身麻痺や脳卒中、脊髄や頸椎の疾患、パーキンソン病の方など、半身が不自由なため、エスカレーターの右側に立ち止まって乗りたいという人がいることを知っていただくためです。東京では右側を空ける習慣がありますが、こうした方が右側に立っていると舌打ちされることもあります。そのため遠慮して不安定ながら左側に立ち、その横を人が歩くときに不安な思いをされています。

 そもそも、パラリンピック選手の方と「エスカレーターに立ち止まって乗る社会をつくりたいね」と話したことがきっかけです。2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向け、世界から訪れる様々な人が、安心してエスカレーターを利用できる環境を整えたいという思いがあります。

――どのような活動をしたのでしょうか?

 駅を利用される方にエスカレーターの右側を「歩く」か「止まる」か、シールで投票していただき、回答に応じて説明やノベルティ配布などを行いました。「歩く」派が多数を占めたものの、家族連れや高齢者の回答が多かったこともあり、「止まる」と答えた方も割と多かったと思います。しかしこれを新宿駅など都心の駅で行ったならば、比率は大きく変わるかもしれません。

※ ※ ※

 東京都理学療法士協会は、体の不自由な方が右側に立っていても「しょうがないな」と思ってもらえるよう、理解を広げていきたいといいます。

安全性だけじゃない! 効率性アップも

 近年は駅などの交通機関でも、エスカレーターの利用に関する啓発ポスターなどが見られます。先述の東京都理学療法士協会とのキャンペーンだけでなく、鉄道や空港管理者、商業施設運営者などとともに、エスカレーターの「みんなで手すりにつかまろう」キャンペーンを主催する日本エレベーター協会(東京都港区)に話を聞きました。

――キャンペーンはどのような趣旨で行っているのでしょうか?

 危険防止の観点からです。エスカレーターを歩く行為は、人にぶつかったり、ステップを踏み外したり、荷物を落としてそれがほかの人に当たったりと、危険を伴います。そもそもエスカレーターは、歩くことを前提とした構造ではないので、わたしたちも交通事業者と協力してキャンペーンを行う以前から、「歩かないでください」という呼びかけをしています。

――エスカレーターの両側に人が立っているイメージがポスターで使われていますが、やはり片側は空けないほうがよいのでしょうか?

 はい。安全面だけでなく、両側に立っていただくことで、エスカレーターの輸送効率も向上します。エスカレーターを歩けば、その人にとっては到達時間の短縮になりますが、エスカレーターに同時に乗れる人数は減ってしまうからです。たとえば、朝ラッシュ時の駅に到着した電車から降りてきた人を一気にさばくうえでは、両側に立っていただくほうが効率がよいのです。

――そもそもなぜ、片側が空けられるようになったのでしょうか?

 一説には1970(昭和45)年の大阪万博のころから、急ぐ人のため片側を空けることが習慣になったといわれますが、明白な根拠はありません。それ以前はデパートくらいにしかなかったエスカレーターが、バリアフリーの観点などから駅でも多くなるにつれ、やはり急ぐ人が多い場所なので、徐々に「片側空け」の傾向が強まっていったといえるでしょう。

――世界的にも、片側を空ける傾向なのでしょうか?

 はい。やはり歩く人のために片側を空ける習慣のある国が多いと思います。ただ近年、ロンドンの地下鉄駅で試行的に一部のエスカレーターで、両側に立つよう呼び掛ける実験を行い、輸送効率を試験したという事例もあります。


東京メトロの駅に掲示された「みんなで手すりにつかまろう」ポスターの例。夏に行われるキャンペーンだが、通年掲示している場合もある(2017年11月、中島洋平撮影)。

※ ※ ※

 実際にロンドン地下鉄のホルボーン駅では、2015年と2016年に、一部のエスカレーターで両側に立つよう呼びかける実験を行ったところ、片側を空けておくのと比べて30%多くの人を運べたそうです。もともとホルボーン駅はエスカレーターの上から下までの距離が長いため、エスカレーターを歩く人が少なく、片側が空いた状態が目立ったといいます。

 ちなみに、日本エレベーター協会と交通事業者などによる「手すりにつかまろう」キャンペーンは、毎年夏休みに合わせて行われています。子どもや外国人旅行者など、ふだんエスカレーターを利用しない人が増えるためだそうです。

【画像】これぞ理想!? エスカレーター両側に人がずらり


「みんなで手すりにつかまろう」キャンペーン、2017年夏版のポスターイメージ(画像:JR東日本)。