キャリアも幸せな結婚も、そして美貌も。

女が望む全てのものを手にし、したたかに生きる女たちがいる。

それは、東京の恋愛市場においてトップクラスに君臨する女子アナたちだ。

清純という仮面をかぶりながら、密かに野心を燃やす彼女たち。それは計算なのか、天然なのか。

そして彼女たちはどうやって、全てのモノを手にしようとするのだろう…?

局の絶対的エース橘花凛と同期でありながら、地味枠採用の田口レミ。後輩のカマトト女・木崎翔子と花凛を対決させようとするが自分の敗北を認めることになってしまう...




「今日は真冬並みの寒さになりそうなので、皆様気をつけて、行ってらっしゃい♡」

ふと顔を上げると、花凛が写っている。

愛くるしい笑顔でお決まりの締め台詞を言う花凛を、私はチェック用の画面で見つめていた。

-毎朝、この笑顔に一体何人の男が騙されているのだろうか...

そんなことを思いながら、今日の原稿に目を落とす。

私の担当は、朝10時から始まる主婦向けの情報番組だ。

同期とは言え、花凛とこんなにも差が開くとは...会社員にも関わらず、ここまで“見た目がすべて”の世界も珍しいかもしれない。言うならば、美貌がそのまま給料に直結する世界である。

そんなことを考えていると、朝の番組を終えたばかりの花凛が突然スタジオに姿を現した。

一瞬、スタジオ中がどよめく。

「橘花凛が来たぁぁ!」

普段私に全く興味を示さないディレクターまで鼻の下を伸ばしている。他番組担当のアナウンサーがスタジオに現れるなんて、異例中の異例である。

「久しぶりに、同期のレミちゃんのお仕事風景を見たくなって、お邪魔だと知りつつ、つい遊びに来ちゃいましたぁ♡」

でも、私は花凛がスタジオに現れた本当の理由を知っている。

今日のゲストに、将来メジャー行き有力と言われている野球選手・トオルがいたからだろう。


狙った獲物は笑顔で収穫♡女子アナ達の裏の顔


野球選手に興味はナシ。“メジャー級”以外お断り


トオルは日本の球界でも間違いなくトップクラスで、将来はメジャー行きが有力視されているスター選手である。

担当番組のメインMCを務めるタレントの矢崎と、トオルがプライベートでも仲が良かったため、今回の出演が実現したのだ。

花凛はスタッフが用意した椅子にちょこんと座りながら、“レミちゃん、頑張ってね♡”と私に笑顔を送っている。

そして肝心のトオルは先程から花凛が気になって仕方ないようで、チラチラと花凛を盗み見している。その視線を知ってか知らでか、花凛は綺麗な脚を斜めに揃えて座りながら、ニコニコしていた。

-この番組は、私の聖域よ...!

そんなこと思いながら、本番を迎えた。




「トオルさんですよね?いつもご活躍、拝見しております。わ〜実際にお会いすると、背がこんなに高いんですね♡」

本番終了後、そそくさとトオルに話しかける花凛。本当は、私が話しかけようと思っていたのに...

トオルも、今人気絶頂のアナウンサーに褒められ、ニヤニヤしている。

「私、野球大好きで♡今度、是非私の番組でもインタビューさせて下さい♪」

“手が大きい〜”と言いながらトオルと手を合わせている花凛を見ながら、ふと以前インタビューした他の選手たちを思い出した。

職業柄、スポーツ選手との関わりは多い。

しかし花凛に限って言うと、カメラが回っていないところでは、野球選手たちには一切の愛嬌もふりまかず、プロデュサーと話してばかりで、常に携帯を触っていた。

だから花凛は、野球選手には興味がないと思っていた。

しかし、私は大きな勘違いをしていたのかもしれない。

花凛が狙うのは“メジャー級”のみで、その他将来性のない選手には興味がない、ということだろうか...?

仕事でも、大物MCの懐にはすっと入っていくが、今日ゲストで来ている、三流お笑い芸人などとは一回も視線を合わせていない。

「花凛、トオルさんばかりと話してないで、他の人とも話せば?」

ようやく二人の会話が一段落したところで横槍を入れると、花凛はとても驚いた様子でこう答えた。

「やっだぁ〜うっかり!メインMCの矢崎さんに、ご挨拶してくるね♪ 」

これが、大物キラーと言われる橘花凛の怖さである。

野球選手の次は、メインMC。押さえるべき要所をしっかり押さえる。

「レミちゃん、今度ご飯行こうよ。」

そのタイミングで三流お笑い芸人に耳打ちされ、罪はないが思わず彼を睨む。

私のレベルはこの程度なのか...


無敵の女子アナは敵知らず。しかし野球選手との交際は時代遅れ?


計算なのか、天然なのか!?


その数日後 、私はメインMCの矢崎と私、そして花凛の三人で広尾にある『茶禅華』で食事をすることになった。

平日は毎日肩を並べて番組をやっているのに、矢崎から食事に誘われたのは今回が二度目だった。

しかも、私は花凛からこの食事に誘われた。

「今度、矢崎さんが食事に行こうって言ってくれたから、レミちゃんも来てね♡」

“安全牌”として私を誘ったのか、それとも普通に、私の顔を立ててくれたのか...

しかし、抜け目のない花凛のことだ。既婚者の矢崎と二人で食事をし、写真でも撮られたらたまらないと瞬時に計算したのかもしれない。

そんなことを思いながら、タクシーを降りる。

『茶禅華』は駅から微妙な距離にあり、閑静な住宅街にひっそりと佇んでいる。その静けさが 、私たちにはありがたかった。

2階の個室で、私たち三人はテーブルを囲みながら、伝統料理を踏襲しつつも独自のアレンジを加味した、新しい中華料理を楽しむ。




「矢崎さんは、今やすっかりキャスターですね♪」

花凛に褒められ、嬉しそうにしている矢崎。ふと左手の薬指を見ると、いつの間にか指輪が外されている。

ーこの人は一体、何を期待しているんだ...!

私の前では、子供の自慢しかしないのに。一人心の中で突っ込みながら、私は二人の会話に耳を傾ける。

「矢崎さんって、本当に顔が広いですよねぇ。この前の野球選手のトオルさん?とまでお知り合いなんてぇ。」

「彼ねー、優秀な選手だよね。でも残念だけど、彼の選手生命は短いと思う。ここだけの話、トオルは肩に爆弾を抱えているから。」

花凛の笑顔が、急に引きつった(気がした)。

「えぇ〜そうなんですかぁ?じゃあトオルさんは、メジャー行けないんですかぁ?あんな素晴らしい選手なのに、勿体無いですねぇ。」

結局、その日以来花凛の口からトオルの話を聞くことはなかった。



そして二週間後。

肩の故障のため “トオルのメジャー行きは絶望的”いうニュースが一斉に報道された。

「そう言えば、トオルさんとどうなった?連絡とってるの?」

廊下ですれ違いざまに花凛にたずねると、花凛の口からは予想外の一言が発せられた。

「え?トオルさん?アナウンサーとして、取材させて頂きたかっただけで、個別で連絡なんてしないよ〜。」

「レミちゃん、もしかしてトオルさん狙っているの?いいじゃん〜お似合いだよ!野球選手♡頑張って!」

いつか、皆の前でこの女の化けの皮を剥がしてやりたい...

心の底から湧き出る何かを、私はこの瞬間に強く感じた。

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始まった女子アナたちの戦争。今度は後輩・翔子の逆襲が始まる