所得税を大幅に増税しても社会保障費を賄えない(撮影:今井康一)

消費増税ではなく、所得税の累進課税強化によって財源を確保しようという声が野党の間で根強い。立憲民主党や共産党などは消費増税の凍結・中止を主張し、「法人税の増税と所得税の累進課税強化を先にやらないといけない」(立憲民主党の枝野幸男代表=週刊東洋経済2017年11月11日号インタビュー)と訴える。

所得税の累進強化は、格差是正を図る所得再分配機能を高めるために重要だ。また、それが消費増税の代替財源となるなら、財政再建にも有効となる。ここでは、2016年度予算の所得税関連データを活用し、所得税の累進強化によってどれだけの財源を得られるかをシミュレーションしてみよう。

所得税は、課税所得(年収から各種所得控除を差し引いた後の個人所得)が上がるほど税率が段階的に上がり、現在、最低税率は5%、最高税率は45%の7段階の構造となっている。間違いやすいのは、最高税率の対象となる高所得者も、すべての課税所得に45%の税率が課せられるわけではないことだ。各税率区分に該当する課税所得の部分にだけ、その税率が適用される。たとえば、課税所得4000万円以上の税率は45%だが、4000万円未満の課税所得部分については、45%より下の税率がそれぞれ適用される。

1800万円以上全額没収でも2.5兆円だけ

では、ここで2016年度所得税関連データを見てみよう。


所得税の累進課税を強化する際には、まずは最高税率部分へ注目が集まる。データを見ると、最高税率45%に該当する納税者は約7万人、総課税所得は約2.0兆円となっている。すでに税率45%が適用されているため、約2.0兆円×45%=約9000億円が税収となっているわけだ。

仮に、この最高税率を45%から55%に引き上げると、税収は約2000億円増える計算だ。現在、課税所得には一律10%の住民税が課されているため、最高税率の引き上げは90%までが限界。仮に最高税率を90%にすると、増収額は約9000億円となる。

消費税は1%の税率引き上げでざっと約2.5兆円の増収となるため、所得税の最高税率を引き上げるだけでは、残念ながら代替財源としてはまったくの力不足だ。では、2番目に高い税率区分40%の部分を50%にしたらどうなるだろうか。

先ほどの表のように、40%の税率区分には約30万人の納税者が存在し、その総課税所得は約3.2兆円となる。その10%分の増税なので、約3200億円の税収増となる計算だ。ここでも税率を限界の90%まで引き上げたとしてみよう。すると、その増収は約1.6兆円(約3.2兆円×50%)となる。先ほどの最高税率45%を90%に引き上げた際の増収約9000億円と合算すると、約2.5兆円の財源が生まれることになる。

約2.5兆円の財源は確かに小さくないが、それでも消費税率1%分でしかないのも現実だ。それでは、さらにその下の税率区分でも限界の90%まで税率を引き上げてみよう。3番目の税率区分33%で税率を90%に引き上げた場合、増収額は約3.1兆円となる計算だ。これで先の約2.5兆円と合わせて、約5.6兆円の増収額まで拡大させることができた。

ただこの際、表を見ればわかるように、課税所得900万円以上の部分については、住民税と合わせ、税率100%、つまり全額没収となってしまう。課税所得900万円は、ざっと優良大企業の管理職クラスが該当する所得水準。ここまでの累進課税強化を実施すると、現実問題としては人材の海外流出や勤労意欲低下といった負の側面も出てきそうだ。

格差是正と財源確保には税の組み合わせしかない

以上の試算の結果、わかったのは、所得税の累進課税強化は、所得再分配機能の強化のためにはある程度必要だとしても、消費税の代替財源にはなり得ないことだ。

野党の中で累進強化を最も強く主張する共産党の2017年総選挙政策パンフレットを見ると、「所得税・住民税の最高税率を元に戻す、富裕層の各種控除の見直しなど」によって、「1.9兆円」の財源を生み出すとしている。これを今回の試算と突き合わせると、課税所得4000万円以上を全額没収にしても足りず、同1800万円〜4000万円未満も没収に近い水準の税率で課税しないと達成できないことがわかる。このように実際の所得水準との関連がはっきりした際には、有権者の反応がどのようなものになるかは予想がつかない。

現在、政府は2019年10月に消費税率を8%から10%へ引き上げることを予定している。が、それでも社会保障費による財政赤字は年約20兆円もあり、財政健全化にはさらなる国民負担の増加は避けられそうにない。仮に、将来的に10兆円分の増税を行うなら、消費税では4%分の引き上げとなるが、所得税の累進課税強化ではまったく及ばないことがわかる。所得格差是正のための増税と、社会保障財源確保のための増税は確かに両方とも必要となるかもしれない。適材適所でさまざまな税を組み合わせていくのが現実的な解のようだ。