ADK・植野伸一社長(アフロスポーツ)

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 米投資会社ベインキャピタルは11月21日、国内3位広告会社のアサツー ディ・ケイ(ADK)のTOB(株式公開買い付け)について、ADKの筆頭株主で世界広告最大手の英WPPと合意したと発表した。

 ベインの発表文によると、WPPはベインが提示した買い付け価格1株3660円でTOBに応じる。TOBが成立した際には、WPPはADKとの提携解消をめぐり東京地方裁判所に起こした仮処分の申し立てや、日本商事仲裁協会に申し立てた仲裁を、いずれも取り下げる意向という。

 WPPはこれまで株売却に応じない姿勢を鮮明にしていたが、一転して株売却に応じることになり、TOBの成立に向けて大きく前進する。これを受けて、11月21日までとしていた買い付け期間を12月6日まで延長することを関東財務局に届け出た。TOB制度では、TOBの対象者の状況に変更があった際に、周知徹底のため十分な時間を確保しなければならないとの規定がある。TOB期間の延長は2回目となる。

●泥沼化の様相を呈していたADKと株主の対立

 ADKは10月2日、同社株式の24.96%を保有するWPPとの資本業務提携関係の解消と、ベインの買収提案を受け入れると発表した。

 ベインはADK株のTOBを実施。1株当たり3660円で、買い付け総額は最大1517億円。9月29日のADKの株価の終値を15%上回る価格だ。買い付け期間は10月3日から11月15日までとした。

 これにWPPは猛反発。WPPは、ベインによるTOBは「ADKの企業価値を過少評価している」として、TOBに応じない意向を示した。

 続いて17.11%を保有する第2位株主の英資金運用会社、シルチェスター・インターナショナル・インベスターズも、ベインによるADK買収に反対すると表明。ベインが提示したTOB価格が著しく安いと主張し、対抗的買収の提案を呼びかけた。

 加えて、香港を拠点とするヘッジファンドのオアシス・マネジメント・カンパニーも買い付け価格が低すぎるとしてTOBに反対する考えを表明した。

 TOBの成立には50.1%以上の株主の応募が必要となる。そのため、株式市場ではTOBの成立は難しいという見方が支配的だった。

 その後さらにWPPは追い打ちをかけた。ADKからTOBに伴う提携と持ち合い解消について通知を受けた後、ADKが行ったWPP株売却に関するヘッジ取引(デリバティブ取引)が両者間の規定に違反していると主張。東京地裁に株式売却請求権行使禁止の仮処分を申請したのだ。

 ADKは「TOBの結果にかかわらず、WPPとの提携関係を解消させる」意向を表明。TOBをめぐるADKとWPPの応酬は、終わりの見えない泥仕合の様相を呈していた。それが、なぜWPPは一転してTOBに応募することにしたのか。

 ベインの発表文を見ると、WPPの態度の豹変を読み解くカギがある。

「ベインキャピタルがADKの非上場化に成功した際には、ADKの持分を直接また間接的に保有するベインキャピタルの資産運用会社等に対してWPPが少数株主として一定の出資を行う可能性についてベインキャピタルはWPPと協議を行います。今後の事業上の協力については双方で誠実に協議することになりました」

 WPPは、ADKとの提携が解消すると日本での活動拠点を失うことになる。そのためベインの資産運用会社に少数株主として出資し、ADKと引き続き協業していくことで手を打ったという内容だ。

 ADKはWPPと完全に縁を切りたかったようだが、TOBを成立させるために不満の残る決着を選んだといえる。

●異常な高額配当要求

 それにしてもADKはなぜ、約20年間提携関係にあったWPPに三下り半をつきつけたのか。米通信社ブルームバーグの10月18日付のインタビューで、ADKの植野伸一社長は「我々はWPPの子会社ではない。彼らが自らの利益を優先してくるところが大きかった」と、提携解消を決断した理由を明らかにした。これは異常な高額配当のことを指している。

 ADKは2010年12月期決算で最終赤字に転落した。これ以降、WPPの意向がはっきり表面に出てくる。11年12月期決算以来、異常な高配当を実施することになる。

 それまで1株当たり年間配当額20円だったのが、11年12月期は特別配当89円を含め109円、14年12月期に至っては特別配当526円を実施し、配当金の総額は571円となった。配当性向(純利益から配当に回す割合)は30%程度が普通だが、14年12月期の配当性向は646.5%。稼いだ純利益の6.5倍の配当を支払ったことになる。

 WPPはADK株を1033万株保有している。11年12月期から16年同期までにWPPは132億2240万円の配当金を手にしたことになる。ADKは最終利益以上の金額を配当に回さざるを得なくなり、会社資産の切り売りに追い込まれた。

 植野氏は社長に就任した翌年の14年からWPPとの資本業務提携解消に向けて協議を進めてきたが、合意に至らなかった。WPPは徹底抗戦し、“植野切り”に動く。3月29日に開催したADKの定時株主総会で植野氏の再任に反対票を投じた。植野氏の再任賛成率は59.49%で、かろうじて承認された。

 ADKはベインをホワイトナイト(白馬の騎士)として招き、WPPの排除に踏み切った。“脱WPP”の施策の第1弾が高額配当の是正である。

 ADKはベインのTOBを受け入れると発表した10月2日、17年12月期の配当予想を修正。TOBが成立することを条件に、期末配当を実施しないとした。TOBに応募する株主と応募しない株主との間に経済的差異が生じるというのがその理由だ。これで年間配当は中間配当金の10円のみとなる。16年12月期の年間配当金100円から10分の1に減る計算だ。

 WPPの言いなりになって支払ってきた高額配当と決別し、身の丈に合った配当に戻すことを宣言したといえる。

 株価はTOB不成立のリスクを懸念して一時3390円(11月20日の安値)まで売られたが、TOB成立の可能性が高まったことで急反発。11月22日は3650円(5円高)まで戻した。

 ADKはTOBが成立した後に臨時株主総会を開き、株式の上場廃止を決議する。
(文=編集部)