アーティスト写真を除く画像はすべて「フリースタイルダンジョン4th season Rec 4-4」スクリーンショット

写真拡大 (全13枚)

思てたのんと違う!「M-1グランプリ2004」笑い飯 敗者コメント

「次のチャレンジャーはこいつだ!」

【「アーティスト人生終わった」ハハノシキュウのフリースタイルダンジョン後記の画像・動画をすべて見る】

中学生の頃から聞き慣れたZeebraさんの声がスピーカーから響く。

紹介VTRが終わり、スモークとともにラッパーが登場する。そこに立っていたのはBOZというラッパーだった。

「先攻、呂布カルマ!後攻、BOZ!」と中学生の頃から聞き慣れたUZIさんの声がスピーカーから響く。

そこからは本当に刹那だった。サムライが一太刀で相手を真っ二つに両断するように、あっと言う間に試合が終わってしまった。クリティカルで呂布カルマさんの勝利である。

僕はそれを観て「BOZさんダセェ」と思う。

ハハノシキュウ
元から僕を知っている人はお久しぶり。

フリースタイルダンジョン」のオンエアで僕を知り、この記事まで辿り着いた人は、初めまして。僕が、あのハハノシキュウです。

文:ハハノシキュウ 編集:ふじきりょうすけ

ハハノシキュウが振り返る「フリースタイルダンジョン」

今年、出場したMCバトルで闘った相手のほとんどが“「フリースタイルダンジョン」に出たことのある側のラッパー”だったから、その度に悪態をついていた。

僕は、テレビで観てダサかった相手に容赦なく「ダサい」と言い、勝ち負けに関係なく自分という商品を売れなかったラッパーを軽蔑してきた。

それは自分が番組に呼ばれていないから平気で思えることだった。

出産の痛みを「鼻からスイカ」なんて言われても知ったこっちゃない。僕にできることは、その痛みを想像することくらいだ。

「文句があるなら自分でやれ」と言う人をよく見かけるけど、僕は自分でそれをやるつもりだったから、番組に呼ばれないことのフラストレーションは便秘のように溜まっていく一方だった。

でも、逆に言えばそれが希望だった



もしもハハノシキュウが「フリースタイルダンジョン」に出ていたら”という個人個人の妄想の中で、僕はダークヒーローで有り続けられたかもしれないし、僕自身も呼ばれていないからこそ根拠のないことを自信を持ってエゲツなく言えたのである。

ドラフト会議はとっくに終わっているかもしれないのに、どっかで買ってない宝クジが当たると思っていて、むしろその無色透明の希望自体が幸せだと感じ始めているのだ。

そして、いつものようにプロ野球のナイター中継に悪態をつく草野球好きのオッサンのように、あーでもないこーでもないと詭弁をスイングし続けるのである。

やはりそんな状況にもさすがに嫌気がしてきて、番組に呼ばれない人間を集めた予選大会「フリースタイルダンジョン Challenger's CUP」にも出場したが、そこでもハハノシキュウは勝てなかった。

そして、そこで優勝したBOZさんが出ている「フリースタイルダンジョン」をテレビで観たわけだ。

初めて実験的に開催された予選大会の優勝者が結果を残せないと「第2回 Challenger's CUP」みたいなものが開催されなくなる可能性があるし、そもそも「Challenger's CUP」自体がみんなの記憶から消えていくのではないか? と僕は心から恐れた。

それは、自分のエゴのためではなく、こういう場面で名前を選ばれない側のラッパーみんなのエゴのための感情だ。



だから、「Challenger's CUP」の出場者みんなと一緒に「BOZ IS LIKE」という曲をつくった。これで、一応だけど「そういう予選があったんだ」と一定の認知は得れたと思う。選ばれない側のラッパーのチャンスが少しでも増えるように。

ただ、「フリースタイルダンジョンに出たいよ! 俺を呼んでくれよ!」っていうアピールを自ら率先してしていたような状況下になってしまった感は否めないのでこのタイミングでオファーが来たら正直、嫌だなぁと思っていた。

なんかまるで呼ばれない同窓会に無理やり「空気読めなくて悪いけど出席していい?」とほうぼうに聞いて回っていたみたいだったからだ。

しかしながら、転機というのは来てほしい時には来てくれないし、来てほしくない時には来てくれるものなのである。

僕程度のラッパーが自分の心労的な都合で「来年の収録だったら出ます」なんて阿呆なことを言えるはずもない。二つ返事で了承する他なかった。

とは言っても、腹の底は「マジで普通に勝てるでしょ」と書かれた文字が、水を抜いたら丸見えになる仕組みになっていた。

つまり、バイブスは満タンだったのだ。

「フリースタイルダンジョン」への初挑戦

ここ数年の僕のトレンドは“屁理屈”だった。韻でもなくフロウでもなく、ただの“屁理屈”だった。

“屁理屈”だけでどこまで行けるだろう? と僕は想像する。

「もっとビートに乗れ」と言われたら「ビートが車だとしたらみんなが乗ってて窮屈だ。だから僕は乗らない」と答えるだろう。

「もっと韻を踏め」と言われたら「ライム至上主義の一本道が渋滞してるから他の道を選んでる」と答えるだろう。

正解はない、解釈は自由。

僕はラップに人生を投影しない。投影しなくても言葉の選び方でどうにでもなると思っているからだ。

むしろ、僕の人生なんていちいちラップにするほどの人生じゃない。

「フリースタイルダンジョン」への初挑戦

「フリースタイルダンジョン」の収録当日。どれだけ感情を込めて「冷たい」と訴えても弱まることのない機械的な雨だった。

ドクターペッパーのフタを開ける。甘いものを摂取した方が頭の回転が良くなると言うから、騙されたように甘いものを買い込んだけど、普段のバトルではそんなこと一切しないからやっぱりそれなりに緊張していたんだと思う。

だけど、強がりとか抜きにして、あまりにも緊張感が自分の中に生まれなくて、逆に「今日はさすがに緊張するべき日だろう?mr.myself」と言い聞かせたかっただけかもしれない。

そんな独白を垂れ流している間にSAM君が到着する。外の天気とは真逆の笑顔で握手を交わす。しばらくすると、じょう君が戻ってきて挨拶をする。彼と話すのはこの日が初めてだった。

そして、2人とも笑顔で話すのに相反して背中からは重々しい緊張感を放っていた。やっぱ緊張していない自分の方がおかしいのだなと気付く。

同じ回に収録があった黄猿君とFEIDA-WANさんにも挨拶をする。

昨日の『UMB』(ULTIMATE MC BATTLE)大変だったね」と僕は黄猿君に言った。

「いやぁ、マジでDOTAMAさんはすげぇすよ、今まで何度もすげぇって思いましたけど、昨日は今までで一番“この人やっぱすげぇわ”って思いましたよ。延長何本やっても全然声量落ちないし、プロでワンマンとか舞台とかやってるとやっぱ全然違いますね」と、黄猿君は言った。

補足すると、この収録の前日は『UMB』の東京予選があって、決勝が“DOTAMA VS 黄猿”というカードで2度の延長の末、DOTAMAさんが優勝したのだ。



そして、隣にいるSAM君を横目に「その話はしないでくれ」と僕は密かに願っていた。

DOTAMAさんが俺の彼女に《コンプラ》する!って言って、ムカついちゃって『お前あとで裏来いよ!』とか言っちゃって全然ダメでしたね」と僕が触れないでほしい話題に小節が進んでしまう。

どうしてかと言うと、僕がMCバトル大会「ADRENALINE」でSAM君相手に「お前の彼女にブスって言える」的なことをラップしたからだ。僕は彼の彼女を見たことがないし、単純にその角度の罵倒は男という生き物をシンプルに怒らせるだけのものだとわかって言っただけだった。

「この間、俺もシキュウさんに似たようなこと言われましたよ」とSAM君が話を繋いだらどうしようなんて思っていたけど、結局その話はそこで終わった。

チャレンジャーの敗退が続く

2代目モンスター
今回の収録からバトルの尺が、8小節の2ターンになる。今までは3ターンだったため、1本短くなった。「これはチャレンジャーが後攻をとることで、アドバンテージを得られるから」というニュアンスのアナウンスがZeebraさんからあった。

それは、チャレンジャーは後攻をとって、とった分だけ善戦をしなければいけないというプレッシャーにも思えた。というか、今のモンスター相手に先攻を取る意味も男気以外には特に見当たらなかった。

どんだけ感情を込めて男気を発揮したところで何も変わらない、今降ってる雨と一緒だ。僕の精神の角度は相変わらずそんなところだった。なんせ僕は男気というやつに一切興味がない。

DOTAMAさんが初めてチャレンジャーとして「フリースタイルダンジョン」に出た回のフィーバーっぷりを知っている身としては、“今後の人生を左右する場所”と呼んでも全然大袈裟じゃないはずなのだけど、やっぱり何処か危機感のない気持ちがあった。

それは良い意味で言うとリラックスできている証拠だから、コンディション的には全然悪くないのだけど一抹の不安が拭えていない感触も同時にあった。


最初に登場した句潤さんとACE君の試合の1本目が終わって「まあ、3対2で句潤さんかなぁ」と思っていたら2対3でACE君だった。細かい話は割愛させてもらうが、とにかくチャレンジャーが劣勢に見えた

テニスに例えるならコードボールのポイントがことごとくモンスター側に入っていくような感触があった。後で映像で確認すれば全然違うかもしれないけど、8小節2本勝負の後攻というのは勝っているように見えやすいものでもある。

だから、本来ならチャレンジャー側にそのコードボールが入る確率の方が高いような気がするのだけど、そこをねじ伏せるくらいにモンスターが隙を見せなかった感じもする。

ただ、僕としては別にそんなことはどうでもいい

後から映像で観ていい試合だったら全部チャラだし、これは一発録りのレコーディングでしかない。勝ち負けを気にしていたらつまらない無難な試合運びになってしまう。

映像化されないトーナメントの1回戦、2回戦だったらそれでもいいかもしれないけど、映像に残る前提の試合でそんなことをしても、誰の記憶にも残らない。

多分、そういう理由で僕は緊張していなかったのだと思う。「どのモンスターと当たっても泥仕合はしないだろう」という経験からくる驕りがあった。

普通の観客判定のMCバトルでは延長になるような試合が奇数による選別で残酷に切り捨てられていく。雨足は強まる一方だった。

じょう君が試合中にこんなことを言っていた。「新モンスター強すぎる違う 俺以外のチャレンジャーがクソすぎる

おそらく、収録現場の空気を変えたかったのだと思う。「あっ、こいつは今までのチャレンジャーと何かが違うぞ」と思わせないといけないんだという義務感みたいなものが言葉にのし掛かっていた。

そんなじょう君ですら1人目のACE君に勝つも、2人目の呂布カルマさんに惜敗してしまう。

そして、遂に僕の出番である。

ここまでモンスターとして1度もFORKさんが出てきていないから、十中八九FORKさんが来るだろうと僕は思っていた。僕は今のFORKさんと対等に戦えるラッパーが現存するということを確実に示す必要があったし、あの人を目の前で困らせる自信ならかなりあった

紹介VTRが終わり、スモークととともにラッパーが登場する。そこに立っていたのはハハノシキュウというラッパーだった。

この時点で僕は緊張感があるとかないとかそういう次元に意識を持っていくつもりもなく、まるで自分の部屋にいるかのように周りの空気を気にしないことに徹した。いつも、それでうまくやってきた、今回も大丈夫だ。僕は強くそう思った。

会場ではFORKさんの登場を期待する空気もあったかもしれない。

しかし、ここで登場したのは輪入道君だった

フリースタイルダンジョンにおいてのノルマ

まず、前提条件として、「こいつは絶対に100万円を取れない側のラッパーだ!」と思われないこと。ハハノシキュウがそうなってはいけない。「なんか間違って100万円取ってもおかしくはないよね」という妙な期待感が必要なのだ。

さらに、僕の中でノルマみたいなものが2つあった。

・まずFORKさんと対等に戦えること、そして勝つこと。
・それ以外のモンスターには1本目でクリティカル勝ちすること。それも相手が本調子の状態で。


なぜならFORKさんはモンスターの中で唯一、無敗だからだ。輪入道君も今日までは無敗だったけど、さっき試合で初めてSAM君に負けてしまった。

それに僕は、格上の相手にあっさり勝ってしまうことが経験上、結構ある。そこは自負できる。

しかし、輪入道君にクリティカル勝ちは相当難しい。何故なら、彼があっさり負ける時は彼が本調子を出せていない時だけなのである。そして、彼は接戦に強く延長を重ねるほどギアが上がっていくタイプだ。

それでも、僕は本調子の彼にクリティカル勝ちをしたかった

ただ、ここで言う勝ち負けというのは一種の記号でしかなくて「クリティカルで勝った」という記号的な結果がほしいという意味になる。

本当に大事なのはこの一発録りのレコーディングで、どっちが優れたバースを蹴ることができたか? ただそれだけのことである。

この試合は「ADRENALINE」でSAM君を怒らせた時のように、輪入道君を怒らせるのもまた僕の口火次第だと思った。

また輪入道君は、怒らせると怖いけど僕はそれを一切気にしない自信もあった。何故なら僕の精神はレコーディングブースのように周りからの目を遮断しているし、そもそも僕は男気というやつに一切興味がない。

ハハノシキュウvs輪入道 ROUND1

先攻の輪入道君は、初黒星となったSAM君との試合での反省があったみたいで、いきなりフルスロットルの熱量でラップを畳み掛けてきた。義理堅くも僕が過去に吐いた「コンクリートミキサーに突っ込んで死ね」というパンチラインを引用してきたりなんかして。

僕としては非常にありがたい。出鼻を挫くように「さっきの SAMとの試合はなんだ?」と簡単にケチをつける。そして、彼の根性論を全否定するような言い回しを繰り返し「オメェが子猫拾った 優しそうって思われる そういう感覚にマジで虫唾が走るわ」と締める。

少し、ラップの技術的な話をしておく。

僕は、屁理屈至上主義だから、韻もフロウも後付けで、何をどういう論理で言ったか? という部分にパラメータを振っている。だから、相手がすごくフロウ巧者だったりすると判定の時に割れるのがよくわかるし納得できる。

その点、この輪入道君との試合は、輪入道君が初っ端からほとんど韻も踏まずビートにも乗らずに日本語を畳み掛けてきたのだ。この時点で僕はもう何をやっても許される! とバトルの制約から解放された気持ちが強くあった。

「お前だって同じ お前が猫拾ってる所見られたら凄ぇ良い奴って言われるに決まってんだろう!」とアンサーを返す輪入道君だが、瞬時にそれへの返答が思い付く。むしろ、ここで思いつかなかったら負けだ。

僕が猫拾ってたらなんか解剖とかするんじゃねぇかって疑われて警察来るに決まってんだろう!」と僕は悠々とアンサーを返す。

そして、最後の締めに1ヴァース目であえて触れなかったラインに対して遅れて返答する。「あと、コンクリートミキサーは2008年の俺のラインだ」。

なんか不思議なもので、この試合は僕と輪入道君で2人きりで個室でバトルしたんじゃないかって錯覚があった。そんな精神世界での戦いだったと僕自身は思っている。

1本目が終わって自覚的にクリティカル勝ちは無理だろうなと思ったが、「3対2でとりあえず勝ったかな」と感じていた。

ただ、僕の感触と審査は結構食い違う。2対3で輪入道君のポイントになった

やっぱり、大事な舞台だからこの判定は結構心が折れる。多分、他のチャレンジャーもそうだったと思う。

ハハノシキュウvs輪入道 ROUND2

2本目で、コンクリートミキサーの話が続けられる。「そうだよ、これはアンタの『UMB2008東京予選』のラインだ」「オメェはコンクリートミキサーに突っ込んで死んだ人の顔を見たことがあんのか?」と輪入道のヒートアップしたラップが続く。

ここで「コンクリートミキサーに突っ込んで死んだ人間の顔なんか見たことあるわけねぇだろ」くらいシンプルなアンサーをした方が正攻法だったと思うのだけど、僕はどうしてもそれをやりたくなかった。

出産の痛みを「鼻からスイカ」なんて言われても、知ったこっちゃない。僕にできることは、その痛みを想像することくらいだ。

最近、僕の中で「想像すること/想像させること」が結構大きなテーマになっていて、それはMCバトルのプレイヤーとして、ラッパーとして、というより一人の表現者として無視できないことだと感じていた。

だから、どれくらい伝わったかわからないけど、僕はそういう方向性でラップをした。

顔が見えない空白を表現するのがやり方なんだ」「いとうせいこうの『想像ラジオ』から読み直せ

コンクリートミキサーの話をするのと同時に、紹介VTRにもあった僕が顔を隠してラップしていることにも言えることを吐いたつもりだった。

「オメェの考えてることが全部現実 現実 それだけ」「コンクリートミキサーの引用、あれは文学史、ちゃんと書いてる手紙」

ラップ中に“文学”という言葉を出してしまったのが、あまりにおこがましくて正直死にたいけどしょうがない。

本当は「『セメント樽の中の手紙』という小説へのオマージュなんだ」と言いたかったのだけど、作品名が咄嗟に出てこなかったからこうなったのだった。“文学史”だなんてドヤ顔を隠してでも言えるほど教養も知識も経験も蓄えておりません。

そして、輪入道君の賢いところはこの手の話に乗っかると怪我をするとわかっていて、というか自分がわからない話はしない代わりに、押韻に逃げるということが器用にできるところにある。

文学史 うんこ付き ハハノシキュウなら運の尽き」と即興性のある押韻をすることによって、口喧嘩がラップバトルに戻った感触があったかもしれない。というか、人によっては「やっと韻踏んだよ、この試合」って韻以外のものがまるで感度を刺激しなかったかもしれない。

しかし、僕はそれでも屁理屈に突き通したかった。輪入道君が言った「オメェの計算は狂った」というラインを拾って、計算の話にシフトした。

ただ、輪入道君が最後に言った「そこらのDQNと一緒にすんじゃねぇ」という締め方が格好良くて「格好良いこと言うんじゃねぇ! ふざけんな!」 と思ったのは確かだ。

僕はどうしてもFORKさんと戦いたかったから「計算狂ったのはお前の方、お前の大将は足し算と引き算しかできないらしいが、こっちは掛け算で躓いてんだよ」とハハノシキュウというラッパーが認知されているていで言ってしまう。

あくまで今日はハハノシキュウ入門で行くべきなのに、飛ばしすぎてしまったなとは正直思った。というわけでテレビではできない補足をします。実に格好悪い。

“大将”という言い方が良くなかった。せめて中ボスと言えば良かったなと思ってはいる。要するに、FORKさんが前の収録で「足し算を終えて引き算を始めている」と言っていた話を皮肉ると同時に、自己紹介をしたかったのだ。

キャップに刺繍された「8×8=49」のロゴは、掛け算で躓いていることを示しつつ、「これでハハノシキュウと読むこともできます」と認知されることを意識したわけだ。

そう、つまりちょっと飛ばしすぎたのだ。

掛け算は普通、小学2年生から習う。つまり、輪入道君に対してFORKさんも含めて「君らは小学1年生で足し算と引き算と“あいうえお”しかできない。それに対して僕は掛け算に進んでいるんだ」という意味を込めて「オメェは、“あいうえお”を覚えている途中か? 小学1年生」「俺はクルマ(輪入道)に轢かれないように黄色いのを着てんだよ」と最後を締める。

1年生は横断歩道とかでも目立つようにランドセルの上から黄色いカバーを付けるルールがあるという意味だ。さらにクルマと妖怪の輪入道を掛けてる、なんて誰も気付くわけがない。そこを説明する時間もなかった。

自分で書いてて虚しくなってきた。8小節2本ずつはあまりにも短過ぎる。

ただ、僕は根拠もなくROUND3のバトルで決着をつけなくてはと思い込んでいて、序破急の急を強く意識していた。

ところが、判定は残酷にも2対3で輪入道君の勝利。

なんか変身中に攻撃されたセーラームーンみたいに興醒めだった。

あっけない終わり

アーティスト人生、終わった」と思った。

この瞬間から今に至るまで、ずっとイライラしていた。この記事を書いている間もイライラしていた。有給休暇を使わせてくれた会社ですらイライラしていた。

何周も何周も考えた。時計を左回りにしたり、斜めに横断したり、叩いて割ったりしてひたすら考えた。多分、それをここに全て書き連ねるのは不可能だと思う。

幾つもある心当たりの中で、特に僕が比重の大きさを感じたのは、心の後ろ盾を失ったことだと思う。「フリースタイルダンジョン」に呼ばれていないからこそ保てていた自尊心と生意気さがいっぺんに姿を消したのである。

的確な比喩かわからないけど「一度も女の子に告白をしたことがない」という希望が僕には必要だったのだと思う。振られる心配をせずに他人の恋愛論を馬鹿にできる。まあ、僕が顔を出さないで続けていることもそれに近いかもしれない。

そして、僕がどうしようもなく弱い人間だと露呈してくれる。

僕はラップに人生を投影しない。投影しなくても言葉の選び方でどうにでもなると思っているからだ。むしろ、僕の人生なんていちいちラップにするほどの人生じゃない。

そう言っても、本当は自分の人生をリアルにラップした時の跳ね返りが怖いだけなのだ。例えば、僕が家族愛について赤裸々にラップしたとしよう、その曲を「ダセェ」と言われたら流石にダメージを受けるし、立ち直れない気もする。

そういう意味で後ろ盾を失った僕は、平静を保てずにいて結果的にイライラしているのだ。

「アーティスト人生、終わった」とはまさにその通りだ。極端な話、もう辞めちまった方が心身のためかもしれない。

僕のこういう考え方というかマインドが「売れる」とか「お金を稼ぐ」とは明らかにミスマッチなのはわかっている。わかってはいるけど、僕は自分の未経験をきちんと売りに出したいのだ。

僕の書いた小説は誰にも読ませない限りは名作だ。もしかしたら、その宝クジは当たりかもしれない。

だから、仕事が欲しい。CM仕事をしたことがない。それが希望だ。小説を発表したことがない。それが希望だ。アイドルの作詞を正規リリースでしたことがない。それが希望だ。MCバトルの大きい大会で優勝したことがない。それが希望だ。

メジャーデビューをしたことがある。それは絶望かもしれないが、まだ売れたことがないっていう点においては希望だ。

だから「フリースタイルダンジョン」で勝ったことがないという点においても、それが絶対的な希望だと思うしかないんだ

「リベンジに来てほしいね」中学生の頃から聞き慣れたZeebraさんの声がスピーカーから響く。

そして「フリースタイルダンジョン」の放送当日、一切観たくないけど観ないといけない。

テレビの前でようやく覚悟決めたら、輪入道君がこんなことを言っていた。

「オメェ本当は文章も書ける良い奴だろ」

僕はテレビに向かって呟いた。

うるせぇよ、今ちゃんと書いてるわ、『手紙』