広島戦でJ1リーグデビューを果たしたFC東京の久保建英【写真:Getty Images】

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率直に反省したシュートの場面

 11月26日、明治安田生命J1リーグ第33節が行われ、FC東京の久保建英がJ1リーグデビューを果たした。“飛び級”で出場したU-20W杯でも強烈なインパクトを残した16歳のFWは、J1デビュー戦でもその才能を存分に発揮。ゴールやアシストといった結果こそ残せなかったものの、今後に向けて大いに期待を持たせるパフォーマンスを披露した。(取材・文:後藤勝)

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 久保建英がJ1デビューを果たしたピッチ上には、同じFC東京U-18出身の椋原健太がいた。ただし対戦相手として。東京からセレッソ大阪へ移籍した椋原は今シーズン途中の8月15日付でサンフレッチェ広島への移籍を果たし、J1残留に貢献した。J1第33節の東京戦でも右サイドバックとして先発、対人守備に上下動にと、効果的な働きを見せていた。

 彼は試合中、久保にこう話しかけていたという。

「憶えてる? きょうはダメだよ!」

 ことし4月15日のJ3第5節、セレッソ大阪U-23の一員としてオーバーエイジ枠で出場した椋原は、久保にJ3での初ゴールを許し、15歳10カ月11日でのJリーグ最年少得点記録達成の瞬間を見せられていたのだ。二度同じ目に遭ってはたまらない。

 ひとまわりほどの年齢差はあっても青赤一門の先輩後輩同士、話しかけられる距離感があるのはいいが、点を獲られたら面目が立たない。結果的に初出場初ゴールとはならなかったものの、椋原の心中としてはひやひやものだったらしい。「最後パスを出すところを出さず、自分で撃っていったのは助かりました」と、胸を撫で下ろしていた。

 結果を残したいがゆえの選択だったのではないかというのが、椋原の分析だった。まだ若く評価が確立していない選手であれば、まずは目に見える結果を残して能力を証明していかなくてはならない。

 久保の技術は対戦相手の広島から見ても「みんなベンチに帰ってきてから『巧いよね』と感心しきりでした」(椋原)というほどのものではあるが、はたして点を獲りたいという純粋な欲が勝ったものなのかどうか。

 アディショナルタイムに久保が自ら持ち込んで撃った中央からのシュートは、広島の守護神、林卓人によって阻止された。決まっていれば2-2の同点で勝点1を持ち帰ることができたアウェイゲーム。久保は率直に反省した。

「自分としては、ディフェンスの選手に詰めてきてもらう状況をつくって股下(を通すコース)でファーに蹴れたらいいなと思ったんですけど、ちょっとコースがずれてニアというかキーパーの正面に行ってしまって。

 あれがファーだったらもしかしたら(決まっていたのでは)と考えると、悔しいというのもありますし、やっぱり狙ったところにシュートが行かないのは練習不足なので、帰ってからもっともっと練習したいと思います」

「きょう掴めるものは掴めた」

 若さが出たと言うこともできるだろう。ただそれだけに、拙いところが改善されればどのくらいすごい結果を残すのだろうと期待が高まるのもたしかだ。久保の技術はあきらかに突出していて、組織サッカー全盛のこの時代に、最終盤の4分間で、単独でゴール付近に迫るプレーを二回見せた。

 今シーズンの東京で言えばピーター・ウタカが意図して単独突破を試みでもしないかぎりは見られないボール運び。2001年のヴェルディではエジムンドが突出した個人技を披露して決定的なチャンスをつくりゴールを量産していたが、その水準だと言っていい。つまりナイジェリアやブラジルの名手並の圧倒的な技術を久保建英は有している。

 現在の総合的な実力では先発ではなく途中からの出場が妥当であり、もっと成長しないかぎりチャンスがあったとしても活かせない――試合後にミックスゾーンで取材に応じた久保は、現時点での位置をそう認識していた。

 そのうえで言った言葉が「きょう掴めるものは掴めたと思うので、この感覚を失わないように試合に絡んでいけたらいいなと思います」。育成の試合で発揮していたパフォーマンスがJ1に来るとどうなるのか、誰もが固唾を呑んで見守っていたはずだ。結果はご覧のとおり。久保自身も手応えを掴んだことが、上記の言葉ににじんでいる。

 高校生の身分でプロ契約を結んだ経歴では先駆者に当たる郄萩洋次郎も久保の能力を認めていた。

「(久保に言うべきことは)特にないですよ。自由にやってもらえばいいと思う。ボールを持ったらいいプレーをするし、ポジショニングもいいと思うので、別にぼくが何かしてほしいということはない」

疑いない才能。周囲は一様に舌を巻いた感も

 首脳陣はどのように捉えたのか。「仕掛けながら運べる」と立石敬之GMは特長を端的に述べたが、安間貴義監督はさらにこまかくプレー内容を並べた。

「彼のところでしっかりとボールを前に運べるようになりましたし、タメをつくることもできました。それ以上にドリブルの仕掛け、周りの選手をうまく活かすこと、しっかりと状況判断をしながら、危険なプレーも要求以上のこともしてくれている」

 郄萩は3-4-3の時点では左右のフォワードを分け合い、4-2-3-1となってからは右に位置して中央の久保を見守り、試合中間近にいた。ピッチサイドにいた安間監督、スタンドにいた立石GM、さまざまな場所にいた同じチームの人物が一様に舌を巻いた感のある評価を与え、対戦相手も認めているとあっては、もう才能そのものに疑いの余地はない。

 これをいかに活用できるようにしていくかが、今後の課題となる。安間監督はこうも言っていた。

「周りとの関係がもっと良かったら、もっと活きると思う。周りに信頼されて自分のほしいタイミングで預けてもらえるようにもっともっと意思表示していく必要があるとも思います」

 ピッチ上の序列は年齢よりも皮膚感覚で理解できる実力によって成り立つ。そして「巧ければ一目置かれる」と言うときのその巧さは、選手から見た巧さだ。久保にはそれがあり、信頼が十分ではなくとも、ボールがまったく出てこないような状況ではない。関係がよくなっていく素地はある。改善されれば、久保とチームの双方が発展する。そうなってほしいものだ。

 最後にひとつ言及しておきたいのは、守備意識の高さだ。途中出場で他の選手よりも働かなければという意識が作用したのかもしれないが、途中出場してすぐの23分に久保は猛烈なプレッシャーをかけに行き、30分にはかなり長い距離のプレスバックを見せている。

 このあと東京ゴール裏からは「タ・ケ・フサ!」コール。実効性が伴うプレーであり、周囲を鼓舞する働きだった。

 ゴールデンエイジで身に付け、短い期間ではあったがバルセロナでも育まれた技術と判断と、FC東京のアカデミーにやってきてから高めた守備意識とのハイブリッドが久保の現在地。

 ボールを奪うことで攻撃の第一歩とし、個人でボールを運びながら周囲との連係も活かす。この姿を昇華させ、J1で常に見られるようにすることが、次のミッションとなるだろう。

(取材・文:後藤勝)

text by 後藤勝