2017年の最終戦アブダビGPをフェルナンド・アロンソが9位でフィニッシュし、3年間に及んだマクラーレン・ホンダの幕が閉じた。


アブダビGP終了後にマクラーレンとホンダの関係者は記念撮影を行なった

「今日はきちんと実力を発揮して終わりたかったので、もちろんこれが我々の目指しているところではなかったにしても、今日の実力を出し切って狙いうる最大限のポイントを獲ることができたことには満足していますし、今年のベストレースのひとつだと思います」

 トラブルもなく最後のレース週末を終えたホンダの長谷川祐介F1総責任者は、ホッとした表情でそう語った。

 なかなか出口の光が見えない長いトンネルのなかを歩いてきたような3年間だったが、最後に現状のMCL32というマシンが持つポテンシャルを最大限に引き出し切ってのレースができた。そのことに対する安堵と満足だった。

 何度も悩まされてきたMGU-H(※)を中心としたトラブルは、シーズンを経るなかでハード面に何度も対策を施し、ソフト面(使い方)で問題発生を抑える方策も見出してきたことで姿を消した。抜本的な対策を施すためには大幅な設計変更が必要で、ホンダジェットの技術も活用しての対策が来季に向けて進められているという。

※MGU-H=Motor Generator Unit-Heatの略。排気ガスから熱エネルギーを回生する装置。

「実力不足というかパフォーマンスが足りなかったのは認めざるを得ませんけど、シーズン後半戦には信頼性もパフォーマンスも上がってきていましたから、そういう意味ではよくがんばってきたなと思います。ただ、レースは結果がすべてですから、ペナルティも含めてレースをうまくまとめられなかったのは残念でした。でも、実力的には中団を争えるレベルまで来ています。ですから、むしろよくここまでがんばったなというほうが今の気持ちです」(長谷川総責任者)

 第19戦・ブラジルGPと同じく、ドラッグ(空気抵抗)の大きさを気にしているマクラーレンは金曜フリー走行でレスダウンフォースのセッティングをトライし、最高速は他チームと完全に同等の325km/hまで出してみせた。だが結局は、やはりダウンフォースをつけてコーナーを優先するほうがMCL32にとっては速いということに落ち着いた。

 その結果、土曜には最高速は316km/hまで下がってしまったが、よくも悪くも、ダウンフォースをつけてハンドリングと低速コーナーからの立ち上がり加速で稼ぐのがMCL32にとっては最良なセッティングだった、ということだ。それが、この最後の2戦でのトライで辿り着いた結論だった。

 また、予選では別の問題もあった。

「僕らには他チームが使っているような『魔法のモード』がない。だから、ストレートのたびに0.2秒ずつ失っている」

 予選でQ3に進めず11位に終わったアロンソも、13位のストフェル・バンドーンも揃ってそう口にした。フリー走行から予選にかけてメルセデスAMGが0.8秒、フェラーリが0.7秒、ルノーが0.6秒縮めてきたのに対し、マクラーレン・ホンダは0.25秒しか速くならなかった。そのことを指摘しているのだ。

 実は第16戦・日本GPからFIAがパワーユニット運用の取り締まりを強化し、エンジン吸気にオイル成分を紛れ込ませて燃焼エネルギーを増大させる”オイル燃焼”というグレーゾーンの技術が使いづらくなった。

 過去のFIAとの遺恨もあることから、当初から法の抜け穴を突くことに否定的だったマクラーレンはオイル燃焼をやめた。ライバルメーカーも当初は様子を見てオイル燃焼を控え目にしていたが、走行前にルノーの排気管からオイルの煙が上がるのを見ても、明らかにオイル燃焼は復活していた。フリー走行から予選にかけての異様なタイムの伸びは、そこに理由がある。

 それに加えて、コーナーで稼ぐためにつけたダウンフォースが足かせとなって、ストレートが伸びない。そのためにドライバーたちは、なおさら「ストレートで失っている」と感じたのだ。

 しかし、セッティングという観点では、MCL32というパッケージが持つポテンシャルは最大限に引き出した。

「ラップタイムとして一番速いものを選択しているということに対してはエンジニアを信じていますから、そういう選択だったんだと思っています。フリー走行では3強チームに次ぐ速さがありましたし、ロングランも安定していましたしね」(長谷川総責任者)

 予選ではいつものフォースインディアだけでなく、ウイリアムズのフェリペ・マッサ、そしてルノーのニコ・ヒュルケンベルグにも敵わなかった。カルロス・サインツ(ルノー)がアタックの最中にエンジントラブルに見舞われていなければ、12位・13位だったかもしれない。

「あとどれだけタイムを稼げたかという話をすれば、あちこちにあるよ。でも、今日の僕らはものすごく速いというわけではなかったし、11位になれたのはよかったと思うよ。Q3に行けば9位や8位になれる可能性もあったかもしれないけど、新品タイヤを履いた11位のマシンに抜かれてしまうかもしれない。それよりも明日のスタートタイヤを自由に選べることのほうが大きいし、11番手もスタートポジションとしては悪くないよ」(アロンソ)


マクラーレン・ホンダのラストレースで9位入賞を果たしたアロンソ

 決勝はスタート加速でマッサをかわしたアロンソだったが、ターン8でエステバン・オコン(フォースインディア)を抜きにかかってオーバーシュートしてしまい、次のストレートの立ち上がりでマッサに再逆転を許してしまう。まさに前戦のブラジルGPと同じように、マッサに抑え込まれ、彼のペースに付き合わされることになってしまった。

 しかし21周目、マッサに先がけてピットに飛び込みアンダーカットを仕掛けると、翌周にピットインして目の前にコースインしてきたマッサをアロンソはDRS(※)を使って抜き去った。ピットアウト直後の、まさにワンチャンスをモノにした格好だ。そこからはマッサを引き離していき、ひとり旅になった。

※DRS=Drag Reduction Systemの略。ドラッグ削減システム/ダウンフォース抑制システム。

 ピットストップがウイリアムズより1秒長くかかってしまったのは、マクラーレンのピット作業の実力を考えれば仕方のないことだったが、レース戦略としては成功だった。

 トラブルもなく、最良のセッティングを施し、戦略も成功――。マクラーレン・ホンダは最後のレースで、自分たちの持っている実力をすべて出し切った。その事実が冒頭の長谷川総責任者の言葉どおり、チームスタッフ全員に喜びと安堵をもたらした。

「入賞して終わるというのは、この(マクラーレン・ホンダという)プロジェクトにさよならを言うには最高の形だったと思う。数ポイントだけというのも、まさに入賞圏の最後のポジションを争い続けてきたこの3年間を象徴するような結果だった。それでも、スタートもレース戦略もすべてが問題なかったし、堅実なレースができたね。来年に向けて僕らが正しい方向に進んでいることの証だよ」(アロンソ)

 ウイリアムズには勝ったが、フォースインディアとルノーには敵わなかった。もしダニエル・リカルド(レッドブル)とサインツがトラブルでリタイアしていなければ、このアブダビでは入賞する力はなかったということになる。実力を出し切ってようやく、入賞圏の最後の数席を争うポジション。確かにそれがマクラーレン・ホンダの辿り着いた終着点だ。

 アロンソは、最終ラップに向けてエネルギー回生システムの放出を抑えてバッテリーをフル充電にし、54周目にフルアタック。バルテリ・ボッタス(メルセデスAMG)の記録していたファステストラップ更新を狙ったが、1.019秒も及ばなかった。メルセデスAMGの2台とセバスチャン・ベッテル(フェラーリ)に次ぐ4番目のタイムではあったが、オイル燃焼モードの差を差し引いても、トップとはそれだけの差があったのだ。

「ノーマルなパワーユニットになる来年は、今までとはちょっと違った結果が手にできると思っているよ。来年は表彰台争いのような、本来のポジションに戻ってきたいと思っている」

 チェッカードフラッグを受けた後、ピットに戻る途中で優勝したボッタスや引退するマッサと同じようにドーナツターンを披露したアロンソは言った。

「みんな、タフなシーズンだったけど、よくがんばってくれた。今年だけじゃなく、3年間ずっとだね、ありがとう。来年に備えてドーナツターンの練習をしておいたよ!」

 こうしてマクラーレンとホンダの3年間は終わりを迎えた。

 長い長いトンネルの終点に、出口はまだなかった。しかし、マクラーレンもホンダも、ふたつに分かれるそれぞれの道の先に、光明を見出してシーズンを終えることができた。

 土曜の夜、メディアを前にマイクを取ったザック・ブラウン代表は「非常に厳しい期間だったが、ホンダはすばらしい人々であり、彼らとはすばらしいパートナーシップを築いてきた。これからも友人であり続けるだろうし、将来的にふたたびタッグを組むことも絶対にないとは言い切れない」と挨拶した。

 それに対して長谷川総責任者は、マクラーレンに対して最後まで技術者として真摯な態度を貫き通した。

「3年間ありがとうという気持ちです。今までいろいろありましたけど、それはハードウェアの性能としていい悪いという話をしていただけで、人間同士は仲良くやっていましたし、何か問題があったときは一緒に解決しようというスタンスでやってきましたから、その点は本当にありがたく思っています」

 9位にしかなれなかったことを嘆いても仕方がない。マシンのパフォーマンスは一朝一夕には飛躍しない。それよりも大切なのは、今の自分たちが持つ力をアブダビの地ですべて出し切ることができたということだ。

 そして3年間の長いトンネルに幕を引き、新たな未来へと歩き出す。その旅路はすでに始まっている。

◆これが真相、ホンダとマクラーレンが決別したホントの理由>>

■モータースポーツ 記事一覧>>