拡大するアバの解散後ビジネスの中でも特徴的なのが「マンマ・ミーア!ザ・パーティ」だ(写真:著者撮影)

北欧の福祉国家という印象が強いスウェーデン。国の人口は日本の10分の1以下というこぢんまりした国だが、ノーベル賞をはじめ、新しい文化、産業を生み続ける国でもある。そして特筆すべきものの1つが、世界的アーティスト・アバを生んだことだ。
1970年代にキャッチーなメロディと美しいハーモニーで、世界中を魅了した男女4人組ポップグループ。1982年に活動を休止してからすでに35年が経過しているが、過去記事でもご紹介してきたように解散後ビジネスを拡大させている。
そのビジネスの中でも代表的なものの1つが複合型エンターテインメント・ショー「マンマ・ミーア!ザ・パーティ」。今回の記事では、あまり知られていないその現状を徹底リポートしたい。

「マンマ・ミーア!」の舞台を再現


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ストックホルムの市街地からフェリーで5分。ユールゴーデン島の乗り場に着いてすぐのところに、スウェーデン最古の遊園地「Gröna Lund(グローナルンド)」がある。31のアトラクションを有し、年間150万人が訪れる人気スポットだ。

敷地内にある野外ライブ会場も有名だ。毎年夏になるとロックやポップスのコンサートが開催され、ビートルズ、アバをはじめ、数多くの有名アーティストが公演を行ってきた。今年7月にはイギリスからエルトン・ジョンがプライベートジェットでやってきてコンサートを行ったという。

遊園地の入り口のすぐ左側に一軒のレストランがある。飲んで、食べて、歌って、踊ることができるエンターテインメント・レストラン「Tyrol(チロル)」だ。ここで月に15回以上行われているのが「マンマ・ミーア!ザ・パーティ」だ。

ここでは映画『マンマ・ミーア!』の舞台であるギリシャの海岸沿いのタヴェルナ(飲食店)を再現。そこでキャストがミュージカルさながら、物語に合わせてアバのヒット曲を歌って踊る。映画とミュージカルを合わせたようなイメージだ。

値段はサービス料込みで1人1340スウェーデン・クローネ(日本円で約1万8000円)。テーブル席は全部で450席。満席として単純計算すると1日約800万円の売り上げになる。毎月最低15回の公演が組まれており、年間にすると約16億円もの売り上げになる。

前回記事「解散後35年『アバの博物館』が大盛況なワケ」でもお伝えしたが、ミュージアムの近くにはアバ関連の施設がまとまって点在しているが、そこからこのレストランまで歩いて1、2分だ。

ショーは午後6時半から始まる。15分前に店に到着すると、すでに入り口には長い列ができていた。客層を見渡すと年齢層は高く、40代から60代くらいがほとんどを占めている。家族連れでやってきたのだろうか、時折10代の姿も見かける。

お店に入った時点で舞台はすでに始まっている


店内はギリシャの海沿いにあるレストランのようなイメージだ(写真:著者撮影)

案内されるまま店に入ると、会場内はオリーブの木々、噴水、ブーゲンビリアなどが飾られており、まさにギリシャの海沿いにあるレストランのようなイメージだ。

テーブルも整然と並んでおり、天井が高く、広いビアホールのような感じだ。ウエイター、ウエイトレスが入り口でこのレストランについての説明をしてくれるのだが、その大げさな話し方で、すでにこの時点から舞台が始まっていることに気づく。

ウエルカムドリンクのシャンパンを飲みながら、テーブルへ案内されるのを待っていると、誰かが階段から転げ落ちる音が聞こえた。びっくりして目をやると、男性ウエイターがひっくり返っていた。しかし、すぐに立ち上がりウエイトレスに向かって大声で言い訳をしていたので、その瞬間、これも演出の1つだと気づき、思わず口元が緩んでしまった。

しばらくすると、髭を蓄えた短髪の男性ウエイターがテーブルまで案内してくれた。どうやらここの従業員はすべてが出演者のようだ。

「今日、あなたの友人になる人は、ここにいる2人だ! 仲良くやってくれ!」

そう言われ、相席のテーブルに案内された。どうやら人数が少ない客同士は相席になるようだ。予約の時点であらかじめ人数チェックができるため、座席の割り振りは事前に完了しているのだろう。

テーブルに座っていたのは、スウェーデン北部でフィッシャーマン(漁師)をしているという60代の夫婦だった。妻の方が昔からアバの大ファンだという。早速会話が弾み、自己紹介をしながら運ばれてきた前菜をつまみ、ショーが始まるのを待った。

会場全体を隅々まで見渡すと、ステージは正面1カ所ではなく、四方に設定されている。ウエイター、ウエイトレスも出演者であるため、レストランの前方、後方、左右はもちろん、テーブルとテーブルの間の通路さえもパフォーマンス用のステージになるようだ。

このレストランの食事は、ギリシャ料理のフルコースだ。ドリンクのみ別オーダーになっている。注文したドリンクが来てしばらくすると、照明が暗転し、ショーが始まった。

この「マンマ・ミーア!ザ・パーティ」の物語は映画とはまったく違う設定で、アバの曲だけはオリジナルの英語のまま歌われるが、物語は英語ではなく、スウェーデン語で進行する。恋愛の物語であることは理解できたが、ストーリーを追うことができず、雰囲気を味わうことしかできないのがちょっと残念だ。

ただし、それで観客を飽きさせることはない。物語はテンポよく進行し、合間で次々とアバのヒット曲が演奏されていく。相席のフィッシャーマンはセリフに反応し、ゲラゲラと笑っている。コメディ要素もちりばめられており、スウェーデン語がわかる人にはストーリーもかなり面白いようだ。

空間を縦横無尽に使ったパフォーマンス


観客を飽きさせない演出の数々(写真:著者撮影)

中盤、アバの曲に合わせて、まるでシルク・ドゥ・ソレイユのように宙に舞いながら女性が踊る幻想的なダンスに魅了された。照明も美しく、空間を縦横無尽に使ったパフォーマンスが目の前で繰り広げられるため、かなりの迫力がある。

そしていよいよフィナーレだ。物語は進行したまま、テーブルごとに素早くウエイターがチェックを済ませていく。すべてのチェックが終わると、ウエイター、ウエイトレスがお客さん全員を立たせ、肩を組みながら出演者と一緒に歌いながらステップを踏むシーンが展開される。高揚感もあり、その場の雰囲気に引き込まれて気づくと大声で歌って踊っていた。

飲んで、食べて、歌って、踊って、笑って、ショーは約2時間半で終了した。

普通ならこの時点で照明が明るくなり終了、全員退出となるのだが、このショーはまだ終わらない。ウエイターが素早くテーブルを傍らに寄せると、今度はテーブルがお立ち台に早変わり、センターのミラーボールが回り始め、そこから一気にディスコ大会へと突入していった。

曲はアバのメドレー・メガミックス。夫婦で手を取って踊り始めたり、青春時代を思い出したのか、ほろ酔い気分で1人お立ち台に立つ貴婦人も見える。参加者は皆、顔を紅潮させて踊っていた。

「マンマ・ミーア!ザ・パーティ」は「これでもか!」と言わんばかりの徹底したエンターテインメント・ショーだった。音楽、演劇、サーカスが一体になったショーを見て、フルコースディナーを食べた後、ディスコへ行ったと考えたら、値段も手頃なのかもしれない。

チケットは日本から予約することも可能だが、インターネットのみ。夜の部はソールドアウトが相次ぎ、もはやプラチナチケット化している。

今後のビジネスのヒント

この「徹底したエンターテインメント・ショー」にこそ、今後のビジネスのヒントがあるのではないだろうか。

食事をしながらライブを見るというスタイルは、ジャズで有名な「ブルーノート」系列のレストランや「ビルボードライブ」などがある。これらのライブはあくまでも演奏者側が主役である。しかし、1つの会場で「ライブ、演劇、ダンス、食事」を楽しむことができる、お客さん参加型の複合エンターテインメント・プログラムがあれば、まだまだ新しい顧客を開拓することが可能ではないだろうか。

今の70代はビートルズをリアルタイムで聴いていた世代で、その世代はまだ十分にターゲット層だ。おカネに余裕があっても、よほどの刺激や楽しさがないと、エンターテインメントにおカネは払わないだろう。

退出する途中、2階席で見ていた「アバ・ザ・ミュージアム」の館長であるイングマリー・ホーリングさんと目が合ったので、親指を思い切り上にあげてあいさつをした。彼女は手を振り、満面の笑みを返してくれた。

ポップミュージックの産業化において、世界の一歩先を走るスウェーデンの底力。日本の今後の音楽ビジネスの参考にもきっとなるはずだ。