通貨スワップの延長が韓中関係のどんな姿を物語っているのか。韓国ウォン紙幣の写真はイメージ。写真:manoimage/PIXTA(ピクスタ)

「お願いするのは、むしろ中国のほう」

こう言うのは、成均舘(ソンギュングァン)大学中国大学院の安玉花(アン・ユファ)教授だ。お願いの中身は、「韓中通貨スワップ」のこと。通貨スワップとはお互いの国の中央銀行が結ぶ協定を指し、外貨の不足や自国の通貨危機に際し一定のレートで融通できるようにする取り決めだ。

10月初め、延長されないのではないかと韓国や日本でも憂慮したり、揶揄する報道が流れていたが、結局3日遅れて延長することが発表された。韓中通貨スワップは2009年4月に結ばれ、2011年と2014年に2度延長した後、去る10月10日が満期日だった。

韓国ではこの満期日を前に、「延長されないのではないか」とやきもきするような声が上がっていた。前出の安教授が続ける。「中国は、自国通貨の『元』の国際化を2000年に入って推進し始めて、2016年10月1日に、IMF(国際通貨基金)のSDR(特別引き出し権)の構成通貨になった以外は国際化の動きがストップしていました。韓国は中国が結んでいる規模では、香港(4000億元)に次いで大きな規模(3600億元)ですから、延長しないはずがありません。中国は、韓国を『元』のハブにしたい考えですから」

韓国と中国の葛藤

韓国の金融系研究所の研究員も同じような見解だ。

「中国元の国際化がなかなか進まない状況の中で、中国元の国際化には韓国の役割が大きい。韓国と中国との貿易の規模も大きいし、通貨スワップの規模も大きいですから。それに中国が韓国との葛藤で報復措置をしたといっても、韓国の中国との輸出入は今年、伸び傾向にあります」と話してから、こう付け加えた。

「中国は韓流や観光など韓国側に痛いと感じさせやすい部分を制裁しましたが、全体から考えれば(報復された)規模はそれほど大きくないところです。韓国は1997年の経済危機でIMFの傘下となったことがトラウマになっていてスワップについては敏感になってしまう」

韓国と中国の葛藤は、韓国が米軍の地上配備型ミサイル迎撃システム(THAAD)配備を発表した昨年7月から始まった。THAAD配備に猛反発した中国は韓国への”報復措置”として、まず、韓流スターの締め出しを行った。そして、今年3月には、韓国を訪問する団体客のビザ発行に制限をつけた。

このため、韓国観光公社によれば2017年3月に韓国を訪れた中国人観光客数は前月2月の59万0790人から36万0782人と激減した。

これは2016年に訪韓した平均の中国人観光客数と比べると、およそ53%減で、ソウルきっての観光スポット・明洞(ミョンドン)でも、まるで公用語のように聞こえていた中国語がぱったり聞こえなくなった。

「中国のお客さんは特別に手が大きい(気前がいい)から爆買いも爆買い、大量に購入してくれる。それがぱたっといなくなって、売り上げも急減しました」(衣類販売店店員)と嘆く声が小売店のあちらこちらから上がっていた。「見えるところ」での制裁は、表向きには韓国を十分に困らせていた。

この騒動に、ロッテも巻き込まれたという見方もあった。THAAD配備の土地を提供したロッテは、中国に進出していたロッテマートに税務調査などが繰り返され、112店舗中87店舗が営業停止に追い込まれた。

結局、去る9月には中国からの全面撤収が決定したが、「THAAD配備による韓中関係で、実は得をしたのはロッテではないかと言われています。この葛藤の前からすでにロットマートはかなり苦戦していて、撤収は時間の問題とも言われていました。普通に撤収していれば企業イメージの低下は必至でしたが、韓中葛藤で撤収の名目ができましたからね」(韓国全国紙記者)


ソウルのロッテ免税店の入り口には11月中のセールの様子が告知されていた。(筆者撮影)

「チョン・ジヒョン広告が再び掲げられ、韓流が久しぶりに笑った」(朝鮮日報11月13日)11月11日、上海で開かれた中国最大のオンラインショッピングイベント「光棍節(こうこんせつ)」の模様は韓国でも大々的に報じられた。

顔認識や仮想フィッティングルーム、オン・オフライン、携帯、AIの融合、ハリウッドスター登場などなど話題に事欠かなかったこともあるが、なにより韓国企業が特需に沸いたためだった。韓国の化粧品の老舗「アモーレパシフィック」は前年比で53%増の3億8700万元(約65億円)を売り上げたという。

「光棍節」は、中国企業「アリババ」が2009年、光棍=「独身者」の日といわれるこの日に彼らを対象にしたセールイベントを行ったのが始まりだ。以来、毎年爆発的な売り上げを叩きだし、今年はおよそ1682億元(日本円で約2,87兆円)を売り上げたといわれる。ちなみにチョン・ジヒョンは映画『猟奇的な彼女』(韓国で2001年、日本では2003年公開)に主演した人気女優で、中国ではドラマ『星から来たあなた』(2013〜2014年)で一躍、韓流スターの仲間入りをしている。

この「光棍節」の翌週からは、まるで「解禁」にでもなったように、「THAAD葛藤解けた‥流通業界 遊客(中国人観光客)お迎え競争」(聯合ニュース11月13日)「年末年始には中国人観光客がたくさん来ますねえ」(朝鮮日報同日)と弾むような報道があふれ出た。

米国に隙は見せられない

韓中関係が好転した背景には、10月31日に両国政府がホームページにアップした関係改善に至った合意があるといわれる。

「両国は7月頃から水面下で交渉を重ねていて、この合意に至った鍵は韓国が中国へ明らかにした『3不原則』だとみられています」(韓国の全国紙記者)「3不原則」は、「THAADの追加配備を検討しない」、「米国のミサイル防衛(MD)体系に参与しない」、「韓日米3国の対北朝鮮協力体勢を軍事同盟に発展させない」だ。11月11日には文在寅(ムンジェイン)大統領がアジア太平洋経済協力会議(APEC)で習近平国家主席と会談し、「THAAD葛藤終止符、韓中関係新しい出発」(ソウル新聞11月12日)と報道され、文大統領が12月に訪中することも発表された。

また、続く13日、東南アジア諸国連合(ASEAN)で李克強首相とは「両国の交流協力が早期に正常軌道に回帰できるよう最善を尽くすことで合意」(ハンギョレ新聞11月14日)し、「ようやく韓中関係に雪解けが訪れた」(前出、記者)雰囲気が韓国に広まった。

しかし、冒頭の安教授は、「(韓中関係は)よくならないはずがなかった」と話す。

「韓中の葛藤が深まれば米国に隙をみせることになります。2国ともルーザー(敗者)になってしまう。関係は改善されるようになっていたのです。それにしても、韓国ではどうしてそれほど(中国に対して)心配するのでしょう。韓中通貨スワップについても悲観的で、延長されないはずがないと言ってもなかなか信じてもらえませんでした」


人気観光地、明洞にも中国人観光客の姿が(筆者撮影)

観光スポット・明洞の雰囲気も変わったのだろうかと思い行ってみると、小売業者の人たちは中国人の団体観光客の訪韓に期待を膨らませている様子だった。

マフラーやスカーフ、カバンにつけるアクセサリーなどを売る金さんは、「東南アジアからのお客さんはマフラーのようなものは買いませんから、これから中国人のお客さんが増えれば売り上げにつながるかもしれない」と話していた。

中国にモノをいえない韓国

前出の全国紙記者は言う。「THAAD配備を巡る葛藤でも、韓国の”恐中症”が再び、顔を覗かせた格好となりました。中国に対しては、過去のニンニク紛争(中国産の冷凍品と酢酸で調整したニンニクの関税を高めるセーフティガード措置をとると中国は韓国製の携帯機器などの輸入を暫定的に中断した事件)などの苦い経験もあり、中国に対してはなぜかモノを言えない韓国になってしまう。報道する側にも、もう少し冷静な視線が必要な時かもしれません」

11月14日、中国の外交部関係者が、「THAADの最終解決は撤収」(中央日報11月15日)であることを明らかにした。韓国では、しばらくこの問題は「封印された」という雰囲気だったが、中国との「齟齬」がまた頭をもたげた時、韓中の関係はどう動くのか。12月には2015年に締結された韓中FTA(自由貿易協定)の第2段階の交渉が始まる。一喜一憂の韓中ドラマはまだまだ続きそうだ。