日本株はバブル崩壊前の3万円台へ戻るのか(写真: kazukiatuko / PIXTA)

筆者が所属するマネックス証券では、10月27日、「日経平均株価は3万円へ」という予想を発表した。現在の株価から約3割高い水準だ。大風呂敷に聞こえるかもしれない。しかし、発表後、筆者がお話しした機関投資家や市場のストラテジストにも、消費増税の前提などで達成時期の見立てに違いはあるものの、「3万円はありうる水準」という声が多かった。

主な根拠は順調な企業収益だ。ざっくりいえば、1株当たり利益(EPS)は来年度、再来年度(消費増税次第では翌年度)と年率1割前後ずつ上昇していくというのが主なアナリストの想定である。これらを累積すれば、約2割の増益となる。史上最高の自己資本をもとに自己株買いも加速するとみられ、EPSがさらに押し上げられるだろう。


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また、米国経済は堅調である。長期金利は低位で安定しており、極めて困難と考えられているトランプ減税や金融規制緩和などが前進すれば、さらなる上乗せも期待できる。中期的には、AI(人工知能)などテクノロジーの進化が米国経済の潜在的な成長力を高める。

そして株価は、平時であれば企業の利益におおむね連動する。実際、今上期の一部上場企業の当期利益の伸び率は前年同期比で約23%と 、1年前の株価の上昇率にほぼ一致する。上昇時には一層の上昇への期待も交じって株価を押し上げる。

予想にリスクはつきものだが…

もちろん、どんな予想にもリスクがある。アナリストが企業の収益予想を作成するときの前提は、あくまで「メインシナリオ」に基づく。リスク面については、たいてい、レポートの最後に「リスク要因」という形で記述するだけだ。市場コンセンサスは、リスク考慮不足の個社予想を合成してしまっている可能性がある。

実際には、過去20年、株価の上昇トレンドは、ITバブル崩壊、サブプライム、欧州財政問題、人民元ショックなど、主に海外発のショックが引き金になって腰折れしてきた。「株価の3割上昇」は、こうしたリスクを回避できるかどうかにかかっている。


では、今の市場にはどの程度のリスクが潜んでいるのだろうか。

リスク要因1:「2京円」に近づく世界の債務

世界の債務総額は2017年3月で1京8000兆円。リーマンショック以降、約4割、5000兆円も増加した。大いに心配になる数字であり、IMF(国際通貨基金)やBIS(国際決済銀行)も一昨年来、警鐘を鳴らしている。

ただ、債務が問題になるのはその絶対値の大きさではない。返済能力が追いついているかどうかが勝負の分かれ目である。

これを判断するには、債務膨張のペースをGDP(国内総生産)の成長ペースと比較する必要がある。主要国の中で、GDP比で最も速いペースで民間債務が膨張した過去を持つのが日本である。1980年代、バブル期の日本の民間債務はGDPの2.2倍に上り、膨張ペースはGDP成長率をはるかに上回った 。

最も懸念されるのは中国である。債務膨張のピッチは、2015年には日本のバブル期を上回り、BISに「3年以内に3分の2の確率で金融危機が発生しうる国」リストの筆頭格に挙げられた。しかし、政府の債務抑制の舵取りで、ピークの2015年以降鎮静化しており、直近データでは、日本のバブル期よりはかなりまともな数字になっている。

課題だったシャドーバンキング資産も6月末でGDP比83%と、ピークだった昨年の87%から低下した 。先月の共産党大会を受けた規制強化で今後も抑制されるとみられる。一時期懸念されていた外貨準備も、資本規制強化で増加に転じている。一党独裁で規制の小回りが利くという点が、危機時の対応が後手後手に回った日本と違う“救い”である。

その他の国々で、債務がスピード違反で膨張している国はなく、足元では債務のGDP比の伸び率は総じて落ち着きつつある。

住宅価格の上昇は経済規模の大きい国では整合的

リスク要因2:住宅価格バブルの崩壊

世界的な低金利を受け、主要国の住宅価格は、1995年からの20 年余りで3倍近くまで上昇した。住宅価格の上昇は国民生活を圧迫し、景気を減速させる要因になる。

しかし、アメリカ、欧州諸国、日本などの住宅価格の上昇率は、GDPや賃料収入の上昇率と整合的である。たとえば米国の住宅価格は、2010年からの7年間で38%と猛烈に上昇したが、家賃も3割程度上昇している。ある程度、雇用状況、労働者数などの実需に基づく上昇であると解釈できるだろう。

一方、ニュージーランド、カナダ、北欧などでは、実体経済に比べて明らかに住宅価格の上昇率が高い。しかし、幸いこれらの国は、相対的に経済規模が小さく、個人向けローンも国内の金融機関でほぼ完結している。住宅価格が下落に転じたとしても、世界経済を腰折れさせる規模感ではないだろう。

リスク要因3:米国のイールドカーブのフラット化

米国では長短金利の差が小さくなる「イールドカーブのフラット化」が進行している。さらに来年FRB(米国連邦準備制度理事会)が金利を2〜3回程度引き上げれば、再来年ごろには、長短の金利が逆転する「逆イールド」が発生する可能性が高い。

しかし、逆イールドは、それ自体が脅威なわけではない。イールドカーブの逆転は、短期金利が引き上げられれば、その分、中長期の経済成長予想が引き下げされ、中長期ゾーンの金利が下がるという自然な現象を表しているにすぎない。

逆イールド発生後もしばらく株価は上昇

しかし、最初に逆イールドが発生してからも株価はしばらく上昇から高止まっており、株価が下がり始めるまで、2年程度かかっている。ということは、イールドカーブ分析上は、米国の株価下落までにはあと4〜5年はあるということになる。過去も、逆イールドの発生後しばらくすると、景気は減速に向かった。景気を冷やすために政策金利を引き上げるのだから、いずれそうなる。


なお、日本の金融政策に関しては、来年、日本銀行総裁が交代しても続投でも、緩和的な金融政策は維持されるとみて間違いないだろう。一部で、金融緩和の弊害がささやかれているが、時期尚早の引き締めには安倍晋三政権も否定的とみられる。日銀の緩和的な金融政策が、安定的な為替相場と株高を支える材料の1つとなるだろう。

リスク要因4:株価の過熱感

11月初頭の連騰局面では、「日本株に過熱感」という声も聞かれた。しかし、前述のとおり、株価の上昇率は企業の増益と一致しており、まったく違和感はない。さらに、需給的には、個人投資家は上昇の波に乗り切れておらず、海外投資家も上昇時に多少増やしたものの、まだ日本株のウェートに引き上げ余地があるもようだ。いずれも、次の買い場を狙っているとみられる。

またテクニカルにも過熱感はまだ薄い。バブル検証データで知られるチューリッヒ工科大学(ETH)のデータがその傍証の1つだ。これは、日々、世界中の株式、債券、コモディティなどあらゆる資産の価格をウォッチし、過熱感の有無を示す「バブルマップ」と呼ばれるものだ 。

過去には、2008年の世界金融危機の暴落や、2015年の原油価格反転上昇などを予測したことで知られる。ただし、難点は、広めにアラートが出がちな点だ。このため、米国株には過去数年で何度か行き過ぎのシグナルが点滅したことがあるのだが、それでも日経平均に対しては、まだいっさいシグナルは点灯していない。

上下動を繰り返しながらも、まだ基調は上昇

これらの金融リスクのほか、北朝鮮リスクや来年のイタリアの総選挙などの政治的な不確実性がくすぶる。しかし、欧州選挙ラッシュを控えていた昨年に比べればはるかにマシだ。しかも、こうした政治要因は一時的なものであり、経済の足腰が強いかぎり株価はまた回復してくる。

とはいえ、こうした不安があるかぎり、株価が上昇の一途をたどることはないだろう。1983年、日経平均が初めて9000円台に乗せたとき、当時のメディアは、上昇ピッチの速さ、設備投資不足、政局不安、保護主義の台頭などから、株価の先行きに懸念を指摘した 。しかし、そこから2年で株価は3割以上上昇し、6年後にピークをつけるまでその流れが続いた。足腰の強い市場でも懸念はつきものだ。上がったり下がったりを繰り返し、徐々に企業の順調な収益を反映していくことになるだろう。

※本連載は今週から毎週水曜日に掲載します。