会社を辞めて起業するもよし、充電をするのもよし。でもその際、保険のことも考えておかないと、大変なことになる(Rina / PIXTA)

今回は保険の見直しについて、お話をしたいと思います。

保険の見直しのタイミングは、従来なら「家族が増えたとき」「子どもが成長し独立したとき」「住居を購入したとき」の3回程度といわれてきました。しかし、実は転職の際も、保険の見直しの重要なタイミングです。なぜなら、勤め先が変わることで国の保障や会社の保障が変わることがあり、場合によってはそこからの給付が減るため、民間保険でその差分を補う必要が出てくるからです。

ここで、現役世代の社会人が加入する健康保険制度について復習しておきましょう。これは主に3つあります。「国民健康保険(以下国保)」「協会けんぽ」「組合健保」です。国民健康保険は主に自営業の方などが加入し、協会けんぽと組合健保は「被用者保険」と呼ばれ、勤めている人が加入します。協会けんぽは中小企業中心、組合健保は大企業を中心とした健康保険の制度です。

健康保険でどの程度カバーできる?

あえて万が一の給付の手厚さを図式化すると、国保<協会けんぽ<組合健保(組合健保が最も手厚い)となります。したがって、病気やケガで医療費がかさんだときの備え、長期で働けなくなったときの備えは、公の給付が少ない国保加入者は民間保険での備えがより必要で、公の給付が多い組合健保の加入者は民間保険での備えはそれほど必要ではないといえます。

たとえば「被用者保険にはあって、国民健康保険にはない給付」が2つあります。「出産手当金」と「傷病手当金」です。これらは働けなくなる期間における給与補塡という役割なので国保にはないのですが、ケガや病気はすべての人にかかわりがあるので、まずは傷病手当金について少し解説したいと思います。

傷病手当金は、病気やケガで仕事に就けなかった場合の収入補償として健康保険より支給される手当てです。会社を連続して4日間以上休むと、申請すると4日目を支給開始日として最長1年半にわたり、直近12カ月の平均標準報酬日額の3分の2が支給されます。

標準報酬日額はどう計算すればいいでしょうか。これは、標準報酬月額を30で割った数字で、標準報酬月額は、4月、5月、6月の給与の平均額です。健康保険料は、この標準報酬月額に対し、等級ごとに保険料が決められています。

病気になったらどれだけ医療費がかさむ?

たとえば標準報酬月額30万円のAさんが、1カ月病気療養のため会社を休むと約20万円の給与補償が最長1年半継続されるということです。これは入院したりしなくても、自宅療養でも受けられる手当てです。

一方、健康などに特に問題がない場合、Aさんの手取りは、およそ22万5000円です。なぜこの額になるかというと、社会保険料が約15%ですから4万5000円。また、税金が所得税と住民税合わせて約10%ですから、3万円の負担。それで可処分所得は、22万5000円となるわけです。これが普段の生活で使えるおカネとなります。

さて、傷病手当金に税金はかかりません。しかし、社会保険料は免除ではないため支払いが発生します。社会保険料は標準報酬月額により決定されるため、20万円の傷病手当金を受けている期間も4万5000円の社会保険料の支払いが発生します。したがって、可処分所得は15万5000円となります。もし、健常時に毎月22万5000円ちょうどで暮らしていた場合、家計は7万円の持ち出し(赤字)となります。

この赤字になってしまった家計の中から、さらに医療費や差額ベッド代、先進医療費などを負担していくため、やはり貯蓄等で賄えない場合は医療保険という民間保険で手当てをします。

この場合、標準報酬月額が30万円の方の1カ月の医療費上限額は高額療養費制度により、約9万円に抑えられています。万一の場合、家計が赤字になってしまい、さらに医療費を捻出するのが厳しいという場合は、あらかじめ、月々数千円の医療保険を検討する必要性が高くなります。

なお、高額療養費は標準報酬月額により1カ月の医療費上限額が異なります。標準報酬月額53万円以上の人だと、月の医療費の上限額は約18万円です。3分の2が給与補償で支給され、社会保障が引かれると、この場合、毎月の家計の赤字は約13万円となります。

標準報酬月額が上がれば、本来は家計にゆとりが生まれるはずです。しかし、住宅を購入したばかりで貯蓄残高が減っている、お子さんの受験が続いていて教育資金が必要だ、などの事情がある場合は、いざというときのために、民間の医療保険で病気やケガで働けなくなるリスクをカバーする必要性が出てくるといえそうです。

傷病手当金を受けている会社員が会社を辞めた場合でも、引き続きこの手当ては受給可能です。受給開始日より1年半という期間限定ではありますが、それでもありがたい手当てです。

起業するとき、保険に入り直すほうがよいワケ

一方、国民健康保険に加入している人は、そもそも「傷病手当金」がありません。ですから、働けない=収入が途絶えることになります。したがって、民間保険の医療保険や就労不能保険といったもので備える必要性が会社員よりもずっと高いといえます。

特に「起業したて」の場合は、売り上げをあげることばかり気持ちが集中してしまって、「守りの部分」まで気が回らないという方がほとんどです。このように、会社員と自営業の公的保険の違いについては、ぜひ、あらかじめきちんと知っておいてください。

さて、会社員が健康保険組合に入っている場合、通常の3分の2補償に加えた「付加給付」があるところが多いです。

たとえば、ある大手企業の組合健保の傷病手当金は、標準報酬月額の80%で支給期間も最大3年です。また高額療養費についても、組合健保からの還付金があって、本来は応分の高額療養費負担がかかるはずなのに、実質の自己負担は月2万円のところもあります。この場合、扶養家族も同じですから、共働き夫婦で収入が同程度の場合、子どもは付加給付が手厚い組合健保に加入している側の扶養に入れることなどを考えてもよさそうです。

もし、傷病手当金が3年あり、医療費負担も月2万円程度で収まるのであれば、さすがに病気になったときの家計への影響は大きくはありません。その場合は、通常の手術給付や入院保障よりも先進医療など健康保険の対象とならない医療費に重きをおいて備えるがん保険を中心に検討すれば民間保険の保険料を抑えることができます。

しかし、大手企業でも、組合健保はどこでも同じ付加給付なのかというとそうではありません。実際はかなり差があります。1カ月の医療費の自己負担が実質2万円から3万円で済むというところは多いですが、傷病手当金が3年間も出る、というのはまれです。したがって会社を転職する際、手厚い付加給付のある組合健保の会社からそうではないところに変わると、給付の差分を民間保険で補う必要がやはり出てきます。

会社を辞め、いったん「充電する」場合は?

手厚い付加給付のある組合健保の会社を辞め、しばらく充電する、あるいは起業するという場合は、国保を選択することもできますが、「任意継続」という手続きをするのも一考です。傷病手当金は、さすがに会社を辞めるとなくなります。しかし、1カ月の医療費上限を保障する「還付金」は、そのまま維持される組合が多いのです(ただし、近年の財政悪化で任意継続者への付加給付を辞める組合もあるようです。詳細は個々のケースでご確認ください)。国保と比べるとここの部分については大きな魅力なので検討してみましょう。

その際、国保なのか任意継続なのかを選択する判断基準は、保険料です。まず会社を辞める前に、お住まい地の役所に「所得証明書」を持っていき国保に加入した場合の保険料2年分を尋ねます。任意継続は最大2年間継続でき、その間の保険料は一定ですが、国保は前年の所得に応じて保険料が決定されるため初年度と2年目では保険料が異なります。したがって2年分の保険料、つまり前年所得がある当年の保険料と、仕事を辞め所得がない状態の翌年の保険料を聞いておきます。

会社員の保険料は労使折半となっていますから、任意継続の際は、現在負担している保険料に、会社が負担している保険料を加算した金額を支払うことになります。ただし、協会けんぽも組合健保も保険料算定の上限を設けていて一定の標準報酬月額になると、それ以上の保険料の負担が不要になります。

協会けんぽの上限は28万円です。これはつまり、退職時の標準報酬月額が40万円でも50万円でも、「標準報酬月額は28万円」として保険料を計算してくれるという意味です。また、組合健保は44万円としているところが多いようです。これはこの組合健保の組合員の平均標準報酬月額としているので、組合は、協会けんぽより平均的な給与が高いのでしょう。ただし、組合健保の場合労使折半ではなく、企業側が多く保険料を負担しているので、任意継続の際の保険料は単純に2倍ではありません。

協会けんぽの任意継続を選ぶか国保を選ぶかは、両方とも法定給付ですからシンプルに保険料比較でいいのですが、組合健保の任意継続の場合は高額療養費の還付も含め、選択しましょう。

実は会社を辞めて、厚生年金から国民年金に変わると、万が一の死亡時の遺族年金も変わります。男性の会社員が亡くなると、妻には一生涯にわたって、遺族厚生年金が支給されます。さらに子どもが高校を卒業してから妻自身の老齢基礎年金受給開始となる65歳までの間、中高齢寡婦加算と呼ばれる「厚生年金の奥さん手当」が支給されるのですが、これらが残念ながら、不支給となるのです。

たとえば夫40歳会社員、妻40歳、子ども10歳の家族を考えてみましょう。この場合、会社員の夫が亡くなると妻が一生涯遺族厚生年金を受給します。遺族厚生年金は夫の老齢厚生年金の4分の3で、実際にはそれぞれの厚生年金加入歴(給与に比例した保険料)に基づいて計算されますが、今回は仮に45万円とします。この遺族厚生年金を90歳まで妻が受け取ると、総額は2250万円となります。

また子どもが18歳になるまでは遺族基礎年金が約100万円受給でき、さらに子どもが高校を卒業すると、その後妻が65歳になるまで約60万円の中高齢寡婦加算が受けられます。この2つの年金を合計すると1820万円となります。遺族厚生年金と合わせると、4070万円です。

独立開業したら…

一方、もし夫が会社を辞め独立開業をすると、遺族基礎年金(約100万円×8年分=800万円)は国民年金を財源とした給付ですから、自営業になっても受給できますが、厚生年金加入者ではなくなります。ですから、前述の遺族厚生年金2250万円と、中高齢寡婦加算(妻が65歳になるまで受け取る分1020万円)が受けられなくなります。つまり、3270万円の国からの保険金が仕事を辞めたとたん失われるわけです。

つまり、独立起業をする場合、失われる厚生年金の万が一の給付額分は民間保険で補っておかなければ、過去と同じ水準で家族の生活を維持することができないことになります。

「これまで何年も厚生年金に加入して、高額な保険料も負担してきたのに、会社を辞めたとたん給付がもらえないなんて!」と思われるかもしれませんが、これが今の公的保険の仕組みなのです。国民年金厚生年金合わせて年金加入期間が300カ月を経過すると、かつての厚生年金加入期間における遺族保障が復活するという「長期要件」もありますが、それでも厚生年金被保険者が亡くなったときほど、手厚い保障ではありません。やはり転職の際は、国の保険、民間保険の再確認、見直しのタイミングなのです。

なお、筆者は一般社団法人である公的保険アドバイザー協会の理事として、公的保険の知識の普及に努めています。しかし、保険のプロでも、仕事が変わることによる公的保険の変化と、対処方法まではお伝えしきれていないようです。今回書いたように、公的保険は国保なのか、健保なのか、または組合健保なのか、国民年金なのか、厚生年金なのかによって保障が異なります。仕事が変わるときは民間保険の見直しのタイミングということを知ったうえで、民間保険とも上手に付き合っていただければと思います。