結婚に適した男は、30歳までに刈り取られる。

電車で見かけた素敵な男は大抵、左手に指輪がついている。

会社内を見渡しても、将来有望な男は30歳までに結婚している。

そんな現実に気づいたのが、大手不動産会社勤務の奈々子・28歳。

同世代にはもう、結婚向きの男は残っていない。ならば・・・。

そうして「青田買い」に目覚めた奈々子は、幸せを掴むことができるのか?

先週、先輩社員・中村と新入社員・田中の違いに愕然とした奈緒。田中のミスをカバーするため、奈々子も一緒に残業することになり・・・?




ぐぅ・・・。

田中のお腹がなった。

得意先から急に呼び出された高杉課長は帰ってしまい、結局、奈々子は田中と二人で残業している。

「田中くん、パパッと何か食べに行く?」

奈々子が聞くと、田中が目をキラキラ輝かせながら「はい!」と答えた。

そうして会社近くのチェーン店で定食を食べながら、奈々子は田中に質問した。

「田中くんって、なんで不動産会社に興味もったの?」

「僕、世田谷の出身なんですけど、二子玉川の再開発を間近で見てきて、純粋にすごいと思ったんです。そう言う岡田さんは、どうしてですか?」

“福利厚生”という言葉がうっかり出そうになったが、そんなこと新入社員の前で言えるはずがない。

「私も街づくりとかに興味があって、あとはリゾート開発とか、・・・そんな感じ?」

“とか”連発の、なんとも歯切れの悪い答えになってしまった。

特段やりたいことがなかった奈々子は、とりあえず福利厚生の充実した大手企業ばかり受け、縁のあったこの会社にいるのが実情だ。

「ごちそうさまでした」

夕食を食べ終え、奈々子が払おうとすると、田中が奈々子を制して会計をした。

「いいのよ、このくらい」

「金額の問題じゃありませんから。お礼の気持ちです」


残業を終えると、田中が送っていくと言い出すが・・・?


奢ってもらっても、素直に喜べない年上女


会社に戻る帰り道、コンビニに立ち寄った田中は、奈々子にホットコーヒーを買ってくれた。さっきの定食680円とコーヒー150円。

普段の奈々子は「自分で買えるし」とすぐに意地をはってしまうが、「お礼の気持ちです」という田中の言葉に、心がじんわりと温まっていくのを感じた。



「岡田さん、本当にありがとうございました!」

ようやく仕事を終えると、田中は何度も深々とお辞儀をして自分のデスクに戻っていった。

-ふぅ。終わったー。

ほっとした奈々子が帰りの支度をしていると、田中がトコトコやってきて「寮まで送っていきます」と言い出した。

「近いから大丈夫」と断る奈々子を押し切り、田中は金魚のフンのようにくっついてくる。

奈々子は、門前仲町にある会社の寮に住んでいる。大手不動産会社の社員は、寮や社宅に入るのが一般的だ。自社でマンションや土地を持っているため、破格の値段でアクセスの良い場所に住むことが出来るのだ。

最寄駅で解散かと思いきや「初めての街を歩くのが好きなので」と、またしても田中は奈々子にくっついてきた。

「岡田さん、この辺りでオススメのお店ありますか?」

「色々あるけど、『沿露目』かな?日本酒がとっても美味しいの」

すると、田中の顔がパッと明るくなる。

「僕、日本酒が大好きなんです!」

田中の日本酒好きは、先日の歓迎会での失態で、よく知っている。

繁華街を抜け、川沿いを歩きながら住宅街にある寮の前に到着すると、田中は最後にこう言った。

「今日はありがとうございました。社内に頼れる人も少ないので、今後も相談に乗ってもらって良いですか?」

「いいけど、前もって報連相してね」

奈々子が笑いながら答えると、田中は恥ずかしそうに小声で「はい」とつぶやき、再びお辞儀をしてから立ち去るのだった。




部屋に帰った奈々子は、SABONのバスソルトをたっぷりと入れたお風呂に浸りながらファッションサイトを閲覧する。1日の中で最も幸せ時間だ。

-今年の自分へのご褒美は、何にしようかなぁ。

クリスマスプレゼントを自分のために買うようになって早3年。寂しくないと言えば嘘になるが、“この日だけは一人でいたくないから”と、特に好きでもない男と刹那的なクリスマスを過ごすような年齢でもない。

ーでもなぁ・・・。

奈々子はふと考える。青田買いを決めたものの、少し気になることがあった。

もし年下男と付き合うようになっても、プレゼントやレストランをリクエストするのはなんとなく気が引ける。

今日、田中におごってもらったことも、強引にでも払うべきだったのではないかと、後悔に似た気持ちが少しだけある。

だから年下男と付き合っても、むしろ奈々子がプレゼントを買ったり、レストランを選んだりするべきなのだろうか?

-でもそんなことしたら、私、お財布担当じゃない?!ヒモ製造機になっちゃう?

青田買いを決意したものの、あれこれ考えた挙句、臆病になってしまう性格が全面的に出てきてしまい、結局何も出来ずにいた。


突然彼からお誘いが。その意味って?


突然の誘いに広がる妄想


「岡田さん、昨日は遅くまでありがとう。資料を確認したが、いやぁ完璧だった。さすがだよ」

高杉課長が奈々子のもとにやってきて、満足気にお礼を言った。

「いえいえ、私は何も。田中くん、頑張ってましたから」

「外出中の田中から電話があって、“岡田さんのおかげだ”“岡田さんが助けてくれた”って、お前は岡田さんのファンかって突っ込んだよ。ははは」

高杉課長に褒められ、奈々子が気分良く仕事をしていると、同期の明日香からランチ緊急招集のメールがきた。

お昼の合図とともに『過門香』に向かい、明日香を見るなりその表情から、何か良いことがあったのだとすぐに分かった。

「彼氏ができたの」

「ええ!?」

明日香は、大手損保会社で働く大学時代の同級生と大手町でばったり再会し、意気投合。最近付き合い始めたのだという。

「結婚後はお互い総合職だと難しいかなぁ」
「万が一辞めることになった場合に備えて、資格でも取ろうかなぁ」

付き合い始めのテンションの高さだろうが、転勤も別居も構わないと言っていた明日香はすっかり消え失せ、付き合って数日だというのに、結婚した後の話に気を揉んでいる。

頭がお花畑状態の明日香の話を聞きながら、奈々子の心は曇り空のようにどんよりとしていた。

-いよいよ、取り残された・・・。




沈んだ気分のままオフィスに戻ると、イケメン・中村が奈々子のもとにやってきた。

「この案件の過去の書類、どこにあるか分かるかな?」

「営業部の倉庫に保管されてます。倉庫はご存知ですか?」

中村に説明するため、一緒に倉庫へ向かう。

薄暗く、冷んやりとした倉庫に入ると、中村が書類を探しながらこう言った。

「ねぇ、今晩時間ある?良かったら二人で飲みに行かない?」

-ふ、二人!?

突然の誘いに驚きつつ、もしかして中村さん、私に気が・・・?という妄想が一気に広がる。

「あ、空いてます・・・」

「じゃ、とりあえず19時に東京駅で。適当に店探しとくね」

奈々子は、自分の頰がパッと赤くなるのを感じた。

「あ、はい。でも、東京駅広いですよね・・・」

思考停止したのか、どうでも良いことを発言しさらに恥ずかしくなる。

「社内メールにLINEのID送っとくから、そこに返信ちょうだい」

頰が赤くなるのも心拍数が上がるのも止められず、「制御不能な自分=恋?」という図式が奈々子の脳裏をよぎった。

▶NEXT:12月6日 水曜日更新予定
中村と奈々子が急接近!?青田買いの決意は一体どこへ。