NHK杯の公式練習で、ジャンプの着氷に失敗し右足首を痛めた羽生結弦=9日、大阪市中央体育館(写真提供/共同通信社)

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《10日間は絶対安静と医師から言われました。その後3〜4週間で元に戻るとみておりますが、まだ、あくまでも予定でございます。何とか全日本までに間に合うよう治療・リハビリに努力いたします》

オーサーコーチ不在中のケガ

 現在開催中のフィギュアスケート『ISUグランプリシリーズ』。来年2月に控えた平昌オリンピックの前哨戦でもあり、各国の選手たちがしのぎを削っている。そんな中、大阪で開催されたグランプリシリーズ第4戦のNHK杯(11月10日〜12日)に登場した羽生結弦は、不測の事態に見舞われた。

「大会前日、会場での公式練習中のことでした。今シーズンから大会に組み入れ、10月に成功したばかりの大技、4回転ルッツに挑んだのですが着氷に失敗。ひざが内側に折れ曲がるような不自然な姿勢で着氷してしまい、“右足関節外側靱帯損傷”と診断されました」(スポーツ紙記者)

 一般的には全治3週間〜8週間と言われているが、冒頭の本人が発表したコメントのように、絶対安静の10日間が過ぎてからは徐々にリハビリを行っているようだ。

「11月中旬に拠点としているトロントへと帰国しました。12月21日から行われる全日本選手権での復帰を目指しています」(同・スポーツ紙記者)

 この試合には、コーチであるブライアン・オーサー氏は帯同していなかった。

「オーサーコーチは、10月下旬に胆のうの緊急手術のため入院しました。当初はNHK杯に間に合う予定でしたが、不運にも合流前に羽生さんがケガをしてしまったんです」(スケート連盟関係者)

 羽生がケガをしたその場にいなかったコーチ。故障の知らせを聞いた彼の反応は、思いもよらないものだった。

「もちろん驚いて心配していましたが“でも、ケガをしてくれてよかったのかも……”と語ったそうです。この言葉だけ聞くと“ケガをしているのに喜ぶなんて!”と思ってしまいますが、オーサーコーチは胸を撫で下ろすかのようにホッとしていたそうですよ」(同・スケート連盟関係者)

 その言葉の裏には、愛弟子への気遣いがあった。ふだんの練習からオーバーワークぎみな羽生のことを心配しての発言だったのだ。

難易度の高いジャンプは負担が大きい

「ジャンプの直前に難易度の高いステップなどを取り入れているので、それなりの練習では彼自身が満足できないんです。それに加えて、昨シーズンは4回転ループ、今シーズンは4回転ルッツというように新たなジャンプも習得してきている。

 一見、華麗に見えますが、その努力は人一倍のもの。身体への負担が大きいため、もともとオーサーコーチは4回転ルッツを跳ぶことに反対だったんです」(同・スケート連盟関係者)

 昨年の4月にも、左足リスフラン関節靭帯をケガしている羽生。これもハードワークや過密な試合をこなしたからだと言われていた。

「オーサーコーチは今回、羽生選手がケガをしたことで、少しでも身体を休ませることができると安堵したのです。練習量をいつもより落としたり、ケガのリスクの高いジャンプを削った構成に落ち着かせることができるのでは、と思ったのでしょう」(同・スケート連盟関係者)

 難易度の高い4回転ジャンプを抜きにしても、羽生の滑りは他の選手と比べて群を抜いていることは明白だ。

「9月にカナダで行われたオータムクラシックのショートプログラムでは、4回転サルコーこそ入っているものの、ルッツやループという難易度の高いジャンプを跳ばなくても世界歴代最高得点を叩き出しました。

 これは、昨シーズン以前よりもスケーティングスキルが高い証拠。負担が大きい難易度の高いジャンプを組み入れなくても、十分に勝てるポジションに彼はいるのです」(前出・スポーツ紙記者)

 同様に、アメリカのジェイソン・ブラウンやウズベキスタンのミーシャ・ジーらも、4回転を無理にプログラムへ組み入れなくても、優れたスケーティングスキルで安定して高得点を保っている。

「あえて得意なジャンプのみで構成し、ステップやスピンなどのジャンプ以外の要素でしっかり加点することも戦い方のひとつなのですが……」(同・スポーツ紙記者)

羽生の闘争心に火をつけたもの

 スケート解説者の佐野稔さんは、若手選手が羽生に与えた“刺激”が大きかったのではないかと語る。

「ここ数年ジュニア世代が伸びていて、ジュニアの試合でも4回転ジャンプを2種類以上跳ぶ選手も少なくありません。ジュニアを4回転時代に突入させたのは、かつての宇野昌磨選手だと思うんです」

 宇野やアメリカのネイサン・チェンは、すでに4種類の4回転ジャンプを試合で成功させている。羽生の闘争心に火をつけるには十分だ。

「オリンピックチャンピオンからしてみればランキングでは格下ですけど、羽生選手が持っていない武器を持っています。自分ができないジャンプを成功させているということは、かなり悔しいのではないかと思いますよ。羽生選手が新たな4回転ジャンプにこだわるのは、これが要因のひとつだと思います」(佐野氏)

 前回覇者として、1つでも多くの4回転ジャンプを跳んで勝つ。どこまでも高みを目指す姿はアスリートの鑑とも言えるかもしれない。だが、

「4回転を跳ぶことによって、ケガをする可能性も間違いなく上がります。ケガが選手生命に関わるようでは、元も子もありません。演技の難易度が上がれば、リスクも増えるということなのです」(前出・スポーツ紙記者)

 羽生も、今回のケガが長引くようであれば、平昌五輪にも影響してくるといえる。

「今シーズンはグランプリファイナル5連覇がかかっていました。オリンピックの前哨戦ともいえる大会なので、出場できなかったことは焦りにつながるかもしれません。

 しかし、あくまでも五輪での金メダルが目標です。オーサーコーチは“全日本選手権を目指して調整をしている”と語っていますが、現状は出場について未定であると述べています」(前出・スポーツ紙記者)

 日本男子フィギュアでの五輪出場枠は3人。右表のように、全日本選手権で優勝すれば自動的に出場権を獲得できる。

「全日本での表彰台でもOKです。ただ、羽生選手の場合は今年出場した大会の記録もシーズンベストスコアが上位3人の中に入っているので、ムリを押して全日本に出場しなくても、代表に選ばれる確率は非常に高い。

 できるだけ早く彼の勇姿を見たい気持ちはありますが、万全な態勢で五輪に臨んでほしいですね」(前出・スケート連盟関係者)

 “絶対王者”の完全復活を祈るばかりだ。