朝日新聞の社説(11月22日付)。見出しは「米の対北政策 敵視だけでは前進せぬ」。

写真拡大

アメリカのトランプ大統領は、11月20日、北朝鮮を9年ぶりに「テロ支援国家」に再指定したと発表した。新聞各紙が社説で論じるなかで、日本経済新聞が「中国の説得工作が失敗した結果」と評価する一方、朝日新聞は「中朝の関係改善の気運が生まれていたなかでの再指定だった」として、トランプ氏の対応を批判している。真実はどちらにあるのだろうか――。

■「テロ国家再指定」でわかった意外な事実

核・ミサイル開発を止めない北朝鮮が「テロ支援国家」に再び指定された。トランプ米政権は北朝鮮が核の放棄に向けた対話のテーブルにつくまで徹底して圧力を強めていく方針だ。

一方、北朝鮮はこの2カ月間ほどミサイル発射などの挑発を止めてはいる。しかし今回の再指定で反発を強める危険性が高い。いつなんどき、挑発行動を起こしてもおかしくない状況で、厳重な警戒が必要であることは間違いない。

それにしてもよく分からないのが、関係各国の北朝鮮に対する水面下での交渉である。真相が見えてこないなか、新聞各紙は11月22日付の社説で一斉に再指定を取り上げた。なかでも朝日新聞と日経新聞の社説を読み比べると、面白いものが見えてくる。

■朝日は北朝鮮の味方をするのか

朝日新聞の社説はテーマを「米の対北政策」として「敵視だけでは前進せぬ」との見出しを立てる。書き出しはこうだ。

「米国の外交は伝統的に、敵と味方をはっきり選別する傾向がある。その象徴的な制度が『テロ支援国家』の指定だ」

見出しも書き出しも朝日らしいひねりが利いている。悪くいえば、朝日らしいアイロニーが見え隠れする。

続けて朝日社説は「国際テロの背後にいる国々を認定し、制裁を科すもので、北朝鮮が9年ぶりに登録される」と書き、「『ならず者国家』。米国がそんな呼び方もする敵視の対象のリストだ。米国の『敵視政策』こそ問題だとする北朝鮮が、反発を強めるのは必至だろう」と推測する。

一瞬、朝日は北朝鮮の味方をするのか、と読者は驚かされる。

■トランプ批判を忘れない朝日の書きぶり

ところがこの直後に「しかし」と筆を運び、こう続ける。

「これも北朝鮮が自ら招いた事態である。今年、金正恩(キムジョンウン)氏の実兄、正男(ジョンナム)氏がマレーシアで殺された。進展のない日本人拉致問題を含め、人権無視のふるまいは目にあまる」
「トランプ政権の粗雑な外交に世界は揺れているとはいえ、北朝鮮の人権犯罪に対する非難に国際社会の異論はあるまい」

読者に驚きを与えて自社の社論に引き込み、「暗殺」や「拉致」という具体的事例を挙げ、「目にあまる」「人権犯罪」と批判する。巧みな書き方といえばそうかもしれないが、北朝鮮に肩を持つ論調など存在し得ないのだから「もっとストレートに書いたらいい」と沙鴎一歩は思う。

さらに感心させられるのは「粗雑な外交に世界が揺れる」とトランプ批判を忘れない書きぶりである。

■「中朝間に関係改善の対話」があった?

朝日社説はトランプ批判を展開したいのだろうと予想しながら読み進むと、案の定である。

「米朝間で核・ミサイル実験の凍結をめぐるやりとりがあったとの米国の報道もある。さらに今月の米中首脳会談や、中国特使による平壌訪問という最近の動きも絡み、何らかの水面下の駆け引きが進められているとの臆測が出ている」
「真相は見えず、薄氷を踏むような状態ではあるが、北朝鮮の行動が表面上、激しさを潜め、少なくとも中朝間の関係改善の対話があった事実は、前向きにとらえることもできる」

こう書き進めたうえで「そうした機運が生まれていた中でのテロ支援国家再指定である。その影響がどのような形で表れるかは予断を許さない」とトランプ米政権を批判する。

後半では北朝鮮への圧力強化について「あくまで対話に導くための手段にすぎない」とお得意の論を展開し、さらに「中東やアジア歴訪で見せた一貫性のないトランプ氏の対外姿勢が、ここでも不透明感を漂わせている」とトランプ批判を続ける。

朝日という新聞はトランプという男がとことん嫌いなのだろう。

■なぜこれほどトランプ大統領を嫌うのか

なぜ、朝日新聞はこれほどまでにトランプ氏を嫌うのか。

簡単にいえば、トランプ氏は共和党であり、左派である朝日とはスタンスが大きく違うからだ。それにアメリカという大国の大統領だ。トランプ氏は世界最高の権力者といっても過言ではない。しかも個人としても金持ちである。

ジャーナリズムの基本的精神は、権力に対抗するところにある。朝日はこの姿勢を読者にアピールしたいがためにトランプ氏を敵視するのだろう。

さらにトランプ氏はホワイトハウスの記者会見などでワシントン・ポストやニューヨーク・タイムズなどが自分の意に反することを記事にすると、「フェイク(偽)ニュースだ」と罵倒している。こうしたトランプ氏の言動も、朝日のジャーナリズム精神に反するものだ。

それゆえトランプ大統領と太いパイプを作り上げ、蜜月の「シンゾー=ドナルド」ラインを築き上げた安倍晋三首相も嫌うのだろう。

ただ日本の外交上、米国と仲良くやることは肝要なことだ。社説担当の朝日の論説委員たちも、そのあたりはわかってはいるようだが、社のスタンスを考えると、どうも難しいらしい。

■日経は「再指定」をストレートに評価

朝日と対照的に北朝鮮に対するテロ国家再指定をストレートに評価するのが、日経新聞の社説である。

冒頭から「北朝鮮は核兵器やミサイル開発に加えて国際テロ活動も支援し、国際社会を威嚇してきた。再指定は極めて妥当だ」と書き、見出しも「北のテロ国家再指定は妥当だ」と分かりやすい。

しかも「大韓航空機爆破事件後の1988年にテロ支援国家に指定されたが、ブッシュ(子)政権下の2008年に解除された。米側は当時、北朝鮮との核協議の進展を促すためだと説明したが、日本人拉致問題などが未解決なまま指定を解除したブッシュ政権の対応には批判的な見方が多かった」とブッシュ政権を批判する。

日経社説は「約9年ぶりの再指定は遅すぎたともいえる」とも指摘するが、トランプ氏も再指定を明らかにした11月20日、「何年も前になされるべきことだった」と述べ、歴代の政権を暗に批判している。

■日経は「説得工作が失敗」と書く

さらにこの日経社説が朝日社説と大きく違って興味深いのは、以下のくだりである。

まず「トランプ政権による再指定の公表は、中国が派遣した習近平国家主席の特使が訪朝から帰国したタイミングと重なった」と指摘し、「中国はかねて、北朝鮮の核問題を対話によって解決すべきだと唱えており、特使派遣で打開の道筋が見えるかが注目されていた」と書く。

そのうえで「結局、中国特使と金委員長との会談は見送られたとみられ、核問題をめぐる中朝の立場の溝は埋まらなかったようだ。米政権がテロ支援国家の再指定を発表したのは恐らく、中国による説得工作が失敗したと判断したからだろう」と推測する。

朝日社説は前述したように「中朝の関係改善の対話があった」と書いている。「説得工作が失敗した」と書く日経と180度、違う。それは朝日社説がいうように「真相が見えない」からだ。

ただ社説である以上、朝日も日経も読者が納得できる根拠を示してほしい。

■どうしても拉致解決と結び付けたい産経

次に産経新聞の社説(主張)に触れておこう。

前半で「再指定に伴う米の追加制裁と併せ、国際圧力を強める上でその意義は大きい」と評価し、拉致問題に言及する。

「日本人の拉致も北朝鮮の重大な国家犯罪である。トランプ大統領は国連演説で横田めぐみさんのケースを取り上げ、来日時に被害者家族と面会するなど、拉致問題に高い関心を示してきた」
「『テロ支援国家』再指定を拉致問題解決の契機としなければならない。そのための行動と努力が政府に求められる」

拉致問題が大好きな産経社説だけある。とにかく拉致解決と結び付けたいのだ。見出しも「拉致解決にどうつなぐか」である。

■圧力強化だけで解決ができるのか

さらに産経社説は「安倍晋三首相とトランプ氏は、北朝鮮に核・ミサイル開発を断念させるため、『「最大限の圧力』をかけることで一致している」とも指摘し、「背後にあるのは、08年の合意を含め、対話を理由に核・ミサイル開発の時間稼ぎを許した過去への反省である」と強調する。

北朝鮮を許した反省は必要かもしれない。しかし圧力の強化だけで解決しようとすればするほど、北朝鮮は反発するだろう。

ここでイソップ寓話の「北風と太陽」を思い出してほしい。北風と太陽がお互いの強さを競い、旅人の衣服を脱がせようと争った物語である。

冷たい強風を吹きつければ吹きつけるほど、相手はかたくなになる。太陽がしたように自然に熱を伝えてあげれば、相手も自然と打ち解けてくる。

北朝鮮も同じだ。朝日社説が主張しているように「非核化のための対話を進めるには息の長い継続的な努力を注ぐほかない」し、また読売新聞の社説が訴えているように今後は「指定解除を非核化交渉での取引材料とする」ことも検討すべきではないだろうか。

(ジャーナリスト 沙鴎 一歩)