「勢い」や「流れ」というのは、目には見えない漠然としたものではあるが、勝負においては見逃せない要素である。いかに勢いや流れを生み出し、つかみ、手放さないか。ときにそれが、勝敗を左右すると言ってもいい。

 今季J2において、どこよりも勢いづいてJ1昇格プレーオフに乗り込んできたのは、ジェフユナイテッド千葉で間違いないだろう。

 千葉はシーズンを通じて勝ったり、負けたりを繰り返し、なかなか上位争いに加われずにいたが、シーズン最後を7連勝でフィニッシュ。驚異の追い込みでプレーオフ進出を勝ち取った。

 加えてリーグ最終戦は、試合終了間際のゴールで勝ち越す劇的な幕切れ。これで勢いに乗らないはずがない。辛うじて手にしたプレーオフ進出ではあったが、たった1枚の昇格キップを争う他の3クラブにとっては、厄介な存在だったに違いない。

 しかも、プレーオフ準決勝で対戦する名古屋グランパスとは、リーグ戦で2戦2勝(2戦合計のスコアは5-0)と相性がいいことも好材料だった。高い位置からのプレスを武器とする千葉にとって、ショートパスを主体に攻撃を組み立てる名古屋は絶好の”カモ”。リーグ戦の順位では名古屋の3位に対し、千葉は6位だったが、番狂わせが起きる可能性は十分にあった。

 実際、試合はリーグ戦の勢いそのままに、千葉が先制点を奪った。MF為田大貴が送ったグラウンダーの高速クロスが、ゴール前で相手DFとポジション争いをしていたFWラリベイの左足に当たって入った幸運な得点は、衰え知らずの勢いを象徴するものであるかに思われた。

 しかし、勢いですべての粗(あら)を覆(おお)い隠せるほど、サッカーは単純ではない。千葉の1点リードで終えた前半、すでに”異変”はピッチ上で起きていた。

「いつもどおりのプレーができていない選手がいた」

 そんなことを感じていた35歳のベテラン、MF佐藤勇人が語る。

「ハイプレスでボールを奪い切り、ショートカウンターで得点することができてきて、(シーズン終盤の)試合を重ねて自信になって、今日の試合に挑めた。でも、このプレーオフというのは、いつもとちょっと違う雰囲気を感じている選手がいたように思う」

 シーズンを通じて上位争いに加わっていたわけではない千葉にとって、7連勝は無欲の結果だったに違いない。だが、プレーオフ進出が決まり、J1昇格が現実のものとして目の前にちらついたことが、選手たちの意識に微妙な変化を生み出した。スコアのうえでは理想的な展開で進んでいるように見えた試合も、その内側では、これまでガッチリとかみ合っていた歯車が、少しずつズレ始めていた。

 そして、そのズレを決定的なものにしたのが、後半に許した同点ゴールだった。フアン・エスナイデル監督は言う。

「先制後、すべてを完全に支配することはできなかったが、(試合内容は)悪くはなかった。同点ゴールが分岐点になった」

 後半61分、セカンドボールを拾った名古屋のFWシモビッチがMF田口泰士に送ったパスは、千葉のDF近藤直也がクリアしたはずだった。

 ところが、ボールは近藤の目の前に走ってきた田口の右腕に当たり、ゴール前にこぼれた。田口は自らボールを拾うと、左足で冷静にゴール右スミへ流し込む。試合は振り出しに戻った。

 このゴールは本来、生まれるはずのないものだった。近藤のクリアが田口の右腕に当たった時点で、ハンドの反則が適用されるべきだったからだ。それをレフェリーが視認できなかったことは、千葉にとっては不運と言うしかない。

 しかし、これをきっかけに、それまでの弾けるような勢いが急速に弱まってしまったのは、同点ゴールが釈然としない判定によって生まれたからだけではないだろう。佐藤勇は語る。

「前半のあの(終了間際という絶好の)時間帯で1-0になって、リーグ戦なら3ポイント(勝ち点3=勝利)が取れていた試合だったと思う。でも、ちょっとしたことで追いつかれて、一気に『引き分けではダメなんだ』(引き分けの場合、リーグ戦上位の名古屋が決勝進出となる)という雰囲気になってしまった」

 失点はアンラッキーなものだった。それまでの試合内容も、指揮官が言うように「悪くはなかった」。1-1のまま粘れれば、まだ試合はどう転ぶかわからなかった。

 だが、いつもどおりのプレーができていなかったチームは、失点が引き金となってうろたえた。

 生命線であるはずのプレスはハマらず、空回り。攻撃も大味になる一方で、ゴールの匂いは漂わない。黄色のユニフォームを身にまとう選手たちが、焦燥に駆られてプレーしているのは明らかだった。

 千葉は、66分にGK佐藤優也のミスから勝ち越しゴールを許すと、守備の要である近藤を前線に上げてパワープレーで勝負に出た86分、逆にDFラインの裏を取られて追加点を奪われる悪循環に陥った。

 その後、PKで1点ずつを取り合った試合は、終わってみれば2-4。千葉の完敗だった。佐藤勇が語る。

「6位の自分たちより3位の名古屋のほうが、力があったということ。シーズンを通してしっかりした戦いができないと、こういう戦いを勝ち抜くのは簡単ではない。連勝してきて勢いはあったが、勢いだけでは勝ち抜けない」


J1昇格プレーオフ準決勝で惜しくも敗れたジェフ千葉

 とはいえ、千葉は決して勢いだけでここまでたどり着いたわけではない。ラリベイが「プレーオフ進出に値する力は見せられたと思う」と振り返ったように、千葉はこの試合でも、敗れたとはいえ、随所に”らしさ”を披露した。

 背後に広大なスペースを生み出す危険を覚悟のうえで、DFラインを高く上げ、前線からのプレッシングに打って出る。そんなJリーグ屈指の果敢な戦術は、昨季J2でクラブ史上最低の11位に終わった千葉が、なぜ今季これほど躍進できたかを、その威力によって伝えていた。4点を奪って勝利した名古屋にしても、襲い来るプレッシングの波から完全に逃れられたわけではなかった。

 佐藤勇が「今季は、今までと(サッカーの)スタイルをガラリと変えたが、どんなチームでも自分たちのスタイルを築こうとするときには時間がかかるもの」だと話したように、エスナイデル監督のもと、新戦術に取り組んだ千葉は今季、思うような結果を出せない時期を長く過ごした。

 ものの見事にプレッシングがハマることがある一方で、易々と背後を取られ失点を重ねることも少なくない。そんな危ういサッカーでは、安定した成績を残せないのも無理はなかった。事実、千葉が今季喫した14敗のうち、11敗は複数失点によるものだ。

 だが、目指すスタイルが確立された最後の7試合、すなわち7連勝中は複数失点がなかったばかりか、その間には18得点を叩き出し、強烈なプレッシングが結果として高い攻撃力にもつながることを証明してみせた。

「シーズン終盤、圏外からプレーオフに滑り込んだことは自信になるし、勝ち続けられたのだから、前を向いていい。ここで感じたことや思いを、来季につなげたい」

 そう語る佐藤勇が「来季が楽しみ」だと言い切るのは、相応の手ごたえがあってのことだろう。

 エスナイデル監督も「今日の試合で選手が見せてくれたものには、とても満足している。この結果は来年につながるポジティブなものだ」と、敗戦後にもかかわらず、どこか晴れやかな表情で語っていたのが印象的だった。

 Jリーグの”オリジナル10”だった名門クラブも、J2生活に入ってすでに8シーズン。最近ではJ1昇格どころか、クラブ史上最低順位を更新することも珍しくなかった。

 そんな千葉がようやく上げた復活の狼煙(のろし)。3年ぶりのプレーオフ進出という結果以上に、無謀と紙一重の勇猛果敢な戦いぶりが、来季への期待を高めている。

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