「リビング学習で学力が上がる」などと話題ですが…(写真 : マハロ / PIXTA)

「リビング学習で学力が上がる。勉強が好きになる」という話を聞いたことがある方は多いかと思います。以前、「東大に行く子の多くはリビングで勉強している」などの特集をした雑誌がよく売れましたし、テレビや雑誌などでも大々的に取り上げられました。『AERA with Kids』(2017春号)の調査結果では、小学生の親で「子どもがリビング・ダイニングで学習する」と答えた人が、全体の8割近くでした。

でも、本当にリビング学習をすれば、子どもは勉強が好きになるのでしょうか? そして、学力が上がるのでしょうか? そこに落とし穴はないのでしょうか? 実は、やり方次第では逆効果になるリスクがリビング学習にはあるのです。そのリスクを知らないまま無自覚にやっていると、子どもは勉強が嫌いになり、当然学力も下がります。

リビング学習のメリット


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話をわかりやすくするために、まずはリビング学習のメリットについて考えてみます。大きなメリットとして挙げられるのは、リビングだと子どもが安心して勉強に取り組めるということです。子どもは大人に比べてはるかに怖がりであり、ちょっとしたことで不安になります。窓が風に吹かれてガタガタしただけで、「何かいるんじゃないか?」とおびえたり、部屋のカーテンが揺れただけで「おばけだったらどうしよう?」と怖くなったりします。

ですから、シーンとした部屋の中に1人でいると不安で仕方がないのです。こういう状態では勉強への集中力も上がりません。それに対してリビングは人の気配のある空間です。親、兄弟、あるいは家族の誰かがそこにいます。ですから、子どもにとっていちばん安心できる空間であり、不安感によって集中が妨げられることはなくなります。

また、コミュニケーションが取りやすいというメリットもあります。なかなか勉強に取りかからない子を促したり、取りかかってはみたもののいつの間にか自主休憩に入った子にハッパをかけたりすることもできます。子どもにしても、わからないことがあったときに質問したり、できたものをすぐ見せて褒めてもらったりすることができます。

静岡県の郄橋さん(仮名)の家では、小学2年生の女の子が大好きなおばあちゃんと一緒に勉強するのが楽しくて、そのおかげで成績も上がったそうです。日記の宿題が出たときは、まずその日あったことについておばあちゃんとおしゃべりします。すると書きたいことがたくさん浮かんできて、後は書くだけです。書くとすぐおばあちゃんが褒めてくれます。繰り下がりの引き算でつまずきかけたときも、おばあちゃんが教えてくれてマスターすることができました。

学校から持ち帰ったテストの間違え直しもおばあちゃんとやります。直したらすぐ見てもらい、合っていたら丸をつけてもらえます。わからないときはヒントをもらったり、それでもわからないときは教えてもらったりもできます。今は、2人で九九の練習をしています。九九の歌を一緒に歌ったり、九九のゲームで遊んだり、九九の暗唱をしたりなど、楽しく練習しています。

やり方次第ではデメリットに転じてしまう

このようなメリットがあるリビング学習ですが、やり方次第ではそのメリットがそのままデメリットに転じてしまいます。その例が、神奈川県の専業主婦・伊藤さん(仮名)のケースです。

伊藤さんの小学4年生の長女はずっとリビングで勉強してきましたが、3年生の終わり頃から勉強への意欲がなくなってきたそうです。宿題にもなかなか取りかからず、何度も叱られてようやくやり始めます。親が書店で買ってきた問題集もやることになっているのですが、それもやりません。それで伊藤さんは夫に愚痴をこぼしました。すると、夫からは思いがけないことを言われてしまいました。

なんと、夫は「お前が近くで見張っていたら、オレだってやりたくないよ」と言ったのです。当然、伊藤さんは腹が立って夫に言い返しました。その日はそのまま終わったのですが、次の日冷静さを取り戻した伊藤さんはもう一度夫に聞いてみました。何と言ってもかわいいわが子の今の状態を何とかしたいという思いがあったからです。今回はさすがに夫も言葉を選んで話してくれたそうです。大略、次のようなことがわかりました。伊藤さん自身の反省も含めて紹介します。

ひと言で言うと、伊藤さんの言葉は否定語が多いということです。たとえば、「そんな字じゃダメでしょ。もっとしっかり書かなきゃダメ」「それじゃあ、6だかゼロだかわからないでしょ。そういうのが計算ミスにつながるんだよ」「ほらほら、集中しなきゃダメでしょ」「それ違うでしょ。もっとよく問題読まなきゃ」などです。日曜日に近くで聞いていた夫は、うんざりしたそうです。伊藤さんは、言われてみると確かにそうだと気がつきました。「日頃から自分は否定語が多いけど、子どもの勉強を見ているときはさらに増えるようだ。というか、そういうことしか言っていなかった」と気がついたのです。

それから、子どもにかける言葉を変えました。否定語は極力やめて肯定語を増やすようにしたのです。たとえば、「しなきゃダメ」ではなく「するといいよ」というニュアンスで言うようにしました。つまり、「今やらなきゃダメだよ」ではなく、「今のうちにやっておくと夕飯後は遊べるよ」などの言い方です。そして、「がんばらなきゃダメだよ」ではなく「がんばってるね」や「がんばったね」を増やすようにしました。

心掛けていること

いちばん心掛けているのは、真っ先にダメなところを指摘するのではなく、まずよい部分を褒めるということです。たとえば、漢字の書き取りノートを見てダメ出ししたくなるところをグッとこらえて、まず褒められる字をたくさん探して褒めます。どうしても直させたい字がある場合も、その後で1、2個だけ直させます。伊藤さんは、本連載の過去記事「子どもを褒めない親は『見る目』がなさすぎる」が本当に参考になっていると言ってくれました。

このように言葉を変えたら、だんだん子どもの様子にも変化が出てきたそうです。4年生後半の今現在は、親子関係がすごくよくなって、子どもの勉強への取り組みも見違えるようによくなりました。

伊藤さんは「言葉って大事ですね」としみじみ言っていました。この伊藤さんの例はとても大切なことを教えてくれています。リビング学習は親子のコミュニケーションがとりやすいのですが、それが両刃の剣でもあるということです。親が肯定語を多く使えば子どもは伸びますが、否定語ばかりだと子どもは勉強が嫌いになり、結果的に学力も下がるのです。

以上がリビング学習でのいちばんの注意点ですが、もう1つ大切なことがあります。それは、子ども本人の意思を大切にするということです。というのも、一口に子どもといっても実にいろいろで、子どもによっては静かなところで1人でやりたいという子もいるからです。

小学校高学年になるにつれて、自分の部屋で勉強したほうが落ち着くという子は増えます。でも、少数派ですが低学年でも1人のほうがいいという子もいます。逆に、中学生や高校生でもリビングでやりたいという子もいます。計算や書き取りはリビングで、算数の文章問題や日記は自分の部屋で、というように使い分ける子もいます。そういった本人の意思を無視して、「リビングでやりなさい。そのほうが学力が上がるから」と強制するようなことをすると、子どものやる気は失われます。

場所をコロコロ変えるが…

ところで、勉強の場所に関して、講演の後の質疑応答で次のような質問を受けたことがあります。「うちの子はその日の気分によって、自分の部屋、リビング、テラスのテーブル、階段のいちばん下など、勉強する場所を変えます。漢字はダイニング、算数はテラス、通信教材は階段などと、コロコロ変えることもあります。これで勉強が身に付くのでしょうか?」。それで私は次のように回答しました。

「まったく大丈夫です。場所を変えることで気分が変わり、集中できるということもあるからです。私も家で調べ物をしたり原稿を書いたりするとき、場所を変えることがよくあります。それどころか、講演や取材で移動することが多いので、新幹線や在来線の中、駅の待合室、講演会場の控え室など、あらゆるところでパソコンを開いて仕事をします。むしろこれができないようでは大人になってからやっていけないのです。また、最近の心理学によると、場所を変えて勉強すると勉強内容と勉強場所がリンクして、後で思い出すきっかけになることがあるそうです(ベネディクト・キャリー著『脳が認める勉強法』参照)」。

このときの回答にさらに付け加えるとしたら、次のように言いたいです。「受験のときは初めての場所で試験を受けるわけですから、いつもと同じ場所でないと集中できないということでは話にならないわけです」。

でも、最後に念のため言いますが、同じ場所で勉強したがる子に、「それじゃ受験で通用しないから、いろいろな場所でやりなさい」などと言わないようにしてください。何事にも言えることですが、親は外からの情報を優先して肝心の子ども本人の内側の意思を無視し、その結果うまくいかなくなることが多いのです。どうか気をつけてください。