ライフネット生命保険社長・岩瀬大輔氏

写真拡大

自動運転で事故減少へ
 年初からカーシェアリングを週末の外出に使っている。スマートフォンで予約し、マンション駐車場にある車に会員証をかざすとロックが解除され、直ちにドライブができる。15分206円でガソリン代も保険料も駐車場代も不要だ。シェアというより“オンデマンド型レンタカー”と表現した方がいいかもしれない。週末しか乗らない都心ドライバーにとっては車を所有する意義がどんどん薄れていく。

 使ってみて驚いたのが返却直後に走行距離・平均速度・急加速回数などを記録したメールが届くこと。車がインターネットにつながり走行データが蓄積されることで運営会社は私の運転の癖を把握し、事故リスクを正確に把握できるようになる。

 かような“未来の自動車”に関連して、米国の友人の車でちょっとした自動運転を体験した。縦列駐車である。ボタン一つでスムーズに斜め後ろにバックし、その成功率は100%。自動ブレーキなどの技術と相まって、自動車事故は間違いなく減る。そして自動車保険のあり方も確実に変わる。米テスラは所有者向けに安価な自動車保険を提供し始めた。車が売り切り型のハードウエアから、ネット経由でメーカーとつながりを保ち、ビッグデータを収集する端末に変わっていく。自動車メーカーと所有者の関係性も変わるだろう。

契約者に寄り添う商品
 金融とテクノロジーの融合を称した「フィンテック」と並んで、保険とテクノロジーの融合を意味する「インシュアテック」という言葉も、業界では一つのバズワードとなっている。それでは生命保険や医療保険はインシュアテックによってどのように変わるだろうか。

 米国で注目されているインシュアテックの事例としては、ネット経由で保険加入を簡易にするネット生保(この意味ではライフネット生命は元祖インシュアテック企業ともいえる)のほか、画像認識や参加交流型サイト(SNS)上のビッグデータ解析を活用して新規契約時の審査を簡易にするものがある。契約者の健康情報を解析して適切な医療機関を紹介するサービスもある。国内では人工知能(AI)を使ってコールセンターの応答や支払い手続きの処理を効率化する例が発表されている。

 これまでは、いったん加入してしまうと契約者と生命保険会社との結びつきは弱まってしまう傾向にあった。これからはスマホ経由で契約者とつながり、生命保険会社がいつでもどこでも契約者に寄り添えるようになるだろう。

技術は可能でも浸透に壁
 また、従来は契約時の健康状態を根拠に数十年の長期契約の保障を設定していたが、今後は契約後にも継続的に健康関連データを得ることで、さらにダイナミックな価格設定が可能になるかもしれない。

 この点「1日平均8000歩以上、2年間歩き続けると還付金をもらえる保険」が発売されている。健康になろうと努力する人に経済的インセンティブを与えることは理にかなう。膨張する国民医療費を抑制するため、民間保険会社にできることは少なくない。しかし、その一方で、人間の日々の行動に変容を促すサービスを作ることは決して容易でない。

 自分自身を省みて、人間は実に怠惰な生き物だ。保険料がいくばくか戻ってくるからといって、酒や食事を節制したり、早朝に起きてマラソンを続けたりできるだろうか。1日8000歩は約6キロメートル、80分の歩行に相当するらしい。2年間継続できる人はほんの一握りかもしれない。

 革新を生み出すテクノロジーはすでにそこにある。技術的には実現可能だ。新しいサービスが社会に浸透するか否かは、それが人間の本能的欲求に直結して行動変容を促すことができるか否かにかかっている。経済合理性では説明できない生身の人間の心をくすぐり、心に火をつける仕掛けがいくつも必要だ。消費者アンケートの回答には表れない、人間に関する深い洞察と理解が欠かせないだろう。
【略歴】いわせ・だいすけ 98年(平10)東大法卒。ボストンコンサルティンググループなどを経て、米ハーバード大経営大学院留学。06年副社長としてライフネット生命を立ち上げ、13年6月から現職。埼玉県出身、41歳。著書に『がん保険のカラクリ』など。