永井の抜け出しに素早く反応した林。好判断で飛び出してピンチを防いだ。写真:山崎賢人(サッカーダイジェスト写真部)

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[J1リーグ33節]広島 2-1 FC東京/11月26日(日)/Eスタ
 
 すべては勝利、そしてJ1残留を決めたから言葉にできたことなのだろうか。GK林卓人はミックスゾーンで、2009年から9年に渡ってクラブに在籍したミキッチへの想いを吐露した。12、13、15年と3度のJ1リーグ制覇に貢献した助っ人への気持ち。「また一緒にプレーしたい」。偽らざる感情だ。
 
 33節を迎えるに当たって、広島の残留条件は「FC東京に勝ち、かつ甲府が引き分け以下」だった。もし敗戦を喫すれば降格圏で最終節を迎えるかもしれない。大きなプレッシャーと極度の緊張感の圧し掛かる一戦で、しかし広島の選手たちは望みを掴み取った。
 
 45分に柴粼晃誠が先制ゴール。押し込み続けた先の、待望の結果だった。フェリペ・シウバが右サイドからカットインして放ったシュートに触り、角度を変えたボールはゴールネットへと吸い込まれた。一度目の大歓声。スタジアムが揺れた。
 
 しかし、集まった2万人以上のサポーターの願いとは逆の方向へゲームは進む。後半に入っても広島ペースで進めながら、追加点が奪えない。すると59分、CKから同点弾を許す。正確無比なボールに走り込んで合わせられ同点。今までの広島であれば勝点3は遠のいた。
 
 だが、それも“今までの”だ。折れず、屈せず、自信を失わず。勝利を疑わずに選手たちはプレーを続け、敗戦などあり得ないようにサポーターの声援が空を震わせる。今こそ、広島の実力を見せる時。ゴールを目指して挑むべき時だった。
 
 2回目の大歓声、スタジアムが揺れたのは66分だった。左サイドでボールを受けたのは再びF・シウバ。間合いを測るように、徐々に対峙したDFへ近付く。その外を高橋壮也が走る。パスを選択して良し、一瞬のスピードでマークを外してシュートを打つも良し、クロスを上げても良し。
 
 そのどれもを選ばなかった。3列目から上がってきた稲垣祥へのパス。FC東京のDFの寄せは、引き切っていたことで一瞬遅れる。そして放たれる右足でのミドルシュート。必死に横っ飛びをし、腕を伸ばした相手GKは触れない。
 綺麗な弾道を描いたボールがゴールネットを揺らした。エディオンスタジアム広島が弾ける。稲垣は一直線にベンチへと向かい、サブメンバーと抱き合った。あとは守備陣の仕事である。
 
 復帰から2試合ともに失点(31節の浦和戦は0-1、32節の神戸戦は2-1)と満足のいくできではなかったGK林は、より強い決意を持って残り30分弱に臨んだ。すでにこの試合でもゴールを割られている。だが、これ以上の失点は自身を許せない。
 
「59分のシーンは自分のアグレッシブさが足りずに失点した。その後のCKも味方と被っていたから」。もちろん気合いは入っていたが、得点を許した事実が闘争心をさらに掻き立てたのだ。
 
 68分、見せ場が訪れる。いや、林からすれば取り立てて評価するような場面ではないのかもしれない。被決定機などなく、味方にもサポーターにも驚かれるような時間を作らないのがGKとしての本分とも言えるからだ。
 
 スルーパスにFC東京のFW前田遼一が反応。DFふたりの間に出されたボールをツータッチでシュートの打ちやすい場所へ置くと、強烈な至近距離弾が広島ゴールを襲った。反応して弾く。そのこぼれ球に詰められた。より近くからシュートが襲ってくる。それに対して林は身体を投げ出した。
 
「ビッグセーブかどうかは自分では分からない」と言う。それでもチームを救った事実は残る。「一瞬、逆を取られた。でもなんとかギリギリ我慢して止められたかな」。守護神の守護神たる所以を体現した瞬間だった。