Bリーグは「ブレイク・ザ・ボーダー(境界を壊せ)」の考え方だと大河チェアマンは力強く語った(撮影:佐久間秀実)

「毎年10%ずつ入場者数が伸びると2020年に300万人に達しますが、今のアリーナだけでは本当は相当しんどいですよ」

そう話すのは男子プロバスケットボールリーグ・Bリーグのチェアマン、大河正明。Bリーグはプロ野球、Jリーグ(サッカー)に続き、2016年9月22日に開幕した日本で3番目の団体競技のプロリーグだ。会社員として企業に属しながらスポーツに取り組む実業団と違い、選手は原則、個人事業主としてチームと一定期間の契約を結んでプレーする。

それまで、日本のバスケ界はプロ化を好まない実業団チーム(NBL)と、プロ化を目指すセミプロチーム(bjリーグ)で対立構図が乱立し、長らく混迷を極めていた。

その中で昨年、Bリーグが誕生するとともに、日本バスケ界は新たな幕開けを迎えたのだ。 初年度は、元NBA選手・田臥勇太率いる栃木ブレックスが初代王者に輝いた。2016-2017シーズンの入場者数はB1リーグ、B2リーグの合計で226万人を記録した。

「2020年に入場者数300万人」の実現を目指して、2017年9月からすでに2年目のシーズンがスタートしている。現在、Bリーグの一般認知度は、約65%という。2015年の約41%から上昇したものの、他のメジャー団体競技と比較してみると、プロ野球(90%)、Jリーグ(87%)には遠く及ばない。まだB.LEAGUEの試合を見たことがない方に来場してもらうべく、今シーズンは一般認知度75%を目指している。

1年目はまずまず成功

「初年度にいちばん重視したことは『どれだけお客さんに来ていただけるか』ということでした。結果としてB1で150万人来場していただき、前のリーグ体制と比較して50%増を記録することができました。B2を合わせても同40%増でした。これほどお客様が増えたということは、階段を一気に3段、4段か上ったくらいのイメージだと思います。そういう意味ではまずまず成功です」(大河)

2年目は「観客動員数を10%以上増やす」という目標を立てている。その1つとして、転職サイト「ビズリーチ」を通じ、広報部長やマーケティング部長をサイトで12月6日まで公募している。

「多くの娯楽や情報があふれる現代において、どうやってバスケットボールを観戦してもらえるかを考え抜けるフラットな視点とアイデアを持つ広報やマーケティングのプロフェッショナルの力が足りません。新しい秘策を打っていける人を探しています」(大河)


大河正明(おおかわ まさあき)/1958年5月31日、京都府生まれ。1981年、京都大学卒業後、三菱(現・三菱東京UFJ)銀行入行。2012年、社団法人日本サッカーリーグ理事に就任。2014年、公益社団法人日本プロサッカーリーグ常務理事に就任。2015年、公益財団法人日本バスケットボール協会専務理事、一般社団法人(現・公益社団法人)ジャパン・プロフェッショナル・バスケットボールリーグ(Bリーグ)チェアマン(理事長)就任(撮影:佐久間秀実)

しかし、今後の動員目標に対して、大きな障壁がある。アリーナのキャパシティの問題が度々ささやかれているためだ。

日本には「アリーナの聖地」と呼ばれる場所がなく、「体育館」と呼ばれているところで試合を行わざるをえないのが現状だ。

「たとえば野球を1つの例と考えると、半年間の間に140試合行われ、チームのホームスタジアムを使えるわけですが、バスケットにはそれがない。ここがいちばんの課題です。

1つの会場でバスケットやバレーボール、そしてバドミントンなどと一緒に使っていて、試合のときに仮設のスタンドを作っています。フロアの床に線を引き、全部マスキングで消して、2試合程度やったかと思えば次はそれを全部片付ける。そういった作業を毎回やるわけです。そのあたりにビジネスの限界があります」(大河)

アリーナビジネスの未来とは

その課題をどのように克服していくのか。日本のアリーナビジネスに対して、大河はドーム球場のように回転率を高めていくことを例に挙げる。

「たとえばサッカーは天然芝で、お客様のところには多少の屋根がありますが、ピッチ上は濡れるわけです。ピッチの上は毎日何かに使うわけにもいかない。要するに稼働率が悪く、収入を得る機会が少ないということです。ドーム球場などは、人工芝の上にいつでも使える建物が好立地の場所にある。こうすると回転率もよくなるし、コンサートや展示会など野球の試合以外でも使えます」

「アリーナも同じで、ドームほど大規模ではないですが、いろいろな用途で回転率を上げられる。この点でアリーナ単体でもビジネスの可能性を秘めていると思います」(大河)

B1リーグの「琉球ゴールデンキングス」が2020年完成を目標に1万人規模のアリーナ建設を公表し話題となった。今後のアリーナづくりにおいて参考になるのは海外の事例だ。

「たとえば米ニューヨークのマディソン・スクエア・ガーデンのように、アリーナを運営するコンテンツの1つとしてバスケットクラブを置いて施設の回転率を上げる。またボールパーク化した球場のように、場外のコンコースで飲食やグッズ販売スペースを設けることで収益率向上は図れます」(大河)

それだけでなく、アリーナの各スペースに対し、命名権を募って販売するなど、2次利用することでビジネスチャンスを広げることができる。とはいえ、日本にある「体育館」ではほとんどできていないのが現状だ。

さらに今後、Bリーグとしてはバスケットボールのためだけではなく、地域活性化や災害拠点にするなど街づくりの一環としてのアリーナづくりを目指していく考えだという。

Bリーグ設立の背景の一つには、男子バスケット日本代表の強化もある。11月24日からは「FIBAバスケットボールワールドカップ2019 アジア地区 1次予選」が始まり、2020年には東京五輪も控えている。代表を強化し国際試合で勝てるチーム作りをするためには、Bリーグの明確なビジョンも不可欠だ。

「まずはBリーグを選手育成や強化につなげられるようにしたいです。この2年間でリーグの事業規模が大きくなり、NBAで100〜200試合に出場した選手が当たり前のように日本でプレーするようになりました。今後は代表だけでなく、クラブチームにも世界と交流できる場を設けていきたいという思いもあります」(大河)

2020年の東京五輪に向けた強化人材として、名コーチとして知られるアルゼンチン人のフリオ・ラマス氏が日本代表のHC(ヘッドコーチ)に2017年4月に就任。前述のワールドカップ1次予選でも指揮を執っており、人材交流は少しずつ進んでいる。

「ラマス氏は、バスケットの名門レアルマドリードにも在籍経験があります。サッカーで有名なレアルマドリードはバスケットのプロチームも保有しており、バスケット界でも世界的な強豪チームとして知られています。今後はクラブやリーグの単位でも、スペインのような強豪国をはじめ、各国との試合や人材交流を積極的にやっていきたいと考えています」(大河)

選手においても、Bリーグの強化策が実り、横浜ビー・コルセアーズの下部組織に所属する15歳田中力が代表予備登録メンバー24人の中に選ばれるなど、若い世代も育ちつつある。

「今後は、来シーズンからB1チームのクラブに設立を義務付けたU-15チームなどを軸に、より一層力を入れていきたいです。U-15のチームも3年後にはU-18になります。プロリーグと協会が連携して長期的な強化計画を持つことでよい指導者が生まれ、学校の部活以外にも選手を育成する環境が整う。今はその取り組みを始めている段階です」(大河)

スクールを通じた普及活動が人材強化へ

「クラブが『競技の裾野を広げる』ためにやるべきことはスクール活動ですね。たとえば、サッカーの横浜Fマリノスは、3000〜4000人近いスクール生が在籍しています。バスケットでも、将来的にはチアも含めて1000〜2000人くらいのスクール規模を持つチームが出てきてほしい、そんな思いです」

「あとは現在34都道府県でBリーグのチームが活動していること自体も普及活動の1つだと思います。今後、全国各地にプロチームが増えていくと思います。地域にクラブがあることが、将来の日本バスケット界を担う人材育成につながっていくのではないでしょうか」(大河)

日本初のプロバスケットボールリーグとして2年目を迎えたBリーグだが、これからが本当の勝負だ。

2020年の東京五輪も控える中、バスケを日本に文化として根付かせていかなければならない。「バスケットをメジャーに」を合言葉に、どこまで情熱を持って取り組んでいけるか。それは選手だけでなく、Bリーグにかかわるすべての人に必要となってくる。

“ブレイク・ザ・ボーダー(境界を壊せ)”

壮大なる日本バスケット界の挑戦は始まったばかりだ。

(文中敬称略)