11月20日の代表質問では安倍首相に苦言を呈し、「ポスト安倍」をアピールした岸田文雄氏(写真:Natsuki Sakai/アフロ)

師走を目前にした国会では、安倍晋三首相と野党幹部らが1問1答で火花を散らす衆参予算委員会の論戦がスタートした。しかし、首相らの固いガードで攻防は盛り上がらず、永田町では早くも来年9月の自民党総裁選の行方に関心が移っている。衆院選圧勝で同党内では首相の総裁3選論が勢いを増したが、最新の各種世論調査でも国民の間では「3選反対」が過半数で、「首相がミスすれば、政界もすぐ変わる状況」(首相経験者)だからだ。

そこで注目されるのが「ポスト安倍」の本命とされる岸田文雄政調会長の対応だ。故池田勇人元首相が創設した「保守本流・宏池会」の看板を引き継ぐ岸田派の領袖として、安倍政権での党側の政策決定責任者となった岸田氏が、総理・総裁候補としてどう行動するかで、来秋の総裁選の構図は大きく変わる。

首相の所信表明演説を受けての11月20日の衆院代表質問で演壇に立った岸田氏は、「野党や国民に『上から目線』で臨むようでは、国民の信を失い、真っ当な政治も行えない」と首相の政権運営に注文を付けた。併せて、首相が「在任中の実現」を目指す憲法改正についても「改正のための改正であってはならない」と首相の独断専行を強くけん制した。

1995年衆院選で初当選した岸田氏は、首相と"同期の桜"で「個人的にも親しい友人」だ。このため、2012年暮れの第2次安倍政権発足時から、歴代2位の4年7カ月の外相在任中も、「安倍外交の露払い役」(外務省幹部)に徹してきた。しかし、8月の党・内閣人事では「自ら求めて」(岸田派幹部)党3役の政調会長に転身して「閣外で行動の自由を確保した」(同)ことで、年末以降は「ポスト安倍」に向けて本格始動する構えだ。

対立を避けたことで首相と強い信頼関係

党内タカ派の代表として"1強"を誇示する首相と、「ハト派の牙城」とされる宏池会のプリンスと呼ばれる岸田氏は、もともと政治理念や政策では一定の距離がある。しかし、史上最長政権も狙う首相に対し、「従順な姿勢に徹することが総理・総裁への近道」(岸田氏側近)と判断して対立を避けたことで、首相との強い信頼関係を築いた。

ただ、総裁選は「究極の権力闘争で、ゴマすりだけでは政権など獲れない」(自民長老)のも事実で、来秋の総裁選出馬を視野に入れる岸田氏にとって、「いかに、戦う総裁候補に変身できるか」(岸田派若手)が今後の課題となっている。

総理大臣に直結する自民総裁選をめぐる党内の構図は、5年前の第2次安倍政権発足時からも、政局の節目ごとに変化している。首相の再登板実現は、2012年9月の前々回総裁選での勝利によるものだ。第1次政権発足から1年たった2007年9月に体調不良で退陣を余儀なくされた首相が、後見人の森喜朗元首相らの反対を押し切って総裁選再出馬を決断、下馬評を覆して決選投票で石破茂・元地方創生相を破り、3カ月後の衆院選で自民が圧勝したことで首相に返り咲いた。しかし、その時点では1強政権とはならず、地方票では首相を上回って党内ナンバー2の幹事長に就任した石破氏が、「最強の後継候補」とされていた。

現在のような首相への権力集中は、2013年夏の参院選勝利以降のことだ。これに続く2014年の消費増税延期を解散理由とした年末衆院選での圧勝、さらに2016年夏の参院選と2017年10月衆院選も加えた過去に例のない国政選挙5連勝で、現在の1強政権が築かれた。

その間、2015年9月の総裁選が石破氏の不出馬で首相の無投票再選となったことで、ポスト安倍候補も流動化して、岸田氏が台頭した。しかも、今年3月の自民党大会で総裁任期が連続3期に改定されて、「ポスト安倍」の最終ゴールも3年先延ばしとなった。2012年総裁選の「本命」候補でもあった石破氏に対し、岸田氏が首相の有力後継候補に浮上したことで、2015年の総裁再選後のポスト安倍の構図は「岸田vs石破」に変わった。

しかし、10月衆院選の自民圧勝で首相の総裁3選が現実味を増したことにより構図はさらに複雑化し、現状をみると次期総裁選出馬を公言する野田聖子総務相だけでなく、「次の次」を目指す河野太郎外相に、「次世代の星」の小泉進次郎筆頭副幹事長までが次期総裁レースへの参加をうかがう状況となりつつある。

3選支持で不出馬なら「覚悟」が問われる

もちろん、「一寸先は闇」とされる政界だけに「来年秋のことなど誰にも分からない」(小泉氏)とはいうものの、現時点では「安倍さんよりできる人はいない」(二階俊博幹事長)との安倍3選支持論が党内の多数派となりつつある。このため、岸田氏にとっては「来年9月に出るか出ないか」が最大の問題となっている。

過去の総裁争いからみても、続投を目指す首相の対立候補として出馬すれば、これまでの「安倍・岸田蜜月関係」の崩壊は確実だ。その一方で、首相3選後の"禅譲"を期待するような形での不出馬では、総理・総裁候補としての「覚悟」が問われかねない。「総理総裁の座は戦い獲るもので、禅譲などあり得ない」(首相経験者)のが政界の常識だからだ。

総裁選を左右するのは党内での「多数派工作」だ。3選論の根拠は、首相の支持母体で圧倒的な最大派閥・細田派に加え、首相の後見人を自認する麻生太郎副総理が率いる第2派閥・麻生派や5大派閥の一角を占める二階派が「3選支持」を明確にしていることだ。この3派に無派閥で首相支持の議員を加えれば党国会議員の過半数となり、前々回のような国会議員による決選投票にもつれ込んでも、首相の勝利は動かないというわけだ。

このため首相が出馬する場合は「岸田氏が出馬しても2位狙い」(自民幹部)で、安倍・岸田関係への悪影響も考慮すると「挑戦してもデメリットのほうが大きい」(岸田派幹部)ことにもなる。

ただ、石破、野田両氏は「負けが分かっていても挑戦する決意」(石破氏側近)とされ、2015年総裁選のような「無投票」になる可能性は極めて小さい。前回総裁選で「閣僚在任中」を理由に出馬を取りやめた石破氏が、その後党内の支持を減らした経緯もある。

岸田氏が「次の次」を狙っても「その時点で首相がレームダックになっていれば後継指名など意味がなくなる」(自民幹部)ことが想定される上、石破、野田両氏に加えて河野、小泉両氏も参戦すれば、「岸田氏優位」どころか世代交代の波に直撃されて埋没する不安は拭えない。

現時点では岸田氏にとって最強のライバルである石破氏は、ここにきて首相批判を繰り返し、「ポスト安倍に名前が挙がり、何か言うとぶったたかれるというのは、いままで自民党でみたことがない景色だ」と対決姿勢を鮮明にしている。また、「初の女性首相」を狙う野田氏は、総裁選出馬への基盤作りとして来春にも女性政治塾を立ち上げる構えだ。しかし、岸田氏は「来年のことを今から言うつもりはない」と慎重姿勢を崩さない。

安倍・岸田会談での「禅譲」密約説も

党内では、岸田氏が外相から政調会長に転じる際、事前に数回行われた安倍・岸田会談で「(次回総裁選に)首相が出馬するなら自分は支える側に回ると約束した」(細田派幹部)との見方が広がる。「首相が退陣の際に岸田氏を後継指名し、細田派も岸田支持に回る」(同)といういわゆる禅譲説とのセットとされる。このためか、岸田氏周辺でも「首相との直接対決は避けるべきだ」(有力議員)との声が少なくない。

岸田氏は20日の代表質問の「むすび」で、1960年に岸信介首相(故人・首相の祖父)から政権を引き継いだ池田首相が、陽明学者の安岡正篤氏から「自分の政治哲学をはっきり持っていれば、おのずから『正姿勢』になる」と助言されたことを引き合いに、「総選挙で多くの議席をいただいた今こそ、『正姿勢』の3文字を胸に、日々前進したい」と締めくくって胸を張った。自身初となる代表質問であえて「首相批判」ともとれる持論を展開した岸田氏を、「総裁選出馬への独自色アピール」(国対幹部)と党内は受け止めている。

岸田氏は代表質問直後の22日、政調会長として毎週水曜日に定例会見することも発表した。前任の茂木敏充氏(経済産業相)は行っておらず、その前の稲田朋美氏(前防衛相)以来の定例会見復活について、岸田氏は「私自身の思いも発信していかなくてはならない」と政策決定を主導する意欲を強調。予算委攻防が始まった27日には国会を離れて地元・広島市に戻り、外相時代に設置した核兵器廃絶に取り組むための「賢人会議」に出席して「核軍縮は、核兵器の保有国を巻き込まなければ、1歩も動かない。核兵器のない世界に向けて協力するきっかけをつくりたい」と決意表明した。

「呼ばれればどこへでも行く」と存在アピールに余念がない岸田氏だが、政界から注目されるほど、その陰で来秋の総裁選での「堂々挑戦」か「禅譲期待」かで思い悩む日々が続くことになる。