大手回転寿司チェーンスシローが、以前カンブリア宮殿で紹介した「羽田市場」とタッグを組み、新たなプロジェクトをスタートさせました。無料メルマガ『店舗経営者の繁盛店講座|小売業・飲食店・サービス業』では著者の佐藤昌司さんが、スシローの「海の寿司を空で変える」取り組みを取り上げつつ、大手回転寿司チェーン業界に今起きている「激変」をプロの視点で考察しています。

スシローが鮮魚流通の革命児とタッグを組むワケ

スシローが「旬の国産天然もの」を提供するプロジェクトを実施し、離れていった客の呼び戻しを狙っています。

スシローを運営するあきんどスシローは、日本各地の海でとれる旬の天然ものを全国のスシローで提供する「地元の旬の天然もの! スシロー×羽田市場」プロジェクトを発表し、11月15日から店舗でサービスを開始しました。

この天然ものプロジェクトは、スシローが実施してきた従来のプロジェクトやキャンペーンとは一線を画しています。なぜなら、魚介類の流通に革命をもたらしたとも言われるCSN地方創生ネットワーク(東京・大田)が運営する飲食店向けの流通サービス「羽田市場」を活用しているからです。

羽田市場の強みは「提供する魚介類の鮮度の圧倒的な高さ」にあります。

羽田市場では、全国各地の漁港で水揚げされた魚介類をすぐに、主に空輸で羽田空港に運びます。羽田空港内に羽田市場が運営する仕分けや加工を行うセンターがあり、魚介類はそのセンターを経由して迅速に取引先の店に配送されます。この間、市場など中間業者を経由しないため、圧倒的なスピードをもって配送することができます。

魚介類は原則、とれたその日のうちに店に届くといいます。これにより、高い鮮度を維持したまま店に届けることができるので、鮮度の高い旬のネタを最終消費者に提供することが可能となりました。

羽田市場と組んで実施する天然ものプロジェクトでは魚介類の入荷が漁次第ということもあり、1日数量限定での提供となります。提供するネタは例えば、「生まぐろ」が1貫180円(税別、以下同)、「生甘えび」が1貫180円、「活さざえ」が2貫280円となっています。スシローのすしの多くが2貫で100円です。それと比べると、天然ものプロジェクトのすしは単位あたりの価格が極めて高いといえます。

このようにスシローは近年、単位あたりの価格が高い高付加価値のすしの販売に力を入れています。

例えば、「世界の海からいいネタ100円プロジェクト」では、チリの海でとれたウニを使った「濃厚うに包み」(1貫100円)を昨年11月から期間限定で販売したのを皮切りに、直近では今年11月15日から販売した、ケープタウン沖でとれたマグロを使った「特上赤身」とアラスカの海でとれたイクラを使った「塩いくら包み」を販売(それぞれ1貫100円)するなど、世界中から選りすぐりのネタを集めて100円で提供しています。

また、千葉県や大阪府といった一部の地域でとれた天然ものを提供するプロジェクトも展開しました。

それにしても、なぜスシローは高付加価値のすしの販売に力を入れているのでしょうか。

スシローなど大手回転ずしチェーンは1皿2貫100円といった低価格のすしを提供することで成長してきました。現在も成長は続き、大手は店舗網を拡大し続けています。業績が好調なところが少なくありません。

スシローを傘下に収めるスシローグローバルホールディングス(HD)の17年9月期の連結決算(国際会計基準)は、売上高が前年比5.9%増の1,564億円、営業利益は22.6%増の92億円です。純利益は2.2倍の69億円となっています。大幅な増収増益です。新規出店を推し進めたことが寄与しました。

こうして見ると、スシローの経営は順風満帆のように思えます。しかし、必ずしもそうとは言い切れません。というのも、17年9月期の既存店(一定期間の営業を経ている店)の売上高が前年比1.3%減と前年を下回ったからです。客数は1.3%減少し、既存店において客離れが起きています。

既存店において客離れが起きている大手回転ずしチェーンはスシローだけではありません。「くら寿司」や「かっぱ寿司」も同様です。くら寿司の17年10月期の客数は前年比1.6%減、かっぱ寿司の17年3月期は6.5%減となっています。

大手回転ずしチェーンは低価格を武器に成長してきました。しかし、店舗網が拡大するにつれて、大手同士で競合するケースが増え、競争が激化していったのです。価格競争に陥り、消耗戦を戦わざるを得ないケースが増えていきました。

というのも、回転ずしチェーン同士の戦いの場合、他の業態と比べて差別化しづらいという特徴があるからです。例えばラーメンであればスープで差別化することが比較的容易にできますが、すしの場合、同じネタであればどこのチェーンで食べても味は基本的に同じなので差別化が難しいと言えます。そのため、価格競争や消耗戦に陥りやすいのです。

そこで大手各社はサイドメニューに力を入れるようになりました。うどんやラーメン、カレーといったサイドメニューを続々と投入していったのです。ただ、最初の頃は物珍しさで話題になったものの、やがてどこも同じようなものを扱うようになったため、サイドメニューの品ぞろえは今ではどこも大きな違いはない状況となっています。差別化にはなりづらくなっているのです。

やはり、餅は餅屋です。サイドメニュー競争が一服したいま、本業のすしで改めて勝負する必要があるとスシローは考えたのでしょう。そこで羽田市場と組んで旬の国産天然ものを提供することで、競合との差別化を図ろうとしていると考えられます。高付加価値のすしで客を呼び戻したいところです。

スシローを運営するあきんどスシローとコメ卸最大手の神明傘下の元気寿司の経営統合の行方も、スシローの客足の回復に大きく関わりそうです。現在、両社のそれぞれの親会社が経営統合に向けて話を進めています。

「元気寿司」や「魚べい」を展開する元気寿司の業績は好調です。17年4〜9月期の連結決算は、売上高が前年同期比20.4%増の202億円、営業利益は89.7%増の9億円となりました。同期の元気寿司と魚べいの既存店客数は0.8%減となりましたが、客単価が4.2%増加したので、売上高は3.0%の増加です。17年3月期でいえば、客数は1.6%の増加です。スシローを尻目に、既存店も好調です。

元気寿司と魚べいは「回転しないすし」が強さの秘密です。回転レーンをなくし、タッチパネルと高速レーンを組み合わせてすしを届ける仕組みで、国内店舗の6割以上で導入しています。

スシローは元気寿司と経営統合することで規模の経済を発揮し、コスト低減などを実現したい考えです。天然ものプロジェクトなど高付加価値商品はコストの増加が懸念されるので、少しでもコストを抑制したいところです。

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