自分の基準のおしゃれは、損をしてしまうかもしれません(写真:cba / PIXTA)

結婚・出産で大きく変化する女子の人生は、右にも左にも選択肢だらけ。20代はもちろん、30代になっても迷いは増すばかり。いったいどの道を選べば幸せに近づけるのか? 元リクルート“最強の母”堂薗稚子さんがお答えします。
※お悩み相談はこちらのアドレス(onnaーsodan@toyokeizai.co.jp)まで
【ご相談】
私は、法人営業を10年近くやってきて、最近は、重要な取引先も多く担当するようになりました。先日も役員帯同である大手取引先にご機嫌伺いに行ったのですが、その帰り道に、役員から私のスーツについて意見されました。その日は買ったばかりのライトグレーのノーカラージャケットとタイトスカートのスーツで、インナーもパンプスも無地で色も派手なものではありませんでした。でも、役員は「こういった場でのスーツはテーラードが基本だから、今後は紺や黒のテーラードスーツを着てくるように」と言うのです。でも、ノーカラーでもきちんとしている形だし、ショップの店員からも私はテーラードスーツはあまり似合わないと言われます。だから1着も持っていないのです。
そのように伝えたところ、「似合うかどうかなんて関係ない。カジュアルに見える。経費で買ってでもテーラードスーツにするべきだ」とまで言われました。
率直なところ、その役員の趣味、嗜好でしかないと思うのですが、買い替えたほうがいいのか。さまつな質問で恐れ入りますが、アドバイスをいただけると幸いです。

「仕事上の外見の常識」はバリエーションがさまざま


この連載の一覧はこちら

ふーむ。女性営業のスーツの形の「常識」や「是非」を問われているのであれば、私は完全に門外漢です。あなたの会社やお客様の業態や商材、お目にかかる方や同行してもらった役員の世代、タイプによっても、意見が分かれるでしょうし、あなたがどんなスーツ姿だったのかも想像するしかありませんから、どうこう言いにくいですねぇ。

しかし、あなたが役員とちょっと言い合いふうになってしまい、もやもやと腹立たしさが解消されないのだ、ということはよく伝わりました。多分、周囲のいろいろな人に「どう思います?」と意見を聞いても、「それはおかしい!」「あなたが正しいよ」と完全に同調してくれる人ばかりではないでしょう。「仕事上の外見の常識」はそのくらいバリエーションがさまざまなのです。個人的には、ノーカラーでもデザイン次第でまったく問題ないと思いますし、柔らかい印象が演出できてとてもいいと思いますけどね。

私には、このご相談の本質は、「何を言われたか」よりも「誰に言われたか」「どんな言い方をされたか」のほうにあるように感じます。相手が普段から仕事もできて、外見もパリッとしている若手の役員だったとしたら、あるいはいつもメンター的な役割を果たしてくれている尊敬する先輩だったとしたら、カチンと来なかったかもしれません。また、「偉い人が一緒のときは、かちっとしたテーラードスーツを選んだほうが無難だよ」「堅いお客様だから、女性らしさを消して、ダークな色がいいかもね。紺とか、あなたにとても似合うと思うけど」などとあなたに配慮したアドバイスをされていたら、素直に受け止められたかもしれません。

要は、「あんたに言われたくない!」「そんな言い方しなくていいじゃない」と思ってしまったから、「わかってやっています」「プロも似合わないと言っています」「1着も持っていません」という言い方になり、役員まで「それじゃ経費で買えよ」と発言してしまったのでは? ちょっと子どもっぽい言い合いに見えてしまいます。この場合は、あなた自身の今後に役立てられるように、「何を言われたか」を考えたほうが建設的な気がします。

「誰から見てもオッケー」の範囲でおしゃれを楽しむ

ところで、ヘアサロンやネイルサロンに行くと、「仕事柄、どこまで許されるか」という会話になることがありますね。でも、サロンのスタッフはアドバイスはしてくれても、「ここまでなら許されますよ」と明言してくれることはないでしょう。業界によっては、髪の色は「〇番までの明るさ」とかネイルそのものがダメ、アートはダメとか、ルールが決まっていることもありますが、それは基本的には、お客様からの見え方をベースに決められていると思います。でも、派手に見えずまじめな雰囲気、だとか、清潔感を重視、だとかいっても、本来はものすごく主観的な価値観だから、ルールを決めるのは難しい。それでも、社員に「どこまで許されるか」を考えて判断させるよりもルールを明示したほうがわかりやすく、社員も従いやすいということで、校則のように目安が設定されているのだろうと思います。

そもそも、仕事上の服装やおしゃれについて、「許される」「OK」という言葉を使うということは、職場のうるさい先輩や上司なり、気難しいお客様だったり、または神妙にしておくべきシーンであったり、そういった「何か」「誰か」が「許可する」ことをイメージしてしまっている、ということなのかもしれませんね。そして、「アウトだったら困るな」とちょっと心配する気持ち、「指摘されたらどうしよう」とビクビクする気持ちがあるのかもしれない。であれば、仕事の場では、「許されるギリギリ」ではなくて、「誰から見てもオッケー」の範囲でおしゃれを楽しんだほうが、精神衛生上、楽ちんなように思います。

服装関連のことは、主観的なものだからこそ、「会社は仕事をしに来ているのだから、あなたの個性など出さなくていい」なんて言えないし、注意したりアドバイスしたりするのは、とても勇気がいることだったりするのです。私も、仕事で初めて会う人が、たとえば冬にブーツやカラータイツ、夏にミュールなどで現れたり、会議室に大きなリュックをしょったまま、コートを着たまま入ってきたり、名刺交換の際の親指があまりに派手なネイルだったりすれば、目を見張ってしまいます。

過去にも、部下の親御さんのご葬儀に、複数の管理職で参列したとき、ネイルを落とさずにきた同僚を見て、「これはありなの?」と思ったことがあります。ただ、心の中で眉をひそめている自分を自覚しながら、顔にも言葉にも出しません。「こういう人なんだな」と思うくらいで、私には実害がなく、その人の問題だからです。

ただ、謝罪や「ネガティブな印象を絶対に与えたくない場」に、自分基準のおしゃれをして現れる人がいると、「この人とはもう仕事できないな」と思うことはありました。一緒に動くスタッフなどであれば注意するかもしれないですが、相手方であれば、その場では顔に出さずとも、それ以降の信頼関係に影を落とすことがあるかもしれません。つまり、自分でも気づかない間に、何も言葉にされずに、外見のことで損をしてしまうことがある、ということです。

まずは受け止めてみたほうが得

だとすれば、自分の基準とは違っていたとしても、なんらかの助言を受けたら、「そういう考え方もあるんだな」「自分はこう見られてしまったのだな」とまずは受け止めてみたほうが得になるような気がします。注意してくれたのに、ふてくされて二度とアドバイスしてもらえなくなれば、致命的なTPO違反をしてしまうかもしれないですしね。

その役員の価値観では、その場はテーラードがマストだったのでしょう。趣味や嗜好ではなく、冷静に話せば、きっと、「気難しいお客様だから」とか「自分が逆の立場なら〇〇と感じるから」とか、わかるように、理由を説明できるのではないかと思います。

もし言い合いの雰囲気のままで会話が終了しているのであれば、同行してくれたお礼メールとともに、自分の態度は詫びておいて、もう1度理由を聞いてみてはどうでしょうか。そして、法人営業を10年も頑張ってきて、会社の大事な取引先も任されているのであれば、アドバイスを受け入れて、1着、自分に似合うダークなテーラードスーツを買ってみたらどうかなと私は思います。ワンピースの上に着たり、ジャケパンでも活躍しそうなジャケットを選んでみては? それでも納得いかないのであれば、会社に置いておいて女性営業で着まわせるようなスーツを、数名で1着用意しておくことにするのもいいかもしれないですね。「経費でもいい」というのは役員の売り言葉に買い言葉のような気がするので、あまり深追いしないほうが役員の顔も立つような気がしますよ。

どちらにしても、こんなことで損をしたらもったいないので、これからは、役員や上司と営業に行くときは、打ち合わせのついでに、「こういう格好で行こうと思いますが、失礼はないでしょうか?」などと確認してみてはどうでしょうか。私が営業管理職をやっていた頃は、メンバーとの服装の打ち合わせは欠かしませんでした。商談にはシナリオと演出が必要ですから、演者として大事な打ち合わせテーマだと常々言っていたと思います。

女性営業にとってのスーツは、衣装だと私は思っています。似合うものを身に着けたい、自分らしいおしゃれをしたい、という気持ちはわかりますが、基本的には、場面とテーマで着こなしは変えるべきであり、「相手の主観」にこそ正解があるのです。「相手」には、商談の相手だけでなく、一緒に商談をつくる社内の相手も含まれるでしょう。

せっかく、これまでの努力を認められて、大事な顧客に、会社の代表として向かっているのですから、「言いにくいことを言ってくれているのだな」と少し素直になって、役員のアドバイスに耳を傾けてみることをお勧めします。

ルールブックがあってそのとおりにすればいいものと違って、服装や身だしなみには、仕事によって変わり、段々に身に付いてくるルールがあると思うのです。偉い人に食ってかかっても詮方ないことのように思えてなりません。試行錯誤しながら、少しずつ、あなたなりのルールを形作っていけたらいいのだと思いますよ。