シーズン最後のホームゲームが終わった。ピッチでは、ベンチコートを羽織った選手たちが、うつむき加減にのそのそ歩き出した。

「前を向けぇ!!」

 大勢の観客が居残ったスタンドからは、男性の叱咤する声が聞こえる。一方で、いたわるような眼差しを向ける人たちもいた。

「今日は気分が乗らなくなっちゃったよ」

 首から関係者パスをぶら下げた中年男性はぼやき節だ。どんな予定が入っていたのかわからないが、全身に虚脱感が滲む。スタジアムという箱の中で、様々な感情がないまぜになっていた。それが「降格」という現実なのだろう。


J2降格が決まり、ゴール裏のサポーターに頭を下げる大宮の選手たち

 2017年11月26日、NACKスタジアム。J1第33節、17位大宮アルディージャは残留をかけ、16位ヴァンフォーレ甲府との戦いに挑んでいる。

「勝たなければ降格」。残留を争う直接対決というプレッシャーも重なるだけに、ファンは選手の気持ちを少しでも楽にしようとしたのだろう。「ENJOY!!!」。試合開始直前、ゴール裏で人文字を掲げている。楽しむ。その境地に達することができれば、重圧ははねのけられる。

 前節から石井正忠監督が率いることになった大宮は、変則的な4-4-2でスタートしている。左サイドの江坂任は前目でボランチのカウエは後ろ目。マテウスが積極的にサイドに流れた。

「石井監督からは『前でパワーを使い、裏を狙いなさい』と指示されていた。相手にとって怖い選手を意識して。甲府は中央が堅いので、サイドに流れ、そこからクロス攻撃などを狙った」

 マテウスはそう語ったが、前半の攻撃は単発に終わっている。ただ、守備でやられたわけではない。

「(主力だった菊地光将、河本裕之は不在も)いつまでも先輩に頼れない。若手が出てくれば、チームとして(競争が)いい方向に向かうわけで。そういう意味では、これまで自分たちが力不足だった」(大宮・DF高山和真)

 高山とセンターバックを組んだ山越康平はこの日、秀逸の出来だった。優れた判断と強いフィジカルで、甲府のブラジル人アタッカーをことごとく封じている。

 しかし、大宮にとっては勝利だけが”生き残る”条件だった。

「ロースコアでできるだけ時間を過ごす、というのは甲府にとって勝ちパターンのひとつ」(甲府・吉田達磨監督)

 大宮は前がかりになる必要があった。その焦りからだろうか。後半序盤に攻守が乱れる。選手同士の距離感が悪くなって、パスがつながらず、セカンドボールを拾われてしまう。楽しんで攻撃するどころではない。波状攻撃を受け、ノックアウト寸前になった。もし甲府に1人でも生粋のゴールゲッターがいたら、とどめを刺されていただろう。

 かろうじて失点を免れ、息を吹き返した大宮は、後半15分を過ぎると、マテウスが幾度か左サイドから崩しかける。しかし、シュート前のプレー精度が低い。左サイドバックの和田拓也がエリア内まで入ってパスを受け、切り返して1人をかわし、右足でシュートを放つが、当たりそこねて左ポスト脇を逸れていった。全員が力を尽くすも、著しく決定力を欠いた。

「チームとしてクロスからの攻撃を意識したが、精度や入り方など工夫が必要だった。ひとりひとりは100%やっていると思う。ただ、守備も攻撃も噛み合わない部分はあって、それが失点や得点の少なさにつながっている。自分が何とかしないといけない、と思っていましたが……」

 今季チーム最多得点の江坂は悔しげに洩らしている。

 結局、大宮は攻め切れなかった。(残留を争う)清水エスパルスが逆転されたという情報を手にした甲府は無理をしない。0-0のまま試合終了のホイッスルが鳴り、大宮は最後に意地を見せるようなシーンもなかった。

「これで降格なのか?」。数字上はわかっていても、疑ってみたくなるのだろう。終了直後、スタジアムには形容しがたい沈黙が降りた。

「来季は自分がJ1にチームを上げるつもりで」(大宮・GK加藤順大)

 ミックスゾーンでは、選手たちがファンへのお詫びを繰り返し、自らを責めていた。

 昨シーズン5位に躍進したチームが、今シーズン降格した理由を語るのは難しい。

 家長昭博、泉澤仁という2人の主力の穴を埋められていなかったのはある。それが6連敗スタートにつながり、渋谷洋樹監督は解任へ追い込まれた。14節から率いた伊藤彰監督は4-1-4-1でプレーの仕組みを整え、ロジカルな戦い方で悪い試合はしていない。しかし3勝8分7敗と勝ち切れず、引き分けが多すぎた。そしてクラブは残り3試合で石井監督を招聘するが、機首は下がったままだった。

「5位になって目測を誤った」というのはあるだろう。いくら目標を低めに設定しても、選手は自信を得て、周りはどこかで期待した。しかし、現実的にチームはスケールダウンし、監督が交代するたびに消耗していった。監督交代を我慢し、コンサドーレ札幌のジェイのようなストライカーを手に入れられていたら――。プレーのベースは鍛えられていただけに、勝ち切れる試合は増えていたかもしれない。もっとも「たら、れば」の話だ。

「進退についてはこれから(クラブ側と)話すので、今はできない」

 石井監督は会見で言った。決まっているのは、来季、大宮の戦う舞台がJ2になったということだ。

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