千葉との準決勝で貴重な同点弾。田口が大きな仕事をやってのけた。写真:茂木あきら(サッカーダイジェスト写真部)

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 [J1昇格プレーオフ準決勝]名古屋4-2千葉/11月26日/パロ瑞穂

 4-2という実に名古屋らしいスコアが記録されたJ1昇格プレーオフ準決勝のMVPは、ハットトリックを達成したシモビッチで決まりろう。だが、試合を大きく動かしたのが田口泰士であることにも異論の余地はない。
 
 同点ゴールにまつわる疑惑のプレーについては審判の判定と考えるほかなく、今さら掘り返すのも後味が悪いのでやめておく。ひとつだけ言えるのは、もちろん田口が狙って手を出したのではなく、あくまで偶然の産物だったということ。それをレフェリーは反則ではないと判断したのだ。
 
 それよりも称賛すべきは、田口の執念に満ちたフィニッシュワークではないか。シモビッチからのパスがDFに弾かれ、確かにそのボールは千葉にとっては不運な形で田口の前にこぼれた。
 
 しかし名古屋の背番号7は立ちふさがり、追いすがるDFの動きを冷静に見つめ、「右足で打とうと思ったけど、状況はしっかり見えていた」と瞬時に判断。ボールをプッシュし目の前のマーカーを動かすと、強く降り抜くと膝が抜けてしまうほど痛んでいる左足を使ってGKの逆を突くシュートを流し込んでみせた。「最後はコースも見えていた」とはまるでストライカーの言葉だが、これこそが今季、田口が身につけてきた新たな武器のひとつである。
 
 今季のリーグ戦では、ホーム愛媛戦でのハットトリックを含む9得点をマーク。これでシーズン10得点目を挙げた活躍は、ボランチとして記録したことでその価値を上げる。小林裕紀との抜群の補完関係を維持しつつ、得意の縦パスを巧みに入れては自らゴール前に侵出していくパターンはチームの攻撃に欠かせぬ要素のひとつであり、彼もまたその回数をどれだけ増やせるかを1年のテーマとしてきたところがあった。
 
 得点の場面に限らず、この日も田口は幾度となくゴールを付け狙い、放ったシュートはシモビッチの4本に次ぐ3本。最近は得意にしてきたセットプレーでも惜しいシュートを見せるなど、その才能を解き放った感はすさまじい。
 
 風間八宏監督も彼の活躍と成長には目を細めるひとりで、試合後には「泰士と裕紀にはかなりの判断を委ねている」と厚い信頼感を口にした。プレシーズンキャンプでは負傷以外でもやや遅れ気味だった昨季のキャプテンは、地道な努力とそのキャパシティの両面をもって新生・名古屋のトップグループに追いつき、今ではその先頭を走るひとりとなった。
 最悪の形で失点し、0-1で迎えたハーフタイムには「短い言葉ですけど、必ず追いつけるって話をしていましたし、『同じ過ちを繰り返さないようにしっかり戦おう』とも言いました」と、チームを鼓舞していたという。「俺はキャプテンじゃないほうがいいのかも」と“不適格”を自称するが、なかなかどうして立派なチームリーダーっぷりである。その田口が反撃の狼煙を上げたのだから、チームが乗ったのも当然といえば当然だった。
 
 得点の後、田口はひとしきり雄叫びを上げたあと、ピッチサイドで待っていた楢崎正剛の下へ駆け寄り、喜びを爆発させた。
 
「去年のこともあったから、ナラさんのところに走っていったところはあります」
 
 この日のスタメンで昨季の最終節にも出場していた選手は田口とシモビッチのふたりだけ。最近はサブに回っている楢崎は「本当はピッチで俺が責任を分かち合っておかないといけないから、泰士には申し訳ない気持ちもある」と語る。執念だけではない。あの悲しみを分かち合った選手たちの絆もまた、起死回生の一撃を生んだ大切な要素だったのだ。
 
 歓喜に沸く試合後のスタジアムで、田口はすでに切り替えてもいた。「次に勝たないと意味がないので。喜ぶのは今日までです」。チームはリカバリーを経て1日のオフを挟み、前週と同様に練習を完全非公開にして1週間の準備を進める。昇格まであと1勝である。それを勝ち取る大きな力を生み出すのは、レジェンドナンバーを引き継ぐ生え抜き最年長の仕事に違いない。
 
取材・文●今井雄一朗(フリーライター)