【コラム】“スーパーハードワーク”でJユース日本一…京都U18の快進撃を支えたものとは

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  試合終了を告げるホイッスルが鳴り響いた瞬間、ピッチに倒れこんだのは敗れたガンバ大阪ユースの選手よりも勝った京都サンガF.C. U−18の選手の方が多かった。それはスタメンに名を連ねて、交代無しで90分間を戦った選手たちが限界まで走りきったことを表している。2017 Jユースカップ 第25回Jリーグユース選手権大会は京都U−18が並み居る強敵たちを次々と撃破して、16年ぶり2度目となる優勝を果たした。

 “スーパーハードワーク”というキーワードを掲げるチームは、その言葉どおりの戦いで大会を勝ち上がってきた。決勝を含む6試合全てが1点差かPK戦での勝利。1試合の最多得点が2点と爆発力のあるチームではないが、全員が労を惜しまぬ動きでピッチ上を駆け抜けた。

 守備の支えとなったのはプレミアリーグでの戦いだ。今季、京都U−18はWESTリーグからEASTリーグへと転籍。西日本勢とは違うスタイルや、拮抗した実力差による球際の激しさを味わう中で、次第に“悪い時間帯をいかに耐えしのぐか”という耐久力を身に付けていく。今大会も前線から連続してプレスを掛け続けることを掲げていたが、自陣に押し込まれる苦しい展開も少なくなかった。そこで江川慶城と竹島京介のCBコンビを中心に最後のところで身体を投げ出して失点を許さなかったことが、優勝の一因となっている。

 攻撃で光ったのは自陣でボールを奪ってから一気に相手ゴールへ迫るロングカウンターだ。高い位置でボールを奪えた場合と違い、自陣からだとゴールまでの距離が遠くなるが、京都の選手たちは守から攻への素早い切り替えから次々と敵陣へ飛び出していく。準々決勝のFC東京U−18戦、準決勝の広島ユース戦、そして決勝のガンバ大阪ユース戦の決勝点は全てこの形からだ。

 ロングカウンターを語る上で外せないのが、練習で行われるフルコートの3対3。岸本浩右監督は千葉時代にイビチャ・オシム氏の下でGKコーチを務めており、オシム直伝のメニューの一つだ。通常、少人数でのミニゲームは狭いピッチで行うが、この練習はその名のとおり11対11で使うピッチを狭めることなく3対3を行う。当然、一人あたりの走行距離は非常に多い。このメニューが行われる日は、選手も「“よし、やるぞ!”と覚悟を決めて向かわないといけない(笑)」(MF橋本尽)。ただし、最初の頃は「走力は鍛えられそうだ」という思いと同時に「こんな状況が実際のゲームで発生するんだろうか?」という疑問を持つ選手もいた。実戦的な練習ではないという印象があったのだ。ところがロングカウンターを仕掛ける場面で、この練習が生きてくる。ボールを奪った瞬間に相手ゴールを意識し、広大なスペースでどのようにボールを運んでいくのか。そして、それを実践する走力。準決勝で逆サイドへの鋭いフィードが決勝点の起点となった江川の「はっきりと(受け手の選手が)見えていたわけじゃない。いつもの3対3の感覚から『あそこには走ってくれているはず』と思った」という言葉が、その成果を物語る。

 結果が出ればチームは波に乗る。そこに内容面での手応えがあれば、なおさらだ。リーグ戦で確立してきた耐久力を発揮し、トレーニングで培ってきた運動量や攻守の切り替えが得点につながっていく。好循環が生まれるとは、このことだ。

 快進撃を続けるチームの裏で、悩む選手もいた。本来はチームの軸となるべき3年生だ。決勝戦のスタメン11人中、3年生は3人だけ。怪我の影響で控えに回る選手もいたとはいえ、大会を通じて2年生が中心となっていたのは事実で、この傾向はリーグ戦から続いている。3年生の中にはモチベーションを失いかけている選手もいたが、大会中に彼らだけで集まって『チーム一丸となって戦う為に、自分たちのやれることをやろう』と確認しあったという。ホーム開催となった2回戦・サガン鳥栖戦、メンバー外となった3年生たちがピッチ脇から必死に修正点をピッチ内の選手に伝えようとしていたのは、チームの一体感が失われていなかった証だ。

 2年生のMF福岡慎平は優勝記念撮影の際、背番号3のユニフォームに着替えた。これはメンバー外となり長野に来ることのできなかったDF大西航暉のものだ。昨年末の負傷により今シーズンをリハビリに費やした大西は、夏の全国大会でビデオ撮影役をこなすなど、自分がプレーできない悔しさを抱えながら裏方に徹してきた。準決勝、本来ベンチに入るはずだった選手の体調不良によりメンバー入りした際も「まだ復帰段階にある自分の役目は交代出場ではなく、みんなの士気を高めること」(大西)とチームの為に振舞った。そんな姿を見ていた福岡は「大西君の分まで戦って、優勝の喜びを分かち合いたかった」という思いで先輩のユニフォームに袖を通している。映像でその姿を見た大西は「嬉しかったですね」と感情を噛み締めるようにつぶやいた。

 岸本監督が「サンガファミリーとしてのタイトル獲得だ」と話したように、様々な人の支えがあったことは選手たちも感じている。じつは決勝戦を前に、何人かの選手がトップチームでホペイロを務める松浦紀典にスパイクを加工・調節してもらった。週間天気予報では決勝戦当日は雪。さらに松浦が知人を通じて長野Uスタジアムのピッチをリサーチしたところ地面が少し固いことが分かり、「せっかくの大舞台。普段どおりのプレーが少しでも出せるよう、その手助けができればと思った」(松浦)と申し出たのだ。幸い雪は降らなかったが俣野亜以己は「しっかりと地面を捕らえられた」、先制点をアシストした橋本も「中敷を変えてもらったんですが、いつもより“止まる・加速する”といった動作がやりやすかった」と効果を実感している。小さな違いかもしれないが、その積み重ねが身体への負担増にもつながりかねない。スーパーハードワークを掲げるチームをハード面で支えた、好アシストだった。

 試合後、クラブ関係者や下部組織からトップチームへ昇格した選手はもちろん、他クラブへ巣立っていった選手からも祝福の声が相次いだ。現在、ベルギーで活躍する日本代表FW久保裕也もSNSで後輩たちの栄冠を喜んでいる。久保をはじめ、京都の下部組織からは優れた選手が輩出されている。今季もすでにGK若原智哉の昇格内定が発表されており、U−15年代で全国制覇を達成している2年生はU−17日本代表でキャプテンを務めた福岡など逸材揃いだ。優勝の喜びに浸りながら、そこで満足している選手はいない。彼らの目線はU−18やトップチームでの活躍、そしてその先にあるであろう大きな舞台だ。

https://twitter.com/kuboyuya31/status/932164875614384133

文=雨堤俊祐