ホーキング博士(Abaca USA/アフロ)

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 トランプ米大統領による初のアジア歴訪では、北朝鮮問題が主たるテーマとなった。北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長が「グアムにもアメリカ本土にもミサイルを撃ち込める」と豪語すれば、トランプ大統領は「いつでも攻撃できる態勢が整っている」と応答。まさに「言葉のミサイル」が飛び交う異常事態である。日本にとっても看過できない状況である。「あらゆる選択肢を用意している」と豪語するトランプ大統領だが、経済制裁と軍事的圧力で金委員長の行動をどこまで変えることができるのか。

 誰もが望まなくとも、戦争は起きる。過去の戦争の歴史を紐解けば、そうした結論に到達せざるを得ないだろう。翻って、第二次世界大戦後も今日に至るまで、戦争が勃発しなかった年は1年もない。しかし、核保有国となった北朝鮮がかかわるとなると、これまでの地域紛争や人種、民族対立から派生した戦争とは大違い。場合によっては、人類や地球の最期になりかねない危険をはらんでいるからだ。

 そんな折、車椅子の物理学者として著名なホーキング博士が気になる未来予測を発表した。これまで、同博士は「人類の未来はあと1000年で終焉を迎える」との見通しを語っていたものだ。ところが最近、この予測を全面的に見直した結果、「人類に残された時間は、せいぜい100年しかない」と軌道修正。なんと、900年も人類の未来をカットしてしまったのである。

 一体全体、どういうことなのか。ホーキング博士曰く「人類は急いで別の惑星に移住することを考え、実行しなければならない。地球は生物が生存するには、あまりにも危険が大きくなりすぎた」。これまで人類はさまざまな偉業を成し遂げ、科学の力で人間生活を便利で豊かなものに進化させてきた。このことに異論をはさむ人はいないだろう。

 確かに、われわれは空を飛ぶようになった。もちろん飛行機のお陰だが。また、多くの機械を発明、製造してきた。病気も克服する医療の進歩も目覚ましい限りだ。コンピュータもインターネットも飛躍的な進歩を遂げ、ビジネスも生活も格段に飛躍することになった。

 その一方で、破壊や対立も巻き起こった。二度の世界大戦はいうまでもなく、個人レベルでも地域間でも、些細ないざこざから流血騒動、そして人種や宗教が絡まり、紛争やテロが絶えない有様だ。

 こうした状況に加えて、人類が自ら首を絞めるような行為を重ねた結果、「地球温暖化」という脅威が出現した。トランプ大統領は「地球温暖化はフェイクニュースだ。そんなものは存在しない」と啖呵を切ったが、テキサス州やフロリダ州を襲った前代未聞の大洪水に加え、カリフォルニア州の200カ所で同時に発生した山火事は紛れもなく、温暖化のなせる業であった。

「知の巨人」と異名を取るホーキング博士が、この期に及んで、人類の未来を900年も短く予測せざるを得なくなったのは、偶然ではないだろう。

●「言葉のミサイル」が本物の核弾頭の打ち合いに

 実は、ホーキング博士は昨年2016年の11月の時点では「人類には他の惑星への移住を完了するまで1000年の時間的余裕がある」と述べていた。ところが、それから1年も経たずして、「残された時間は、あと100年」と大幅な修正を下したのである。ということは、昨年末から半年ほどの間に起こった事態に原因があるということだ。

 その意味では、北朝鮮の核実験やミサイル発射実験はホーキング博士の未来予測を大きく変えさせたに違いない。トランプ大統領と金委員長との「言葉のミサイル」が本物の核弾頭の打ち合いになる可能性が高い、ということであろう。

 あるいは、北朝鮮の核保有をアメリカが認めることになった場合、韓国や台湾、そして日本も核保有の道を歩むことになる。いわゆる「核兵器の拡散」というドミノ現象が広がり、なんらかの人為的判断ミスや操作ミスによって、地球全体が核爆発に飲み込まれる恐れも大きくなったということであろうか。

 と同時に、ホーキング博士の懸念は人工知能(AI)にも及んでいる。「シンギュラリティ」と呼ばれているが、AIが人間を凌駕する時代が間もなく到来する可能性が高い。この分野の第一人者と目されるイーロン・マスクによれば、「2030年には人類はAIに価値判断を委ねるようになる」。欲望の虜になりがちな人間に任せていては、地球環境は悪化するばかりで、紛争や戦争も絶えない。人類全体の幸福や地球全体の生存を考えた時、AIの出番となる、というわけだ。

 しかし、ホーキング博士の見方は懐疑的である。AIが自ら価値判断を下すようになれば、生身の人間では生存できない劣悪な環境下でもロボットとしてAIは生き残れるので、いずれ生んでくれた人類に見切りをつけ、AIの社会や国家を目指すようになる。そうなれば、人間に勝ち目はないだろう。そうしたAIの天下が現実のものとなる前に、人類は安全に暮らせるより良い環境を求めて他の惑星に移住する道を進むべきだ、というのが同博士の主張である。

●ビル・ゲイツの危惧

 ホーキング博士に限らず、マイクロソフト創業者のビル・ゲイツ氏も人類や地球の行く末に関しては危機感を露わにしている。同氏は毎年のごとく、未来予測を公表しているが、最新版を見ると、「人類の未来は未知なる危機との闘いの連続」で、「このままでは、人類の生存は危うい」とのこと。

 特に注目すべきは、「地球温暖化の影響で、氷解した凍土から死んだ動物の病原菌が復活し、かつてのスペイン風邪のような猛威を振るい、億の単位で人命を奪う」との未来図だ。18世紀から19世紀にかけまん延した病原菌が再び人類に襲い掛かる恐れが出てきた。

 今や北極や南極の氷が解けだしているくらいだ。かつて伝染病で亡くなった人や動物が埋められた墓地や埋葬地から、亡霊の如く感染症の遺伝子が再生する可能性が高くなっている。予防ワクチンの開発と配布が欠かせないだろう。とはいえ、最悪の場合には、現代版「ノアの箱舟」計画が必要になる。ゲイツ氏はこうした危機的状況を先取りし、ノルウェーのスピッツベルゲン島に人類救済のための種子の保存を目的とした地下基地を建設しているほどだ。

 杞憂にすぎなければ良いのだが、冷静に今日の世界情勢を分析すれば、ホーキング博士やゲイツ氏の危機感や厳しい見通しに耳を傾ける必要があるだろう。日本でも身近なところで、そうした危機的状況の萌芽を感じることもできる。

●キラー・ロボット

 実はアメリカでは、国防総省(ペンタゴン)が音頭を取り、未来の戦場で活躍するロボット兵士、別名「キラー・ロボット」の研究が急速に進んでいる。毎年のように、ペンタゴンの国防高等研究計画局(DARPA)主催でキラー・ロボットのコンテストが実施されており、民間の優秀な頭脳をゲットしようとするアメリカ政府の意図が明確に打ち出されているわけだ。日本を含む世界各国からロボット工学の専門家を自負する大学生や若きエンジニアのチームが参加している。

 この「ロボティクス・チャレンジ」と呼ばれる競技大会では、ペンタゴンが未来の戦場で導入を図りたいと構想している各種のロボット関連技術が競われる仕掛けになっている。優勝チームには2億円を超える報奨金が授与される。飲まず、食わず、休まず、不平も言わず、働き続けるロボット兵士の実用化が目前に迫っていることを実感させるイベントである。

 現在、世界80カ国で殺傷能力を持つロボットの研究開発が進んでいる。その背景には、「将来の戦争においては、ロボットが主役になる」ということが確実視されているためであろう。わが国においても新設された防衛省の防衛装備庁が目的として掲げる主要な研究テーマのなかに「防衛技術のスマート化・ネットワーク化・無人化」がきっちりと組み込まれている。概ね20年後の将来の装備品のコンセプトをまとめ上げ、その実現に向けての研究開発のロードマップづくりがすでに始まっているといえよう。

 いうまでもなく、わが国はロボット技術に関しては民生分野において、世界をリードする立場にある。『鉄腕アトム』『鉄人28号』『エイトマン』『ドラえもん』など漫画の世界から始まり、自動車や半導体の製造工場はいうまでもなく、介護や癒し系の人型ロボットの実用化に関しては、世界を圧倒する技術の蓄積を誇っている。ペッパー君が銀行やホテルを舞台に接客で愛嬌を振りまいている国はほかにはないだろう。「デュアル・ユース」と呼ばれる民生技術を防衛装備として活用する動きは当然の流れになろう。日本政府では新たな輸出産業に育てる戦略を構想中だ。

「インパクト」と呼ばれる「革新的研究開発推進プログラム」に代表されるように、日本では防衛省が音頭をとり、内閣府、経産省、環境省など他の府・省が推進する国内の先進技術育成プログラムのなかから、デュアル・ユース技術として利用できる可能性を徹底的に追求しようとする方針が打ち出されている。

 新たにスタートした防衛装備庁においては、最大の同盟国であるアメリカの国防高等研究計画局や防衛分析研究所(IDA)、国防契約管理庁(DCMA)等と情報交換や人的交流を深めることで、ロボット関連技術についての日米の共同研究開発も視野に入れている。テロ対策にもロボット兵士の活躍が期待されているようだ。

 民間の分野においては、グーグルが進めるGPS機能を活用した無人自動車が注目を集めているが、国防の分野においては自律型無人航空機など、無人装備品の研究が着実に進んでいる。そして、両者の融合が差し迫った課題となっていることは論を待たない。こうしたニーズを先取りするかたちで、グーグルは世界中のロボット技術会社を買収し、ニュービジネスの中心に据えようとしている。グーグルはすでにヒューマノイド・ロボットの販売を本格化させつつある。

●AIが人間を支配する日

 こうした動きは、外交・経済・技術といった各要素を一体化する戦略が世界の趨勢となりつつあることが影響している。さまざまな防衛装備品をステルス化・軽量化・無人化するためには、新素材の研究開発も欠かせない。こうした分野でも、日米の官民挙げての協力が要となる。とはいえ、こうした分野で技術の蓄積のある日本企業がアメリカ企業の傘下に入りつつある現状はもったいないといわざるを得ない。日本政府による自国企業支援策の強化が望まれる。

 現在、日本はアジアの近隣諸国に対し、気象海洋業務・航空気象分野・潜水医学といった分野で、防災や災害時の救援活動を視野に人材育成や技術移転協力を行っている。こうした分野においても、ロボット関連技術は極めて重要な役割を果たすものと期待が高まる一方だ。原発の事故現場など危険な環境下ではロボットの活躍が欠かせない。

 その半面、ロボット兵士に対する不安や懐疑的な見方も残っている。まさに、ホーキング博士が懸念するところである。確かに、瞬発力や破壊力は人間の比ではないだろうが、感情を伴わないロボットの行動には、人間らしさが欠落しているために、どのような行動をとるのか、予測不能の可能性もあり、人間のコントロールがどこまできくものか、不安視する声が出るのも当然であろう。専門家の間では「キラー・ロボットは原爆に次いで人類を絶滅の危機に追いやる恐れをはらんでいる」との見方も広がる。

 AIを身につけ、超人的な情報処理や瞬時の判断力は人間を上回るに違いないが、人間を超える存在になったキラー・ロボットたちが、人間を支配下に置くような想定外の行動に走る可能性も否定できないからだ。国連の場においても、キラー・ロボットの導入に関して、慎重な対応を求める声に耳を傾けるべきとの意見も出されているほどだ。

 ディズニーの夢の世界でドローンやロボットと非日常的体験を楽しむのは結構だが、現実の世界にロボットがわが物顔で侵入してくる事態は歯止めをかけておく必要があるだろう。ホーキング博士に限らず、ITの先駆者であるビル・ゲイツ氏やスティーブ・ウォズニアック氏までもが「人工知能ロボットは人類の終わりを意味するかもしれない」と警鐘を鳴らしているからだ。今年のノーベル文学賞に輝いた日系イギリス人作家のカズオ・イシグロ氏も同じような危機感を募らせている。

 生身の兵士に代わるロボット兵士の登場は時間の問題であろう。今から備えておくべきは、そうしたキラー・ロボットに人間的感情が移植されるようになった場合、どちらが主役の座を確保するようになるか、ということだ。また、人間とロボットの一体化、いわゆるサイボーグやヒューマノイドが人類に取って代わる時代も間近に迫っているように思われる。

 今年10月、サウジアラビア政府は世界で初めてロボットに市民権を与える決定を下した。労働力不足に悩む「アラブ世界の石油大国」では、これまで海外から優秀な人材を呼び寄せていたが、厳格なイスラム教のため、束縛を嫌がる欧米人に敬遠され、近年では必要な人材の確保が難しくなってきた。そこで苦肉の策として、ロボットに正式な雇用の場を提供することにしたわけだ。果たして、うまく行くのだろうか。

 こうしたロボット社会が広がれば、「人間に任せていたのでは地球環境は悪化する一方だ。今こそ、われわれロボットが地球を守るため、立ち上がらねば」という“ロボット革命”も起こるかもしれない。そうした近未来シナリオも無視できないだろう。感情を持ったロボットの研究開発も着々と進んでいる。手遅れにならないように、人類とロボットの境界線を明確化させておく必要がある。「あくまで人間が主役であること」を肝に銘じておかねばならない。このままではロボットに主役の座を奪われてしまう日も遠くないように感じられる。
(文=浜田和幸/国際政治経済学者)