来るべき日に今から備えておいても損はありません(写真:Rina / PIXTA)

企業勤めのビジネスパーソンに避けられないのが、いつかやってくる定年。そんな定年後のプランを思い描いたことがあるでしょうか。

60歳で完全にリタイアし、あとは悠々自適に暮らす。心機一転、新たに起業して一国一城の主になる。再雇用や再就職で、65歳までは働く。65歳といわず、働けるだけ働く。

人の未来には、さまざまな選択肢があります。しかし、定年を迎えてから「さて、今後はどうしよう」と考え出したのでは遅すぎます。思わぬ事態に遭遇することもあります。私たちの共著『金持ち定年、貧乏定年 55歳から始める得する準備と手続きのすべて』でも解説していることの1つが、退職金の落とし穴です。

日本経済団体連合会の調査によれば、退職金の平均額は約2400万円(大卒総合職)。東京都産業労働局労働情報センターの「中小企業の賃金・退職金事情」では、約1200万円(大卒)となっています。

中小企業にしても大企業にしても退職金で、かなりの金額を手にする人は少なくありません。ただ、これまで運用経験のない人が突然こんな大金を手にしたら、使い道に迷ってしまうのではないでしょうか。

退職金特別プラン

退職金が振り込まれると、即座に銀行がアプローチを開始します。彼らの狙いは退職金を使って定年退職したばかりの人に投資信託や保険を買ってもらうことです。

マイナス金利の現在、預金残高では大した儲けが出ません。銀行にとっては、投資信託などを売って得られる手数料のほうがオイシイわけです。

よく提案される「退職金特別プラン」は、大半が定期預金と投資信託を半々に組み合わせた内容になっています。定期預金の金利が6%と驚くほど高いのですが、よく見ると3カ月ものとあります。これは「3カ月を過ぎると、通常の定期預金の金利になる」という意味です。

しかも、投資信託の手数料も侮れません。たとえば、2000万円を運用したとします。3カ月もので6%の金利を年利に換算すると、1.5%。1000万円の定期預金には15万円の利息がつきます。残りの1000万円で手数料3%の投資信託を申し込んだら、購入手数料は30万円です。

なんと優遇金利よりも、手数料のほうが高いのです。銀行はこの時点で30万円の利益が出る一方、契約者は最初からマイナス15万円のリスクを背負わされます。

定期預金が減ることはありませんが、投資信託は運用に左右されます。信託報酬が高いケースが多いため、よほど運用がうまくないとなかなかプラスになりません。

ワンルームマンションのオーナーにならないかという勧誘もあります。「家賃収入で豊かな老後」といったフレーズは魅力的に聞こえます。

また、これまで手を出したことがないにもかかわらず、退職金をつぎ込んで株式投資を始める豪快な人もいます。

不動産投資、株式投資で資産を増やすのもいいと思いますが、やはり知識ゼロの状態で成功するほど甘くはない世界です。1度も投資経験がない人がいきなり始めて、うまくいった話は聞いたことがありません。

詐欺

退職金を狙った金融商品の詐欺も少なくありません。「未公開株」「海外不動産」「FXファンド」「海外コイン」「動物・植物などへの投資」など、手口はさまざまです。

「自分だけは大丈夫!」と思っている人は、特に危険です。うまい話には裏があると疑ってかかったほうが無難でしょう。

定年後は「第二の人生。長年温めてきた夢を実現させる」とばかりに、起業する人もいます。

しかし、始められることと成功するかどうかは別ものです。

蕎麦打ちの修業をして店を開く、300万〜400万円かけて自費出版するなど、ケースもいろいろ。話もよく聞きますが、残念ながらほとんどの場合はうまくいきません。夢を追うのは悪いことではありませんが、現実の生活を考慮せず、もしも失敗したら、虎の子の退職金がゼロになり、さらには借金まで背負い込むおそれもあります。

そのほか、長年頑張って働いてきた自分へのご褒美もかねてと考えるせいか、世界一周クルージングも人気です。この豪華な船旅は1人につき、だいたい200万円はかかります。夫婦で出掛ければ、いっぺんに400万円が吹き飛びます。

また、暇を持て余してギャンブルにハマったり、キャバクラへ通い詰めたりして散財するケースも見受けられます。

退職金は大切な老後資金です。後先考えず一気に使ってしまっては、途中で底をつくか、その後の生活をかなり切り詰めなくてはならなくなる可能性があります。

60歳以降の人生を成功させるかどうかは、それ以前に立てた入念な計画にかかっているといっても過言ではありません。

定年後の生活設計において、「おカネ」は重要なキーワードです。世知辛い話に聞こえるかもしれませんが、暮らしていくうえでおカネが欠かせないのも事実。これから先のおカネを考えることによって、定年後のイメージがより具体的に、そして現実的になってきます。

手持ちの老後資金と年金などの収入で、働かなくてもある程度は大丈夫なのか。もう少し働いたほうがいいのか。それとも、無理をしてでも働けるだけ働くべきなのか。大切なのは、経済的な側面から見えてくる方向性です。

老後資金に余裕がないとわかれば、再雇用や再就職といった選択も浮上するでしょう。仮に生活費が300万円かかるとします。働かなければ、まるまる300万円が出ていくだけです。一方、働いて200万円の収入を得られたなら、支出は100万円で済みます。

3年間働いたとすると、家計の収支に600万円もの違いが出るわけです。この差は大きいです。60歳前より給料が下がったとしても、働くことで明らかに家計は助かることになるのです。

「せっかくのんびりできると思っていたのに……」と考えていた人には恐縮ですが、定年後におカネを増やすのはなかなか難しいといえます。老後資金が切羽詰まってからでは対処法にも限りがあるのです。

長生きする分おカネも必要

近頃は、「老後破産」「下流老人」などという言葉もよく耳にします。長寿の時代とあって第二の人生を楽しむ時間が増えるのはうれしい反面、長生きする分おカネも必要になります。高齢者の生活苦は、いまや深刻な社会問題の1つです。

老後破産を引き起こす原因としては、次のようなものがあげられます。

・中高年からの思わぬ収入の減少
・医療費がかさみ、蓄えがなくなった
・金銭感覚を変えられず、収入に見合わない生活をした
・子どもが面倒を見てくれなかった
・退職後も住宅ローンが残った
・退職金が思ったより少なかった

これらは誰にでも起こりうる問題ですが、みながみな「貧乏定年」になるわけではありません。

「そりゃあ、蓄えが豊富な人は困らないだろう」と思いますか。実は、明暗を分けるもっと大きなポイントは、おカネを計画的にコントロールしているか否かにあるといえます。

意外なことに、収入が少なくても生活を切り詰めながらやり繰りできていた人は、定年後もあまり困窮しません。逆に、現役時代に年収が1000万円を超え、生活が派手だった人ほど貧乏定年になりやすいのです。

彼らは節約とは無縁の暮らしを送ってきました。定年後に収入がガクンと下がっても、おいそれとはギャップに対応できません。いままでと同じようにおカネを使いまくっていたら、毎月大赤字になって当然です。

たとえば、年金が年額で300万円、貯蓄が5000万円あるとします。これほど潤沢な資金があれば、普通はゆとりのある暮らしができます。


ですが、1年間に800万円を使い続けたらどうなるでしょう。毎年500万円が貯蓄から出ていくのですから、10年しか持ちません。あとは年金300万円だけの生活になります。

ライフスタイルを見直せばなんとか暮らしていけるでしょうが、現役時代の金銭感覚を変えられず、老後破産に至るケースは多いのです。

もっとも、収入の多寡に関係なく、この心理は誰にも当てはまります。長年維持してきた生活レベルは、そう簡単には落とせません。だからこそ、早めに現状を把握し、対策を立てることが大切になってきます。足りない分を積み上げる、無駄を省くなど事前に手を打っておくことができれば、老後破産は避けられるはずです。