もり・あきとし=1985年6月19日生まれ、宮城県出身

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2005年にアニメ作品の放送枠として開設され、以降、バラエティーに富んだ斬新な作品を次々と放送、アニメファンから熱狂的な支持を得ている「ノイタミナ」。この深夜アニメ枠で放送される作品群の製作を統括する“編集長”を2014年から務めているのが森彬俊氏だ。「銀の匙 Silver Spoon」(2013、2014年)、「乱歩奇譚 Game of Laplace」(2015年)、「舟を編む」(2016年)などのヒット作を世に送り出してきた彼に、現在放送中の「いぬやしき」の見どころや、ノイタミナというブランドへの思いを語ってもらった。

「新しいものは、枠からはみ出ることで生まれるものだと思います」というノイタミナ編集長・森彬俊氏

■ 「自分が一番やりたいことって、これじゃないか」と思ったんです

──森さんは、アニメが作りたいという思いからフジテレビに入社されたんですか?

「もともとアニメは好きだったんですけど、学生のころは、テレビアニメって、あくまでもそれぞれの制作会社が作るもので、テレビ局は放送枠を用意するくらいの関わり方しかしていないものだと勝手に思い込んでいて。どちらかと言えば、ドラマや映画を作る部署に行きたくて、フジテレビを受けたんです。

そして入社後すぐ、弊社の作品をパッケージ化する部署に配属されたんですが、たまたま隣の部署が、ノイタミナを中心にアニメを作っているチームだったんですね。そこで彼らが自分たちで作品の企画・立案をしているのを見たときに、『自分が一番やりたいことって、これじゃないか』と思ったんですよ。それ以来、ずっとアニメの部署への異動願いを出し続けて、ようやく6年前に今のアニメ開発部へ異動することができたんです」

──アニメ作品の制作に携わるようになって、初めてその醍醐味を感じた作品は?

「やっと冷静に見られるようになったのは、アシスタントプロデューサーとして参加した『PSYCHO-PASS サイコパス』(2012年)からですね。オリジナル作品だったんですが、総監督に本広克行さん、脚本に虚淵玄さん、監督にProduction I.Gの塩谷直義さんと、一流のクリエイターをお呼びして、これは必ずいいものにするぞという確固たる思いがチーム全体にあって。みんなでシナリオ会議からスタートして、キャスト選びとか、どういう絵にするのかとか、ゼロから物が生まれる瞬間に立ち会うことができて、非常に興奮したのを覚えています。完成した第1話を見たときは、ものすごく感動しましたね。実際、この作品はものすごい反響をいただいて、第2期(「PSYCHO-PASS サイコパス2」/2014年)もやって、その後、映画(「劇場版 PSYCHO-PASS サイコパス」/2015年)もやらせていただくことができて。本当にうれしかったです」

──そんな中で、2014年からはノイタミナの編集長に就任されましたね。

「本来、編集長という役職はうちにはないんですが、ノイタミナチームを取りまとめる役として、便宜的に編集長という言い方をしてるんです。ただ、正式な役職ではないとはいえ、大きな責任が伴うポジションですから、前任者から引き継いだときは正直、ものすごいプレッシャーでした(笑)」

■ 「今だからこそ、この作品を制作する」という“登場感”は常に意識しています

――ノイタミナの編集長とは、具体的にはどのようなお仕事をされているのでしょうか。

「僕としては、編集長の最大の仕事は、みんなでディスカッションをして総意を汲み取っていくことだと思っています。もちろん、社内で上がってきた企画や外部から持ち込まれた企画に対して、『こうしたらいいんじゃないか』といったアドバイスはしますが、チームのみんなでノイタミナというブランドをよりよいものにしていく、その舵取りを僕がしている、という感じですね」

──ノイタミナでは、新作の制作が決まるたびに、いつも話題騒然となりますよね。他のテレビアニメと比べても、特に注目度が高い枠だと思うんですが、そのあたりは、編集長の森さんも意識されていますか?

「最近は、ファンの方々から『今回はノイタミナらしい作品だ』という言い方で評価していただくことも多いんですが、そういう言葉をいただけるのは、幸いにもノイタミナというブランドが、ある程度確立されていることの証しだと思うんです。でも逆に、『ノイタミナだから、こういう作品でなければダメだ』といった先入観は、ファンの方々には持っていただきたくないなと思っていて。送り手である僕ら自身、そういう考え方はしていませんから。“ノイタミナらしさ”とは何か、ということは追求しながらも、新作の企画を選定する際には、そういった固定観念に縛られないようにしたいなと。その上で、『今回の作品もノイタミナらしかった』と言っていただくのが一番の正解じゃないかと思うんですよ。

端的に言えば、『期待に応えて予想を裏切る』ということですよね。これは、全てのノイタミナ作品に当てはまる考え方だと思っています」

──作品を決める上で、「こういうテイストのものはやらない」というような線引きは全くないわけですね。

「ええ、基本的には何一つ決め事はありませんし、何でもありだと思っています。最初から自分たちで枠組みを設けてしまうと、その枠の中からしか作品が生まれない。やっぱり、新しいものとか面白いものって、枠からはみ出ることで生まれるものだと思うんです。

例えば企画会議でも、ともすれば“自分の好みのプレゼン大会”みたいなことになりがちなんですけど(笑)、僕はそれでもいいと思っていて。何が視聴者に受けるのかなんて、誰にも分かりませんからね。だって、『おそ松さん』(2015〜2016年、2017年テレビ東京系)があそこまで大ヒットするなんて、誰も思っていなかったわけでしょう? 以前、上司がよく『分からないところにこそ成功がある』と言っていたんですが、今は僕にもその意味がよく分かる。枠組みを作るのではなく、むしろ僕の分からないものを積極的に取り入れていきたいですね。

今、テレビアニメは1クールに50本近く放送されていますが、正直、視聴者の方々も全部は見きれないと思うんですよ。そうなると、前評判だけで、『これは見ない』と決められてしまうことがある。アニメファンの言い方でいうと、“0話切り”ってやつですね(笑)。そんな状況の下で、その50本の中でも埋没しない、0話切りされない個性的な作品を発表していきたい、という思いは強くあって。それは必ずしもトガった作品を作りたい、という意味ではないんです。『今このタイミングだからこそ、この作品を制作する』という、言うなれば“登場感”。決め事はないと言いましたが、唯一心掛けていることがあるとすれば、“登場感”は常に意識しているところかもしれませんね」

■ 「いぬやしき」は、アンバランスながらも王道な世界観が面白い

──ノイタミナでは現在、奥浩哉さんの原作コミックのアニメ化作品である「いぬやしき」が放送中です。まず、本作を選んだ理由は?

「やはり奥先生の原作の魅力が一番大きいですね。それだけに、生半可にアニメ化できる作品ではないと思っていたんですが、それを『ユーリ!!! on ICE』(2016年テレビ朝日ほか)を手掛けたMAPPA(※アニメ制作会社)さんが制作、『TIGER & BUNNY』(2011年MBSほか)のさとうけいいちさんが総監督、『進撃の巨人』3D監督の籔田修平さんが監督という、考え得る限り最強の布陣がそろった時点で手応えは感じてました」

──冴えない中年サラリーマンだった犬屋敷が、異星人の手によって機械の体となり、人助けに目覚め、一方、同じ状況で機械の体になった高校生の獅子神は犯罪行為を繰り返す。この両者が戦うという構図が面白いですね。

「キャッチコピーにある『俺が悪役で… じじいがヒーローか…!』というのは獅子神の心情ですね。定石のパターンとは逆の設定なんですが、そこで描き出されるストーリーは、ストレートなヒーロー譚で。そんな、アンバランスながらも王道な世界観がとても面白い。普段アニメをごらんにならないような方も楽しめる作品だと自負しています」

──犬屋敷役が小日向文世さん、獅子神役が村上虹郎さんというキャスティングも注目を集めています。俳優の起用は賛否両論あったかと思いますが。

「このキャスティングは、僕というよりも、現場のプロデューサーである松尾(拓)のアイデアなんです。小日向さん、虹郎くんという意外なキャスティングによって、この作品は普通のアニメではないんだという、ある種のスケール感を出すというのが松尾の考えで。それって僕個人だとなかなか出てこないアイデアだし、チームだからこそ生まれるものなんですよね。こういった多様性が生まれるのがチームであることの強みだと思います。小日向さんは、それまで家族や社会からのけ者になっていた犬屋敷が、突然強大な力を持ってしまい戸惑う、その微妙な心の震えみたいなものを見事に表現されていて。素晴らしい俳優さんだと思いますね」

──先ほど、1クールに50本近いアニメ作品が放送されているというお話もありましたが、こうした状況は今後も続いていくのでしょうか? 一方では、アニメーションの業界は今、作品の量産で制作現場が疲弊してきているとも言われたりしていますが…。

「テレビ放送だけでなく、Netflix、Amazonプライム・ビデオなど、配信の存在が大きくなってきている中で、当然各社のオリジナル作品も増えていくでしょうし、きっと作品数は、これからますます増えていくと思います。ノイタミナも、放送直後にAmazonプライム・ビデオで配信させていただいているんですけど、これまでは日本のアニメ作品が海外に流通するまで時間のギャップがあったのが、ほぼ同時のタイミングで世界中に広がるようになった。それだけに、世界に向けた作品が増えていくのではないか、というのは何となく感じています。実写だと、演じているのが日本人であることがハードルになってしまうことがありますが、アニメにはそれがないし、全世界で配信するのに非常に適したコンテンツでもあると思うんですね。僕らはその中で、現場が疲弊しないよう、スケジュールの管理など、これまで以上に彼らのフォローに注力することが課題だと考えています」(ザテレビジョン)