結婚に必要なのは、お金or愛?

それは、女にとって永遠のテーマである。

“最後は愛が勝つ”と信じたくてもそれは理想論だということに、女たちは徐々に気づいていくのだ。

しかし「お金より愛が勝つ」と言い切る、ある女がいた。

その名は、愛子。

金に糸目がない女だらけの東京において、愛子は信念を貫き、幸せな結婚生活を勝ちとれるのか?

広告代理店で働く29歳の愛子は、大手通信会社勤務の知樹と結婚を決め、幸せな毎日を過ごしている。

一方、同時期に医者との結婚を決めた親友の明日香は、いつか絶対、愛子に「愛より金」だと認めさせてみせると固い誓いを立てていた。




“男の愛情の大きさは、女にいくらお金をかけるかに比例するの。”

大学時代から、明日香がいつも隣で口癖のように言っているのを、愛子はこれまで笑って聞き流していた。だけど今日に限って、その言葉が蘇り、頭から離れない。

サークルの友人たちと明日香の渋谷のマンションを訪れた日の夜、自宅で夕飯の皿洗いをしながら、愛子はその日明日香と交わした会話を思い返していた-。

「ねえ、明日香は公平さんのどういうところが一番好きなの!?」

友人のひとりにそう尋ねられたとき、明日香はうっとりとした目つきで言った。

「サプライズのギフトをたくさんくれるところとか、たまの休みの日には必ず美味しいレストランに連れてってくれるところが好き。私愛されてるんだって、心の底から実感できるの」

そして明日香は自分のスマホを取り出し、レストランで食べた料理の写真を次々に見せた。

「おとといは『レフェルヴェソンス』でしょ、先週は『虎白』、あっそれから『鮨さいとう』も行ったかなあ…」

有名店の名前を並べながら、弾んだ声で話をしている。

-明日香、あんなに得意だったのに、料理はしなくなっちゃったのかな…。

愛子は明日香を見つめながら、もう何年も昔、よく彼女が料理を作ってくれたことをふと思い出した。新入社員の頃、愛子が仕事で辛い思いをした日には必ず家に駆けつけて、得意料理の親子丼を作ってくれたのだ。

「愛子は?」

友人に唐突に名前を呼ばれ、我に返った。

「愛子は、知樹くんとはどんな感じ?」

「うちは、いたって平凡な毎日だよ。外食もあまりしないし、夜はほとんど毎日、家でご飯食べて過ごしてるかな」

愛子が笑顔で答えると、明日香が口を挟む。

「ふうん…。知樹くん、料理上手だもんね。でも、たまにはお願いして美味しいレストランでご馳走してもらったら?一応まだ結婚前なんだから、いつも家なんて味気ないでしょう」

そして明日香は付け加えた。

「それに、いくら料理上手でも、所詮プロの腕前にはかなうわけないしね」

愛子は、笑って頷いたが、心には霧がかかったように、なんだか気分が晴れなかった。


愛=お金をかけることなのか?


愛はお金をかける金額に比例する?


翌週愛子が会社へ行くと、上司から会議室へと呼び出された。

「今度のプロモーション、君にプロジェクトリーダーを任せようと思う」

それは、Instagramを使った携帯電話キャリアのプロモーションだった。女性の感性を存分に発揮させてほしいということで、愛子が抜擢されたのだ。思ってもみなかったチャンスの到来に、思わず胸が高鳴る。

ランチに行こうとしたとき、営業事務の派遣社員に声をかけられた。以前から愛子のことをずいぶん慕ってくれている子だ。

「プロジェクトリーダーなんて凄いですね!やっぱり愛子さんはカッコイイ!」

「あーあ、このまま“カッコイイ”路線まっしぐらかぁ」

口先で冗談を返しながらも、愛子は上機嫌だ。

そのとき、彼女の耳にきらりと輝くゴールドのピアスに気がついた。昨年ドラマ効果でブームが再燃した、ハートのフープピアスだ。

「あっ、そのピアスは…」

すると彼女は照れくさそうに言った。

「これ、最近喧嘩ばかりしてた彼氏が、仲直りの印にくれたんです。私はシルバーで良かったんですけど、彼、頑張ってゴールド買ってくれて。愛されてるんだなあって感動しちゃいました」

愛子は驚いた。知樹との仲直りの道具といえば、ハーゲンダッツのアイスくらいだ。

そしてふと疑問を抱いた。

-やっぱり愛していれば、高級レストランやプレゼントにお金を遣うのが普通なの?でも、知樹は…?




仕事を終えて家に帰ると、ちょうど知樹が夕飯を作り終えたところだった。

「今日は、愛子の好きなペンネアラビアータだよ」

知樹は、白ワインのボトルを開けてグラスに注ぐ。

「あれっ、トモくん。そのワイン、婚約祝いに部長から頂いた特別なものなんでしょ?とっておきの日まで寝かせておくって、あんなに張り切ってたのに」

愛子が尋ねると、知樹は笑って言った。

「ずっとやりたかったプロジェクトのリーダーになったんでしょう?今日ほどとっておきな日が他にあると思う?愛子、おめでとう」

激辛アラビアータを食べながら、思わず目頭が熱くなる。それと同時に、明日香の言葉やピアスに流されて一瞬でも疑問を抱いた自分のことが、心底恥ずかしくなった。



翌週末、先日集まったサークルメンバーの元に、一斉に明日香から連絡があった。公平が、明日香が世話になっているお礼に、皆にご馳走したいのだという。

-愛子のところを見習って、私たちも自宅でお食事をもてなすことにしました!知樹くんも一緒に来てね!

一体どういう風のふきまわしだろう。愛子は首をかしげながらも知樹と共に、明日香の自宅へと向かった。


急に自宅での食事を提案してきた明日香の真の狙いとは?


ホームパーティーの救世主


「今日はね、公平さんの知り合いの有名シェフを呼んで、ここでフルコースを作ってもらうことになってるの」

明日香は、呆気に取られる一同を見回したあと、時計をちらりと見る。

「…シェフがちょっと遅れてるみたいでまだ来ないんだけど…。もう少し待ってね」

そして知樹とすれ違いざまに、そっと囁いた。

「知樹くんも今度、家にシェフを呼んでみたら?手作りご飯もいいけれど、たまには贅沢してあげたほうが、愛子もきっと喜ぶと思うよ」

隣にいた愛子は、明日香の一言で知樹が気分を害したのではないかと、気が気でなかった。

そのとき公平が、青い顔をして現れた。

「大変だ…シェフが日にちを来週と勘違いしていたらしいんだ…。これから向かってもらうよう頼んではみたが、食材の準備が間に合わないって…」

誰かのお腹がタイミングよくぎゅるぎゅると鳴った。愛子は慌てて提案する。

「じゃあ、とりあえずシェフのお食事はまたの機会にして、今日はデリバリーでもとろうか?Uberイーツとか…」

すると明日香はものすごい剣幕で首を横に振った。

「ダメよ!せっかく皆をお招きしたパーティーなんだから!デリバリーなんて、絶対ダメ…」

オロオロする明日香を前に、一同はしんと静まり返る。愛子は咄嗟に思いついた。

「そうだ。皆で作るっていうのは、どう?」

しかし愛子の提案には耳も貸さず、明日香の表情はみるみるうちに暗くなっていく。

「明日香、お料理上手だったじゃない!昔よく作ってくれた親子丼、一緒に作ろうよ」

必死で明日香を励ましたつもりだったが、彼女は冷たく言った。

「親子丼…?私、そんなの作ったっけ?」

-明日香、忘れちゃったんだ。

愛子はがっかりして黙り込む。

結局、公平と相談しながらその場をまとめたのは、知樹だ。知樹の手際の良さは、実に見事なものだった。

近所の紀伊国屋で買ってきた食材をキッチンに並べると、手際良く料理を作りはじめ、あっという間にテーブルに並べていく。




数種類の前菜を食べ終える頃には魚料理が出来上がり、それが終わる頃には肉料理が完成した。

皆、口々に褒め称えていたが、特に感動した様子だったのは、公平だ。

「知樹くん、本当に…本当に美味しいよ!それに、久しぶりに家庭の味を思い出して、心まで温かくなったよ…。料理ができる男って最高にカッコイイなあ。良かったら僕にも今度、料理を教えてもらえないかな。僕も明日香に作ってあげたいんだよ」

興奮する公平の隣で、明日香は心なしかバツが悪そうな顔をして、うつむいている。

食事を無事に終え、皆が満足した顔で帰っていく。公平に何度も礼を言われながらマンションを出た途端、知樹ががっくりと肩を落とした。

「作ってばかりで俺、食べ損ねちゃった…。お腹すいたなあ。愛子が親子丼の話なんてしたから、無性に丼が食べたくなっちゃった」

「じゃあ、食べに行こう!『十番右京』のフォアグラ丼、今日は私が奢っちゃう!」

知樹はガッツポーズをする。

そして2人は笑いながら、手をつないで歩き出すのだった。

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ついに結婚式準備を開始する愛子と、明日香。