浦和の中盤で輝いた“不屈のシンデレラボーイ” ベンチ外から駆け上がった長澤の原動力とは

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激動の1カ月半を駆け抜け不動の主力に成長 10年ぶりのACL制覇に大きく貢献

 まさに“出来過ぎのサクセスストーリー”を、浦和レッズのMF長澤和輝はアジア制覇で締めくくった。

 25日のAFCチャンピオンズリーグ(ACL)決勝第2戦、本拠地アル・ヒラル(サウジアラビア)戦にフル出場すると、チームの10年ぶり2回目の優勝に大きく貢献したが、その原動力には“不動心”と怠らない準備があった。

 長澤はこの第2戦で、2トップの一角としてスタートした。インサイドハーフにポジションし、“中盤のデュエリスト”として存在感を発揮してきた長澤だが、そのポジションは少し意外なもの。しかし、試合開始1分、8分と連続してシュートを放つなど積極的な姿勢を見せた。そして相手ボールになれば、ファーストディフェンダーとして果敢なチェイス。アル・ヒラルのパスワークに対して、驚異的な運動量で対抗していた。

 そのシステムについて長澤は「もちろん、あのポジションで入った以上は点に絡めれば良かったんですけど、求められていたのはアグレッシブな守備でした。相手の後ろの選手にプレッシャーをかけられたと思います」と話した。試合途中ではボランチに降りて奮闘し、肉弾戦も厭わずにチームの守備を引き締めた。

 長澤を取り巻く環境は、この1カ月半ほどで大きく変わった。昨季開幕前に加入も1年間J2のジェフユナイテッド千葉に期限付き移籍していたため、今季が実質的な浦和1年目だったが、夏まではほとんど出場機会がなく、紅白戦でも起用されるのは中盤ではなく、控え組の右ストッパーを務める状況だった。

ハリル監督の称賛から取り巻く環境が激変

 それがミハイロ・ペトロヴィッチ前監督から堀孝史監督に交代し、迎えた9月27日のACL準決勝第1戦、敵地での上海上港(中国)戦でスタメン起用されると好プレーを披露。さらに10月18日の第2戦でも素晴らしいパフォーマンスを見せた。この試合を視察に訪れた日本代表のバヒド・ハリルホジッチ監督が長澤を名指しで称賛したところから、状況は急速に変わっていった。

 クラブでレギュラーをつかみ、11月の欧州遠征に臨む日本代表メンバーに初選出されると、ベルギー戦でスタメン出場し代表デビュー。それまで練習後に彼を呼び止めるメディアの姿などほとんど見かけなかったが、いつの間にか取材を受けるのが当たり前の選手になっていた。そうした状況の変化にも、長澤は惑わされない“不動心”を持っていた。

「良くも悪くも、僕は周りの声を気にしないタイプだから。どんなに騒がれてもやることは変わらないので。今までやり続けてきたことがあったからこそ、立場が少しずつ変わっていっても、やることが変わらなかったからこそ自分も変わらずにいられたんだと思います」

 そのやり続けてきたことは、後半30分のプレーにも表れていた。前方がオープンになった相手選手の前にボールがこぼれ、ミドルシュートを打たれる局面になった。それを察知した長澤は、疲れているはずの足で全力スプリントから懸命のスライディングでシュートブロックしてボールを跳ね返した。そうしたプレーを呼んだ積み重ねにこそ、長澤は胸を張る。

「いい準備をしたからこそ走れた」

「もちろん1週間、いつも通り準備はしました。だけど、もっとさらに前、試合に出ていない時にずっとやり続けて、試合で走れるように準備をしてきたわけですし、試合に出るようになってきてからは、より次の試合で走れるようにと自分で調整してきたつもりなので。連戦で疲労が溜まって大変な時期もありましたけど、いい準備をしてきたからこそ、あの時間帯でも走れたんだと思います」

 今や、浦和の中盤に欠かせない存在にまでなりつつある長澤は、ベンチ外からアジア王者の中心メンバーという激動のステップを踏んだ。しかし、ただのシンデレラボーイでないことは、彼の言葉からも明らかだ。

「心が折れて腐っても、試合に出られるわけじゃないから」

 積み重ねてきたものに対するちょっとしたご褒美という形で、長澤に勝利の女神が微笑んだ。

【了】

轡田哲朗●文 text by Tetsuro Kutsuwada

ゲッティイメージズ●写真 photo by Getty Images