井上尚弥【写真:Getty Images】

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井上の実力をすでに米国も認知…世界の猛者が説く“その上”に行く難しさ

 ボクシングのWBO世界スーパーフライ級王者・井上尚弥(大橋)は、来年2月に計画されている「Superfly2」に出場を熱望されていることからも分かる通り、すでに米国のボクシングファンからも認められている。米ケーブルテレビ局「HBO」のバックアップも強力。多くのメディアが発表する総合ランキングのスーパーフライ級バージョンを見ても、“The Monster”を1位か2位にランクしているはずだ。

 今後の焦点は、井上が米国のリングでただ勝ち続けるだけではなく、本場で“スーパースター”と呼ばれる存在になれるかどうか。その点に関しては、現場から「簡単なことではない」という声も依然として聞こえてくる。

「軽量級の選手がスターになるのはより難しい。多くのファンは、サイズのあるファイターに惹きつけられるもの。ファンは自分に可能に見えることや、似た体格の選手ではなく、誰もできないことをやってくれる“非日常的なもの”にお金を払うものだからだ」

 WBA、WBC世界ウェルター級王者キース・サーマン(米国)はそんな持論を語ってくれた。サーマンはすでに何度も来日している親日家。その話しぶりから、精神力とコンディションに秀でた日本のボクサーにリスペクトを抱いていることは伝わってくる。しかし、そのサーマンでさえも、米国のマーケットにおける軽量級選手の売り出し方の難しさを否定しない。

軽量級に求められる“恐怖の要素”…ロールモデルは6階級制覇のパッキャオ

「スターになりたいなら、“Fear Factor(恐怖の要素)”が必須だ。ヘビー級ボクシングが依然として人気があるのは、たとえスキルに優れているとは言えなくても、大きくてパワフルな選手たちはファンに畏怖の念を感じさせることができるから。軽量級の選手たちは総じてそれが欠けているんだ」

 米国のリングで“ドル箱”と呼ばれる存在になりたいなら、観客、テレビの視聴者に“畏怖、畏敬の念”を感じさせる選手にならなければいけないという。破壊力で名を売った全盛期のマイク・タイソン(米国)、現代のWBA世界ミドル級スーパー王者ゲンナジー・ゴロフキン(カザフスタン)などがその好例だろう。より大きなインパクトを生み出すためには、分かりやすいパワーを持った重量級が有利というのは理解できる。

 もっとも、ライト級以下の軽量級でも、クロスオーバーの知名度を誇った選手が存在しないわけではない。代表的な例が、スピードとパワーで米リングを席巻し、フライ級からスーパーウェルター級までの6階級を制覇したマニー・パッキャオ(フィリピン)だった。パッキャオが世界的な知名度を得たのは、ウェルター級でオスカー・デラホーヤ(米国)を下した後だ。それでもそのエキサイティングなスタイルは、多くのライバルに恵まれた幸運もあって、まだ軽量級で戦った時代からファンの熱い支持を得ていた。

元WBA世界フェザー級王者ガンボアも「観客が楽しめるショーを見せること」を力説

 このパッキャオ、あるいは4階級制覇王者のローマン・ゴンサレス(ニカラグア)とともに、WBA世界フェザー級王者時代のユリオルキス・ガンボア(キューバ)も米国で人気になった軽量級王者の1人である。驚異的なバネを秘めたガンボアは、リングサイドで見ていると思わず腰がひけるほどの強烈なKOを連発。井上と同様にHBOに重宝され、2009〜11年頃の短いピーク時には“センセーション”と呼び得る存在になった。

「まず第一に、すべてのファイトにおいて、誰にも分かりやすい形で自分が相手よりも優れていると示さなければいけない。KOできるに越したことはない。大事なのはただ勝つだけではなく、観客が楽しめるショーを見せること。テレビで見ているファンにも、『エキサイティングな選手だ』と感じさせなければいけないんだ」

“井上がスターになるために必要な要素”を尋ねると、ガンボアはそう述べた。

 実体験に裏打ちされているがゆえに、その言葉には説得力がある。無敗のまま米国でのキャリアを始めたこと、英語でのスピーチが(まだ)得意ではないことなど、ガンボアと井上との間には共通点も少なからずある。

 このガンボアは2010年1月まで圧倒的な形で7連続KOを続け、それが米国で知名度を高める要因になった。同様に、井上も何戦かにわたって迫力あるボクシングでファンを魅了する必要があるだろう。

猛者が集う軽量級…“群雄割拠”の中で新たなスター候補最右翼は間違いなく井上

 今年9月に行われた米国デビュー戦で井上は6回TKO勝利を飾ったが、相手のアントニオ・ニエベス(米国)の消極的な戦法もあって、特大のインパクトを残したとは言い難い。しかし、タイミングよくスーパーフライ級周辺に猛者が集まっていることもあり、2018年以降に再びチャンスが来るはずだ。

 鍵は強敵との対戦を実現させ、その相手をエキサイティングな形で下すこと。例えば、WBC世界スーパーフライ級王者シーサケット・ソールンビサイ(タイ)、IBF王者ジェルウィン・アンカハス(フィリピン)、あるいはWBO世界バンタム級王者ゾラニ・テテ(南アフリカ)ら著名どころと続けて対戦し、圧倒的な勝利を収めることができれば……。

 パッキャオはもちろん、ゴンサレス、ガンボアといった軽量級の“中スター”に続くのも簡単なことではない。ただ、それができるとしたら、現時点での最有力候補は間違いなく井上のはずである。