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「本当は教えたくないのですが……」と、人事のウラを知り尽くしたコンサルタント・平康慶浩氏は語る。毎年、査定前に提出を求められる人事考課シート。成果を高めにアピールすべきか、謙虚に控えめにすべきか。人事評価を上方修正できるものなら、そうしたい。なんと心理学に基づく「正しい書き方」があった――。

■実際の自己評価よりも1段階高くつけよう

人事考課シートは、上司と部下とのコミュニケーションツールです。したがって、上司の心理を上手に利用すれば、評価は上がりやすくなります。

行動心理学では、上司が部下を評価する際に、部下の自己評価に引きずられる「アンカリング」が起こると考えられています。アンカリングとは、「最初に示された基準が、その後の判断に影響を及ぼす」という人間が本来持っている癖のことです。

例えば、5段階評価で、部下が自己評価を3にしたとします。すると上司は、3を基準にして、2から4の間で評価する傾向があります。もし、部下が自己評価を4にすれば、上司は4を基準に3から5の間で評価する傾向が強まります。部下の行動をすべて把握している上司は少ないでしょうから、多くの上司は部下の評価に自信がありません。部下の自己評価に引きずられやすいとも言えます。

したがって、自己評価を高めにすると、上司の評価も高くなることが期待できます。とはいえ、自己評価があまりにも高すぎると、上司から「自分を客観的に見られない人」と受け止められてしまうリスクもあります。アンカリング効果をねらうなら、実際の自己評価よりも1段階高くつける程度に留めておくとよいでしょう。

自己評価が記述式の場合は、「何を達成・実現したか」という結果をしっかりと書いてアピールすることが大切です。期初に設定した目標を達成できた場合は、達成したことだけでなく、自分自身の成長もアピールしましょう。自分がどのように成長して、昨期とはどこが変わったのか。例えば、「初めてのお客様とのコミュニケーションは苦手でしたが、今期はその弱みを克服し、飛び込み営業でも会話ができるようになりました。その結果、新規開拓によって売り上げ目標を達成できました」というように、売り上げを達成したことだけでなく、さりげなく自分自身の成長に触れておくと、上司に「去年より高く評価しておいたほうがいいかな」と心理的プレッシャーを与えることができます。

■目標未達でも評価を高める方法

逆に、目標を達成できなかった場合は、その理由として環境変化を挙げるのが有効です。例えば、取引先が倒産した、顧客の事情で取引を打ち切られたなど、当初想定していなかった環境変化が起きたために達成できなかったことをアピールするのです。このような環境変化を示すと、「そうか、大変だったな」と上司の共感を得やすくなります。

営業職などのように、成果を数値で定量化できる業務は目標達成の度合いが明確です。しかし、定量化できない業務の場合、目標を達成できたかどうかが曖昧で、上司と部下との間で齟齬が生じやすくなります。そのような事態を避けるためのキーワードが「状態条件」です。「この状態なら目標を達成したと言える条件」のことで、状態条件を明確に示せば、上司は正しい評価をしやすくなります。

例えば、目標の定量化が難しい人事業務の場合、「期末までに新しい人事制度を完成させる」といった状態条件を設定します。これだけだと、評価の時点で上司と部下との間で齟齬が生じやすくなります。部下は、新たな人事制度をつくり、取締役会で承認を受ければ「完成」だと思っていたとします。しかし、上司は、その後に組合と折衝し、全従業員への説明会を行い、全員が内容を把握している状態を「完成」と考えていたとします。これだと、上司からすれば、部下は目標未達ということになります。上司の正当な評価を得るためには、状態をより深く掘り下げて書くことが大切です。

この場合、先述の環境変化を組み合わせることで、評価を高めることができるかもしれません。例えば、「1月の取締役会で承認を得た後、社長交代があり、新制度の内容を一から見直すことになった。これは自分にはどうすることもできない環境変化だった」ということを示せば、たとえ目標は未達でも、やむをえない事情があったと認められ、評価が高まる可能性があります。

■「特別視する感情」を上司に働きかける

人間の持つ「特別視する感情」に訴えかけることも有効です。上司の「うちの部下はよその部下よりもかわいい」という心理に働きかけるのです。登場人物を個性豊かに描くことで、読者の共感を獲得しようとすることは、少年マンガに限らない物語づくりの王道です。心理学では、互いのことをよく知れば知るほど、敵に対して一致団結しやすい、という実験結果もあります。職務や成果に関係しないと思われる個性をも知り合うことで、共感が生まれやすくなるという癖が人間にはあります。

この癖を利用して、自分のことだけでなく、「同僚の○○さんに助けられた」など、同僚たちの個性をアピールすることで、上司の部員全体への愛情が強まり、結果としてあなたの評価も高まる可能性があります。

逆に、自己評価を書くうえで避けたいのが、「反省・謙虚・控えめ」です。目標未達の場合、反省点をシートに書くと、上司には仕事のできない人に見えてしまいます。また、謙遜して控えめな自己評価をすると、実際よりも能力が低い印象を上司に与えますし、過去数年分の人事考課シートをもとに昇格審査を行うときにも不利に働きます。これらはつまり、マイナスのアンカリングが起きてしまうためです。

これらのポイントに応えられるような内容を書き、実践することができれば、上司から喜ばれ、経営層や人事からの評価も高まるはずです。

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平康慶浩(ひらやす・よしひろ)
セレクションアンドバリエーション代表取締役、人事コンサルタント。1969年、大阪府生まれ。早稲田大学大学院ファイナンス研究科MBA取得。アクセンチュア、日本総合研究所等をへて、2012年から現職。大企業から中小企業まで150社以上の人事評価制度改革に携わる。大阪市特別参与(人事)。
 

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(セレクションアンドバリエーション代表取締役 平康 慶浩 構成=増田忠英 写真=PIXTA)