『イット』『ゲット・アウト』軒並み大ヒット! ハリウッドでホラー映画がリバイバルした背景

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 2017年も終わりが近づいてきたが、振り返ってみると今年のハリウッドはホラー映画の存在感が強かった。90年代後半から2000年代にかけて、『スクリーム』(1996年全米公開、以下同じく全米公開年)、『ファイナル・デスティネーション』(2000)などメジャーどころから、『ザ・リング』(2002)、『THE JUON/呪怨』(2004)などの日本のホラーリメイク、『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』(1999)や『パラノーマル・アクティビティ』(2009)シリーズなど超低予算疑似ドキュメンタリー系、さらには目を背けたくなるような拷問の数々『ソウ』(2004)など、強烈なヒット作はあったが、今年は『ゲット・アウト』『IT/イット “それ”が見えたら、終わり。』『スプリット』『アナベル 死霊人形の誕生』『ジグソウ:ソウ・レガシー』など、オリジナル作品、リメイク、続編ものを含む様々なタイトルが公開された。さらにもう1年遡ると『ドント・ブリーズ』(2016)、『ライト/オフ』(2016)などのタイトルもあり、新たなホラー映画のトレンドがきていると言えそうだ。

参考:『イット』、公開3週目で1位奪取! アタリハズレの激しいホラー映画興行の今後を考える

 これらのホラー作品の躍進ぶりを、まずは興行成績で見てみたい。The New York Times紙は、10月26日付けで『2017:ホラー史上最大の年』と題した記事を出した。こちらは『エクソシスト』(1973)をはじめ、ホラーというジャンルの中でも特に現代に通じる作品が作られ始めた1970年代から、各年代のアメリカのホラー映画全体の興行収入を比較したもので、今年はその歴代最高を記録したと述べている。対してIndieWire誌は、この記事で比較されている数字が、物価の高騰を考慮していないとして、全体の興行成績の中にホラーが占める割合を持ち出して反論したりもしているのだが(割合で比較すると、『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』『シックス・センス』などの活躍によって1999年が1位で全体の12パーセントとなり、2017年は7.5%である)、こういった比較はさておき、2017年の作品ごとの成績を見ると、特にユニバーサル、そしてワーナー・ブラザースとその傘下にあるニュー・ライン・シネマからの作品が頭一つ抜け出ている。

 ユニバーサルには『ゲット・アウト』『スプリット』、そしてハロウィン前の10月13日金曜日に全米公開された『Happy Death Day(原題)』のタイトルが並ぶ。10月に日本でも公開された『ゲット・アウト』は、わずか450万ドルの製作予算ながら、全世界で約2億5339万ドル(11月22日現在)の興行収入をあげた。ちなみに本作とほぼ同じ予算規模の400万ドルで作られた今年のアカデミー作品賞受賞作『ムーンライト』の興行収入は約6505万ドルであり、『ゲット・アウト』は実にその4倍近くに上る。

 一方のワーナー・ブラザースから公開された、スティーヴン・キング小説に基づく『IT/イット “それ”が見えたら、終わり。』は、製作予算はホラー映画としてはやや規模が大きい3500万ドルながら、全世界で6億8802万ドルの興行収入(11月22日現在)を叩き出している。ここまでくると、製作費1億ドル以上のスーパーヒーロー映画など、いわゆるテントポール作品と同じ規模のヒットである。また、ワーナー傘下のニュー・ライン・シネマからは『アナベル 死霊人形の誕生』と『ライト/オフ』が公開された。

 ところで、今回のリバイバルを生み出したタイトルには、過去のホラー作品と何か違いがあるのだろうか? この質問に答えているのは、ヨーロッパを拠点に多くのホラー映画を扱うDevilworks社でセールス&マーケティングディレクターをつとめるマッテーオ・ロッレーリ(Matteo Rolleri)氏。彼は、今年の欧米での映画マーケットで、ホラー映画の売り買いが活発であることを認めた上で、「近年の新しいホラーは、単純に映画としてこれまでよりも優れた作品であり、より良い物語と強力なキャラクターを持っている」(The Hollywood Reporter)と述べている。

 確かにここ数年で作られた作品は、これまでの怖さやグロさをひたすら追い求めた作品や、モンスターとの対決に主眼をおいたフランチャイズとは、キャラクターの見せ方やそこから生まれるストーリーの質という点で大きく異なっている。例えば、『ゲット・アウト』は、アメリカ社会で依然として存在する人種差別に対する監督の強いメッセージは、それに共感する多くのオーディエンスから支持を集めた。また『IT/イット』は、仲間との絆や恐怖に立ち向かうことをテーマにした青春映画という一面もある。歴史的に、モンスターのインパクトや、アイディア頼みの作品作りが長く続いてきたハリウッドのホラーであるが、上のような要素をストーリーの中に含むことで、オーディエンスからより強い映画への共感を引き出すことに成功したのである。また『アンフレンデッド』(2015年)というSNSをストーリーの中心に使った作品の出現は、SNSがもはや世界的に生活に欠かせないツールとなっていることの表れであるし、ジェームズ・マカヴォイが20以上の人格をもつ男を演じた『スプリット』など、俳優にとっても演じがいのある役柄の存在は、パフォーマンスの質をもあげるという好循環につながる。

 これらホラーのリバイバルを語るにあたって、アメリカのプロデューサー、ジェイソン・ブラムの存在を外すことはできない。彼は『パラノーマル・アクティビティ』シリーズをはじめ、『インシディアス』、上で何度も述べた『スプリット』や『ゲット・アウト』など、数多くのホラー映画で成功を納めてきたが、同氏はプロデューサー主導による映画製作が多いハリウッドにおいて、監督にクリエイティブ面での最終決定権を与えることで、ストーリーの質を高く保とうとしている。彼が手がけ、10月13日の金曜日に全米公開された『Happy Death Day』(日本公開未定)は、「アメリカの女子大生がタイムループにはまり、自分が何者かに殺される日を延々と繰り返す」というコンセプトがきわめて明確な作品で、公開直後の週末の興行収入では、公開2週目の『ブレードランナー 2049』を退け、全米第1位のヒットとなった。

 ハリウッドでは、ジェイソン・ブラムの名は低予算で、かつエッジのきいたホラー映画を成功に導くプロデューサーとしてよく知られている。彼は、これまで手がけた作品について、『パージ』(2013)にしろ、『パラノーマル・アクティビティ』にしろ、誰も引き取りたがらない作品を手がけてきた、と話している。ホラーは過去のヒット作が証明してきたように、アイディア次第では低予算で作ることができ、スター俳優を起用せずともヒットの可能性がある数少ないジャンルであると言われているが、言い換えると、プロデューサー側は非常に低いリスクで製作が可能ということになる。そこで彼は、ハリウッドでまだあまり知られていない監督・脚本家によるホラー作品に500万ドルほどを出資し、監督のクリエイティブ面での自由を尊重しながらも、作品を商業的成功に導く役目を請け負う。当たれば大きく、外れても大きな損害とはならない。そうやってジェイソン・ブラムは、独特のビジネスモデルを確立した。

 ホラー映画は長い間、映画館に足を運ぶメインの層である若いオーディエンスにぴったりのジャンルであり続けてきたが、近年のリバイバルでは、様々な社会問題やより多面的なキャラクターといった要素を加え、ストーリー自体も魅力的な作品として進化した。これまでホラー映画がアカデミー作品賞から冷遇されてきたのも、このストーリーの深みと無関係ではないはずだが、ジャンル全体として新たな境地に達したことをハリウッドが目の当たりにしたことで、例えば『ゲット・アウト』はこれからアメリカで本格化する賞レースにおいて、善戦する可能性も囁かれている。2018年以降も『ハロウィン』のリブートや『ストレンジャーズ/戦慄の訪問者』の続編『The Strangers:Prey at Night(原題)』(日本公開未定)といった期待作が控えているが、このリバイバルはまだ続きそうだ。(田近昌也)

参照・Box Office Mojo・http://www.hollywoodreporter.com/heat-vision/why-2017s-hit-horror-movies-are-just-beginning-revived-genre-2017-1054515・https://www.nytimes.com/2017/10/26/movies/top-horror-movies-box-office-it-get-out.html?_r=0・https://www.hollywoodreporter.com/news/nbcuniversal-signs-producer-jason-blum-719860・https://www.hollywoodreporter.com/heat-vision/happy-death-day-why-horror-movies-are-terrifying-hollywood-studios-1048986・http://variety.com/2017/film/news/jamie-lee-curtis-halloween-finale-set-2018-1202560418/