12月8日から日本で開催されるEAFF E-1サッカー選手権決勝大会(東アジア選手権)を前に、なでしこジャパンはヨルダン遠征を敢行した。そして来年行なわれるアジアカップの開催地で格下のヨルダン相手にゲームを支配し続け、2-0で勝利をおさめた。この結果をどうとらえるか――。


FWとしての役割をしっかりと果たした岩渕真奈

 現地入りしてからのトレーニングは、対ヨルダンではなく完全にE-1大会を視野に入れたものだった。先月行なわれたスイスとの一戦では着手できなかった守備にも時間を割き、ファーストディフェンスのタイミングや2度追いの習慣化を徹底した。

 一方の攻撃面では、ワンタッチパスでリズムを生むコンビネーションや、最終ラインからの組み立てなど、3日間という短い期間ではあったが2部練習を組んで、これまでの海外遠征で露呈していた課題に取り組んだ。

 まだまだ女子サッカー界では発展途上にあるヨルダン。守備を固めてくるであろう相手をどう崩していくのか。日本にとって、この試合は確かな攻撃の手応えがほしいと臨んだ一戦だ。

 センターバックは熊谷紗希(リヨン)と三宅史織(INAC神戸)、右サイドバックに大矢歩(愛媛FC)、左サイドバックに万屋美穂(ベガルタ仙台L)と、最終ラインは成長を促したい人員中心の配置となった。2列目は、ボランチの阪口夢穂(日テレ・ベレーザ)の相棒に猶本光(浦和レッズL)。右に中島依美(INAC神戸)、長谷川唯(日テレ・ベレーザ)。トップには櫨(はじ)まどか(伊賀FC)と、試合直前に横山久美(フランクフルト)に代わって急遽起用となった岩渕真奈(INAC神戸)が入った。

 まず、自陣に腰を据えるヨルダンをなんとかはがそうと、ポジションを自在に変えながら選手たちが動く。機動性に富んだ中島、長谷川らが中央へ動けば、櫨もサイドやトップ下へ流れ、阪口はあえて深めにポジションを落として相手を引き出そうとする。そこには通り一辺倒な攻撃にはしないという意識を感じ取ることができた。余裕のある最終ラインも積極的に攻撃参加する。特に熊谷は前線へのロングフィードを狙っていて、そのひとつが実を結ぶ。

 26分、熊谷の蹴り出したボールは、DF裏を伺う岩渕の足元にピタリとおさまった。得意のターンで相手DFを置き去りにすると、左足を振り抜いた岩渕らしいゴールを決めた。さらにその4分後、再び岩渕がゴールネットを揺らす。2列目まで落ちていた岩渕が、逆に位置を上げていた阪口へパス入れ、阪口は体勢を崩しながら懸命に足を伸ばして岩渕へ戻す。そのボールを岩渕が今度は右足でしっかりと決めた。「2点目は”崩した”実感があった」と本人も語るように、待望のリズムあるワンタッチパス絡みのコンビネーションゴールだった。

 最終スコア2-0のこの試合で2ゴールを挙げた岩渕――。ゴール後、喜びを爆発させる風でもなかった岩渕の表情は、これらのゴールは”当然”のこととすべき相手だという彼女の意識を物語っていた。とはいえ、ゴールを生んだ確かな技術と戦術能力の高さに加え、触れずとも、地道なプレスや、ボールに触るため運動量が増えることを承知で位置を落とすプレーを見せた上でのゴールであったことの方は意味深い。

 そしてもうひとつ、後半の岩渕にも大きな変化を感じた。56分、右サイドに流れた岩渕が相手を振り切りグラウンダーのパスをゴール前へ送ると、そこへ走り込んだのは後半からトップに入った上野真実(愛媛FC)だった。完璧なタイミングながら、決めることはできなかったが、この直後、岩渕は上野に言葉をかける。

 「この試合中に絶対に点を取ろう!自分で(シュートを)打っていいから」

そこから岩渕は周りを”活かす”プレー、すなわち”点を取らせる”プレーに重きを置くようになる。

「私は今までさんざん先輩から”活かして”もらってきた。それを自分がするときが来たんだと思う」(岩渕)

 上野は遠慮からか、自分が活きるよりも、他者を活かすパスを優先させる傾向がある。その意識を岩渕は崩したかったのだ。こういう立場に立った岩渕自身の成長が、結果重視の短時間起用が多かった岩渕を自身代表初の90分間フル出場へと導いたのかもしれない。

 また、ボランチのコンビによる特色も顕著となった。前半に阪口と組んだ猶本は攻撃型。阪口が組み立てを担い、猶本は前線をサポートする。攻守において相手をいなしながら、揺さぶりをかけていた。

「前が詰まっている分、開いて絞ってとワイドの揺さぶりを意識していました」(猶本)

 あいにくバイタルエリアは密集地帯で、必ずしも猶本の試したい形は取れなかっただろう。それでも阪口との距離感は以前よりも掴みつつあることは確かだ。

 後半に阪口とペアを組んだ隅田凛(日テレ・ベレーザ)はチームメイトということもあり、あうんの呼吸がある。対戦相手によって多彩なボランチペアが組めることは、熟成されていけば大きな強みになるだろう。

 ただ、完全に試合を掌握していながら、2得点にとどまったことは手放しで喜べる結果ではない。形は作ることができても、ゴールに結びつかなければゼロも同じだ。

 高倉麻子監督の表情も渋かった。「岩渕が2ゴールを決めてくれたことはよかったけど、ラストパスやシュートで簡単に相手の読みに引っかかったりというのは……物足りない」

 指揮官が掲げる”誰が起用されても落ちないクオリティ”と”最大限に与えられる自由”をピッチの11人で体現することは、生半可な気持ちでできるものではない。固定スタメンをあえて決めない中で、選手それぞれに与えられる1回1回の出場機会は単なるトライでなく、覚悟を持ったチャレンジにしなくてはならない。そこにベテランと新人の垣根は必要ない。E-1選手権では、失敗はあっても、ピッチのどこを切り取ってもその覚悟を感じることができるプレーを見せてほしい。

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