現代の人類は糖質まみれの生活を送っています(写真:ぱぱ〜ん / PIXTAピクスタ)

『炭水化物が人類を滅ぼす』の刊行から4年。糖質制限を取り巻く社会の状況は大きく変化した。スーパーや外食チェーンには糖質オフ商品が続々登場。今や糖質制限市場ともいうべき巨大マーケットが形成されている。その続編となる『炭水化物が人類を滅ぼす【最終解答編】植物vs.ヒトの全人類史』では著者の夏井睦氏が「糖質セイゲニスト」の立場から、全人類史を読み直すという新たな試みに挑む。

前著『炭水化物が人類を滅ぼす』の冒頭で、私は「50代後半のオッサンが糖質制限半年で11キロの減量に成功し、腹囲も10センチ減った」と書いたが、じつは現在もスリム体型を維持している。本書の執筆中に還暦を迎えたが、体重は12キロ減の58キロのままだし、ジーンズはユニクロの28インチのスリム・スキニーだ(同社のメンズ・ジーンズで一番細いタイプである)。

体調は絶好調であり、風邪ひとつひいたことがない(風邪をひいていることに気が付かないほどのバカ、という可能性もゼロではないが)。健康診断の血液検査はどれも異常はなく、特に肝機能は、休肝日なしにもかかわらず完璧に正常値であり、二日酔いになったことは一度もない。そしてこの間、糖質制限を取り巻く社会の状況も大きく変化した。

糖質制限批判派の衰退

私は2011年12月に個人サイト『新しい創傷治療』で糖質制限について書き始めたが、当時、糖質制限は糖尿病の治療法の1つであって、一般にはほとんど知られていなかった(実際、私は2011年11月まで糖質制限という言葉を知らなかった)。

しかし、2012年1月頃から、ネットを中心に「メタボ中年オヤジでも短期間で確実に痩せる驚異のダイエット法」と話題になり、糖質制限を実践する人が増え、糖質制限に関するインターネットサイトやブログが一気に増え、情報が飛び交うようになった。同時に、私の糖質制限の師匠である江部康二先生(京都・高雄病院)の著書が爆発的な勢いで売れ始めた。どうやら、糖尿病ではない人がダイエット目的に購入したらしい。

そして2013年10月に、前著『炭水化物が人類を滅ぼす』を刊行。2014年1月から、私はテレビのバラエティ番組などに出演するようになったが、その頃から糖質制限という言葉はマスコミでたびたび取り上げられるようになった。

それでも、2014年上半期は、糖質制限に批判的、懐疑的なマスコミ記事が多く、「糖質制限は危険」という新刊書も何冊か出版された。しかし同年下半期になると、テレビで糖質制限の討論番組を企画しても、討論相手(=糖質制限批判派)が見つからない、いてもテレビに出たがらない、という状態になった。

2015年になると「ダイエットの基本は糖質(炭水化物)制限」という記事をよく目にするようになり、同時に、糖質制限やローカーボ(低炭水化物食)の解説本、レシピ本は、毎月のように新刊が出版されたが、一方で、新たな糖質制限批判本はほとんど出版されなくなった。

この変化に歩調を合わせるように、糖質ゼロの第三のビールや、糖類ゼロの缶酎ハイの新商品が次々と発売されてコンビニやスーパーの定番商品となり、低糖質食品(麺類、パン、スイーツなど)も次々と販売された。消費者の商品選択の基準の1つに「糖質オフ・低糖質」が定着したのだろう。

また、低糖質メニューを提供するレストランも次第に増えているし、長崎ちゃんぽん最大手のチェーン店では「麺なしちゃんぽん」が人気商品である。「麺の代わりに豆腐」が選べる「行列のできるラーメン名店」まで登場し、テレビのニュース番組が特集を組むようになった。

私が一番最初にテレビのバラエティ番組に出演したのは2014年1月だったが、その際、「これから糖質制限をしてみようという人はいらっしゃいますか」という私の問いかけに、挙手した人は50人中たった数人だったことを思い出すと、まさに隔世の感がある。

痩せるなんて簡単だった

まずは前著の補完的復習である。糖質制限とは何か。読んで字の如く、「糖質」と呼ばれる一群の食物成分の摂取量を減らすことだ。

なぜ、糖質摂取量を減らすのか。理由は、そうするだけで、ほとんどの人は、次に示すように、まるで生まれ変わったかのごとく体調が良くなるからだ。

●大多数の人は短期間で体重が減り、メタボ腹が凹んでスマート体型になる。
●不眠症やうつ症状が治る。
●高血圧、高脂血症が治る。
●肝機能が良くなる。
●歯周病が治る。
●思春期のニキビが治る。
●肌のさまざまな不調(脂漏性皮膚炎、アトピー性皮膚炎など)が改善する。
●花粉症の症状が軽くなる。
●食後の眠気がなくなる。
●頭がスッキリして、脳みそがバージョンアップしたような爽快感が得られる。
●子どもは集中力が増して成績がアップする。
●子どもがキレなくなる。

逆に、糖質制限で体調が悪くなったという人はほとんどいない。糖質制限をしているのになかなか痩せない、という人もいらっしゃるが(残念なことに女性に多いようだ)、そういう人でも体調は確実に良くなるのだ。
唯一の予期せぬ副作用は、服がダボダボになって合わなくなり、買い直さざるをえなくなることだ。

この出費はちょっと痛いが、「若い頃のスーツがまた着られるようになって嬉しい」と前向きに考えてほしい。そして何より、痩せると、若者向けの低価格ブランドでも格好良く着こなせるようになるのだ。肥満者が安物を着ると貧相に映るが、痩せると安物でもオシャレに見えるのだ。そしてさらに、若者向けピチピチ系ブランドの服も似合うようになる。

要するに、糖質制限とは、糖質により損なわれた健康不調から脱却して、本来の健康を取り戻すための健康法・食事法であり、その一環として「体重が本来あるべき値に戻る」と考えるとわかりやすい。

ダイエット法は掃いて捨てるほどあるが、それらと比較すると、糖質制限の優位性は明らかだ。糖質制限は努力なしに簡単に行うことができ、糖質制限を続けている限り、体重が元に戻ることもメタボ腹になることもない。つまり、リバウンドがない。

糖質制限では高価なサプリメントは必要ないし、ハードなトレーニングや運動も必要ない。値段の高い食品を買い求めなくてもいいし、それどころか、コンビニで買える食品で今からでもすぐに始められるし、激安系居酒屋チェーン店でも完璧な糖質制限食が食べられる。油っこい揚げ物も食べていいし、糖質が含まれていないお酒なら健康を害さない範囲であればいくら飲んでもいい(糖質制限で肝機能が良くなるから)。

ダイエット法としてのハードルの低さにおいては、まさにこれより低いハードルは存在せず、お気楽さと容易さで他の追随を許さないのが糖質制限だ。

問題は、最後の「初期人類(先史人類)の姿」

なぜ、初期人類の研究者でもない私が初期人類について書こうと思ったのか。じつは糖質制限について考えていく上では、初期人類の食は避けて通れない問題だ。だから私は、初期人類についての本を手当たり次第に読んで勉強したが、次第に違和感を感じるようになった。後述するように、初期人類は「糖質摂取ゼロ」生活だったのに、糖質ゼロでは絶対に起こりえない生理現象を大前提にして書いてあるからだ。


要するに、糖質を摂取している現代人と、糖質摂取ゼロの初期人類は、全く別物なのだが、過去の初期人類に関する研究書にはこういうおかしな部分が少なくないのである。

これに気が付くのは、「糖質制限をしていて、かつ、初期人類についての知識が(多少)ある人間」だけである。となれば、私がしゃしゃり出てもいいだろう。この2つの条件を(一応)満たしているのは、現時点では、世界広しといえども私くらいのものだからだ(……たぶん)。

今なら、大風呂敷を広げて大胆な仮説を発表しても、「糖質を食べている初期人類専門家」から反論を食うことはそうそうないだろう。

糖質制限をしている人しか知らない事実に基づいて書いているからだ。とはいっても、グズグズしていたら糖質制限はさらに広まり、「糖質制限をしている本物の研究者」が登場しかねない。そうなったら手遅れだ。