SUPで交流を図るアカツキ社員。写真右はCOOの香田哲朗氏(写真:アカツキ)

ぐるっと360度見渡す限りの自然。穏やかな湖面を、サーフボードより大きめのボードをゆっくりとパドルで漕いで進んでいく。雄大な自然の中で、のんびりと「水上散歩」をしていると、都会でのバタバタした日々が遠くなる気がする。近年、「スタンドアップパドル(SUP)」を楽しむ人が増えているというのもうなずける。

都内にあるゲーム開発会社、アカツキの共同創業者でCOOの香田哲朗氏も、SUPにはまっている1人。友人に誘われて、今年のゴールデンウイークにデビューした。それ以来、「前日、夜中まで飲んでいても、早朝5時に起きてSUPに向かう」ほど。普段は、海でSUPをすることが多いというが、6月末には、山中湖で行われたレースにも出場した。

時には社員を連れ立って

しかし、忙しい経営者がなぜ、わざわざ遠出をして水遊びに勤しむのか。


海でSUPをすることが多いという香田氏。前日遅くまで飲んでいても行ってしまう(写真:アカツキ)

「今の人は、日々の中で処理をしないといけない情報の量が増えていて、脳が疲れている。特にIT企業に勤めていると、スラックやLINE、メッセンジャーとつねに誰かとメッセージをやり取りしている状態になってしまう」と香田氏は言う。「近年、シリコンバレーではマインドフルネスがはやっているが、SUPもそれと同じように『脱インターネット』の一環。ぼーっとする時間がないと、無限にモノを考えてしまうし、めちゃくちゃリラックスできるから、家で寝ているよりいい」。経営者仲間にも、SUPにはまっている人は少なくないという。

6月には、アカツキでゲーム開発をしているエンジニアたちと連れ立って、SUPに出かけた。インドアのイメージが強いエンジニアだが、SUPで洞窟をくぐり抜けたり、陸に上がったあとはシャンパンで乾杯したりと大いに盛り上がった。普段は接点のない社員との交流も深まったようだ。

香田氏がアカツキ社員をアウトドアレジャーに連れていくのには、理由がある。ソーシャルゲーム開発を主力としている同社だが、実はもう1つの事業がある。それは「ライブエクスペリエンス事業」で、そのうちのひとつが「そとあそび」と呼ぶ、アウトドアレジャー予約サイト。昨年7月に14億円で買収したそとあそびは、この分野では老舗で、現在でも同社を率いる創業者の山本貴義氏はアウトドア業界では、知られた存在だ。

「ワカサギ釣りの体験ツアー」「スノーシュー・スノートレッキング体験ツアー」。そとあそびのサイトをのぞくと、定番の乗馬やラフティング、パラグライダーなどから「こんなアウトドアレジャーがあったのか!」と思わせるようなものも含めて、さまざまな種類のアウトドアレジャーが掲載されている。

最大の特徴は、山本氏が立ち上げた時代から「キュレーター」と呼ばれる9人のガイド役がそれぞれの事業者を取材し、自ら体験したものを掲載していること。多くの人はネットで検索するだろうが、アクティビティによっては価格差もあるため、結局どこの事業者がいいのか迷うことが少なくないはずだ。

そとあそびでは「安全性はどうか」「ちゃんとしたガイドかどうか」など、アウトドアのプロが目利き役となって事業者を選んでいるため、初心者でもわかりやすい。一方、「事業者側もいろいろな思いを持ってやっているところが多い。アウトドアをわかっている人が語ってくれると、事業者からも信頼を得ている」(香田氏)。

ゲームのような爆発的ヒットは見込めない

ライブエクスペリエンス事業にはこのほか、施設やイベントなどの予約サイト「Wowful」もある。11月13日に同社が発表した2017年4〜9月決算では、モバイルゲーム事業の割合が圧倒的に高いため、ライブエクスペリエンス事業の業績については非開示とした。決算資料によると、そとあそびの売上高は前年同期比40%伸びているが、今後どの程度のスピード感で事業が拡大するか未知数だ。

香田氏自身も「そとあそびは春と秋に1回ずつ使ってもらうようなサービスになればいい」と、ユーザーに、ゲームのような「深い」関わりを求めているわけではない。

今後日本人の利用頻度向上や、外国人の利用者の増加を見込めることを考えれば、そとあそびが成長するポテンシャルはある。とはいえ、ゲームのような爆発的な「ヒット」を見込める事業ではないだろう。

となると、アカツキがゲームとは程遠いと思えるそとあそびなどの事業を取り込んでいるのはなぜだろうか。

理由の1つは、同社が「リアルエクスペリエンス」と呼ぶ体験型の非ゲーム事業の拡大に力を入れていることにある。同社は今期、ライブエクスペリエンス事業に10億円を投資するとしており、11月半ばには、サバイバルゲームフィールドなどを運営するアソビバと、パーティ運営やケータリングサービスを手がけるアプトを、約7億円投じて子会社化。両社を統合し、より総合的な体験型コンテンツを開発を目指すライブエンタテインメント事業を立ち上げる予定だ。

世の中の関心が、モノ消費からコト消費に移っていると言われて久しい。こうした中、香田氏は「あらゆる体験において、いかに感情に訴えられるか」が、コト消費、あるいは、コトにひも付いたモノ消費のカギを握ると見る。つまり、単に何かを体験するだけでなく、その体験が感情に響くほど特別でなければ意味がなく、そのためには、体験する場所や、一緒に体験する人、体験そのものの質が重要になってくるというわけだ。

そういう意味では、アウトドアレジャーは特別感が強いといえる。たとえば、あるSUP体験では、休憩中にガイド役が自ら焼いたパウンドケーキと紅茶が振る舞われるが、こうしたちょっとした「おまけ」が体験の質を上げる。これはアウトドアでしか得られない体験かもしれないが、そとあそびに参加するユーザーの反応や感想などをもとに、「何がユーザーの心に訴えるのか」を研究し、新たな体験型コンテンツ開発に生かすことは可能だろう。

リアルのノウハウはゲームにも生きる

もう1つの狙いは、体験型事業で培ったノウハウなどを、ゲーム事業に生かすことだ。前述の「感情に訴える」体験は、ゲーム開発でも重要になってきており、リアルとデジタルの境界が重なったコンテンツが増えていくことが見込まれている。今後はたとえば、あるゲームコンテンツを主軸に、それを体験できる施設や関連グッズを売る展示会の開催なども考えられる。

また、香田氏はアウトドアレジャーでは、一緒に体験する人たちにある種の「コミュニティ」が形成されることに注目する。確かにアウトドアレジャーでは、初心者同士がともにうまくなっていく過程を共有することで、知らない者同士がいつの間にか仲良くなっていることがある。こうしたコミュニティや共有体験は、ゲームにも共通するため、アウトドアのプラットフォームを、ゲーム事業のユーザー開拓にも生かせるのではないか、と見ている。

それでも、ゲームとアウトドアは対極にあるため、すぐに相乗効果を出すのは難しいかもしれない。重要なのは、アウトドア事業や、新たに設立するライブエンタテインメント事業で蓄積する顧客情報やノウハウを、ほかの事業で共有できるかどうか。企業規模にかかわらず、買収後に子会社と情報が共有できていなかったり、従業員が交わらなかったりする例は少なくない。それこそ、前述のようにリアルの場で、普段は交わることのない従業員たちが交流し、積極的に意見を交換したり、体験を共有できるような社内での仕掛けがカギを握るのではないだろうか。