つかこうへい最後の愛弟子・馬場徹に注目! 『陸王』銀行員・大橋役で生きる“テニミュ”の経験

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 11月19日放送の『陸王』第5話では、ランニングシューズ「陸王」で扱うことになったシルクレイを生かして開発した地下足袋、「足軽大将」がヒットしたこはぜ屋。しかし、毎回のことながら、ひとつ前に進んだと思ったら、次々と新たな困難が彼らの前に立ちはだかる。

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 今回は、この「足軽大将」のヒットを受けて銀行の融資を受けられることになるのかと思いきや、「足軽大将」がヒットしすぎたことで、縫製課の中での最長老の冨久子(正司照枝)が倒れてしまい、生産が追い付かなくなる。その上、シルクレイの機械を動かしていた飯山(寺尾聰)までもが入院する事態に陥ってしまう。

 そのことで、一時は融資を許可してくれる方向で動いていた、馬場徹演じる埼玉中央銀行の融資担当・大橋浩も、態度を一変してしまう。

 第5話では、この大橋の心の動きが見どころともなっていた。大橋は、もともとはこはぜ屋の新規事業に対して懐疑的で、いつもクールで感情の見えない人として描かれていた。そこは、前任の風間俊介演じる坂本の人間味のある温かいキャラクターと対照的だった。

 そんな大橋が単なる冷たいだけの人ではないように見えたのが、第5話であった。彼は、「足軽大将」のヒットのデータを見て「この売上は評価に値する」と稟議にかける方向で動きだしたのだ。

 その態度を見て「なんかよくわかんなくなってきたよ、あいつただのいけ好かない野郎だと思ってたけど」と社長の宮沢紘一(役所広司)がぼやくと、「彼は彼なりに銀行員としてのポリシーがあるんでしょう」とこはぜ屋専務の富島玄三(志賀廣太郎)が返す。

 ただ、こはぜ屋の「足軽大将」を作っている中の二人も倒れたとなると大橋とて、融資に前向きではいられない。「結果がすべて」とふたたび冷徹な表情を見せる。そのことで宮沢は、なんとか結果を出そうと奮起する。この過程を足しげくこはぜ屋に顔を出しては見ている大橋。結果、当初の希望の3000万とはいかないが、2000万の短期資金を融資することに落ち着く。しかし、予定額を融資できなかったことを、大橋は「私の力不足です」と認めるに至る。

 大橋が心を変えたのは、商品にならない「足軽大将」の山を見たことがきっかけだった。宮沢たちは「足軽大将」のかかとの部分に細かくてわからないくらいの傷があるものを不良品と扱っていた。大橋は、一度履いたらわからくなってしまうような小さな傷にも注意をはらう、こはぜ屋のプライドに心を打たれたのだ。

 ここでも、日曜劇場、特に池井戸作品では、細かい部分にも命は宿る、それに気づく人は善人だというセオリーにのっとった展開がなされている。大橋もまた、そんな細かい部分に宿る命がわかる方の人間だったのだ。きっと、彼がデータにこだわっていたのも、そんな細かい部分に注意を払うことで、結果が見えるという銀行員としてのプライドなのだろう。

 こはぜ屋のプライドにシンパシーを覚えた大橋は、前任の坂本がそうしたように、新素材を開発している織物メーカーを紹介する。そして、これまで、冷徹で表情を変えなかった大橋が、「新しい陸王、完成したら、私、買います」というセリフを言った瞬間、これまでのキャラクターとの落差もあり、宮沢社長と一緒に泣きたい気持ちにさせられた。

 この大橋を演じている馬場徹は、2007年にミュージカル『テニスの王子様』で舞台に初出演し、“テニミュ”を卒業後は、自らつかこうへいの作品に出たいと門を叩いた人でもあり、「つかこうへい最後の愛弟子」とも言われている。地上波連続ドラマに初めて出演したのは、日曜劇場の『ルーズヴェルト・ゲーム』であった。

 彼と同じく“テニミュ”出身者や舞台で活躍する若手俳優の取材をしていると、後輩たちから、馬場の俳優としての在り方と、芝居に憧れるという話を、何度も聞いたことがあった。そんな彼の俳優としての経験が、『陸王』でも生かされているなと感じた。(西森路代)